楽天の国内EC事業が5.6兆円を突破、10兆円を目指す カギはモバイル

ECのミカタ編集部

楽天グループ株式会社が2023年2月14日に2022年度通期および第4四半期決算を発表。代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が2023年は勝負の年であるとした(画像提供:楽天グループ株式会社)

楽天グループ株式会社(本社:東京都世田谷区)は2023年2月14日、2022年度通期および第4四半期決算を発表した。通期では国内EC事業を含む「インターネットサービス」のほか「フィンテック」「モバイル」の全セグメントで増収となり、売上収益は2桁増収で過去最高となる1.9兆円を計上。一方で巨額の設備投資を行った楽天モバイルの影響により、損失約3729億円で赤字となった。しかし代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、楽天モバイルの改善が楽天エコシステム(経済圏)の成長につながるとして、2023年は勝負の年であると力を込めた。

流通総額、顧客の定着率が高い楽天の国内EC事業

楽天市場の出店者にとって、まず気になるのは国内EC事業だろう。「楽天市場」や「楽天西友ネットスーパー」など楽天グループの2022年国内EC流通総額は、前年同期比で12.3%増の約5.6兆円となった。国内EC売上は約8000億円、Non-GAAP営業利益(※1)は約1000億円になる。

※1:GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)は「一般的に認められた会計原則」、Non-GAAPは企業側が参考値として開示する、「GAAP」をベースとした数値から、一時的な損益などを除いた調整後の数値。

楽天の国内EC事業は年間5.6兆円を突破。10兆円への早期到達を目指す(画像提供:楽天グループ株式会社)

コロナ明けで苦戦するEC事業者が多いなか、楽天はロイヤルカスタマーの醸成、新規顧客獲得のための販促活動、クロスユースの促進、共通の送料無料ラインの導入促進に加え、楽天エコシステムのオープン化戦略などに注力。そうした施策により、コロナ禍で拡大したオンラインショッピングの需要が定着したものと見られる。

コロナ明けに加えてインフレの影響も懸念されるところだが、例えば2022年末は価格上昇により顧客の購入頻度は若干減少したものの、購入価格には影響がなく売上は伸びており、2023年に入ってもその状態を維持しているという。インターネットで買い物をすることはすでに習慣化しており、その中でいかにお得な買い物をするかという方向に、顧客の興味は向かっていると見られる。価格競争や比較がしやすい楽天市場にとって、むしろ有利な状況と言えそうだ。他社と比べても流通総額は金額、前年同期比ともに高く、顧客の定着率も高くなっている。

楽天の国内EC事業流通総額は、他の主要EC事業者と比べて圧倒的な規模を持つ。顧客の定着率も高い(画像提供:楽天グループ株式会社)

国内EC事業の中で最大級の流通総額となっているのはファッション事業だ。楽天市場で取り扱うファッション関連ジャンルと「Rakuten Fashion(楽天ファッション)」の流通総額は、前年同期比10%増で1兆円を越えた。

ファッションが好調な理由について、コマース&マーケティングカンパニー プレジデント 武田和徳氏は成長率の高さの背景に、外出機会が増えたことによる購入動機の拡大があると説明。特に冬物衣料に関してはコート等高額商品の購入が進んだことによる売り上げ拡大を指摘した。

また三木谷氏は「Rakuten Fashion(楽天ファッション)」の果たす役割の大きさについて言及。「楽天市場のファッション部門のうえに、国内トップブランド、海外のスーパーブランドを集めたプレミアムな『Rakuten Fashion』を展開したことが好調に寄与しているだろう。『ファッションウィーク東京』のオフィシャルネーミングスポンサーを務め、『Rakuten Fashion Week TOKYO (楽天ファッション・ウィーク東京/RakutenFWT)』となったことで、サプライサイドからの信頼が厚くなってきていることも大きな要因」と話した。

楽天におけるファッション事業は国内でも圧倒的な規模となっている(画像提供:楽天グループ株式会社)

近い将来、国内EC流通総額は10兆円を目指すとしている。そのカギを握るのがモバイル事業だ。

関連記事:楽天市場の成長のカギ握る楽天モバイル 新春CFで三木谷氏

営業損失は「楽天モバイル」の初期投資によるもの

「楽天モバイル」はモバイル向けの通信サービスだ。以前はMVNO(Mobile Virtual Network Operator:他社の回線網を借りてサービスを提供する通信事業者)でサービスを提供していたが、2020年4月からは、MNO(Mobile Network Operator:自社で回線網を有する事業者)としてのサービスを開始している。2022年の売上は1910億円で前年同期比41.5%の増収だが、営業損失は4593億円で、モバイルセグメント全体では4928億円の損失となっている。これが楽天グループが計上した3728億円の損失の大きな要因だ。

ただしこの損失には、巨額の設備投資が大きく関係している。楽天は現在MNOとしては最後発であり、基地局設置等の設備投資を積極的に行い、全国人口カバー率98%の自社回線網を構築した段階だ。これまでの赤字は初期投資によるものと言える。

楽天のモバイル事業は積極的な設備投資の段階がほぼ終わり、2023~2024年に利益体制を確立するフェーズに移行する(画像提供:楽天グループ株式会社)

2023年からは利益体制を確立するフェーズに移行していく。設備投資が一巡することで人件費や外注費などが減少し、自前の基地局が増えることで、コストなどの問題があるローミング(自社の通信エリア外で、提携している他社の回線を使って通信サービス行うこと)データ使用量も引き下げられる。マーケティングはテレビCMなどのマスマーケティングから、効率的なインターネットマーケティングに切り替えが進んで効果を上げており、ユーザーが新しいユーザーを紹介するリファラルマーケティングにも取り組んでいる。こうした施策でコスト構造を改善し、劇的な収益改善を見込む。ユーザー層拡大の施策として、2023年1月からは法人プランも開始している。

2023年に自社回線網がほぼ完成し、それにより大幅なコスト減を見込む。楽天モバイルは、自社ソフトウェアによる仮想化通信技術により、将来的な設備投資を抑えられるのも強みだ(画像提供:楽天グループ株式会社)

楽天モバイル

楽天モバイル(MNO契約)ユーザーにより、楽天のサービス利用が増加する。MNO契約から1年間での平均サービス利用増加数は+2.61で、延べ1000万回以上の、楽天グループサービスの新規利用が生まれている。楽天市場においては、1ユーザーあたりの月額流通総額を平均で年間3万7683円、約49%も押し上げる効果をもたらしている。

楽天モバイル(MNO)と契約することで楽天サービスの利用が増え、1ユーザーあたりの楽天市場の流通総額を押し上げる効果をもたらしている

設備投資による巨額の赤字を計上してきたモバイル事業だが、コスト構造の改善により今後は収益改善が見込まれる。また、そのユーザーは楽天グループ全体の流通総額の増加をもたらす。オンラインショッピングの定着、楽天モバイルの収益改善と流通総額押し上げ効果により、楽天市場など国内EC事業はさらに拡大していきそうだ。


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