Amazon配送拠点新設で代表が語ったこと「置き配対応拡大でドライバー負担や環境負荷低減」

湯浅 英夫

アマゾンジャパン アマゾンロジスティクス代表のアヴァニシュ・ナライン・シング氏

Amazonは2023年7月6日、配送拠点であるデリバリーステーション(以下、DS)を2023年中に11カ所新設することを発表。これに合わせてメディア向け説明会が行われ、アマゾンジャパン アマゾンロジスティクス代表のアヴァニシュ・ナライン・シング氏が配送網拡充の取り組みについて説明した。DSは、商品が購入者の手元に届くまでの「ラストワンマイル」の拠点だ。発表された11カ所のDSのうち、静岡県三島市や栃木県宇都宮市、富山県富山市など7カ所はそれぞれ県内初の配送拠点となる。これによりDSは2023年内で50カ所以上になり、新たな雇用機会の創出につながるという。

Amazonの「ラストワンマイル」の配送プログラムとは

Amazonは、倉庫機能を持つ物流拠点であるフルフィルメントセンター(以下、FC)から商品を発送している。FCから発送された商品は、大きく2種類の配送網を経て購入者に届く。1つは、ヤマト運輸や日本郵便、佐川急便といった大手の配送業者によるもの。もう1つはアマゾンロジスティクスと呼ぶ独自の配送網で、FCから発送された商品はまずDSに届けられ、そこで仕分けされて購入者に届く。

商品をDSから購入者の手元まで運ぶ、いわゆる「ラストワンマイル」の配送プログラムは3種類ある。

1つはAmazon Flexプログラムと呼ばれるもので、Amazonと直接業務委託契約を結んだ個人事業主であるドライバー「デリバリーパートナー」が配送するもの。デリバリーパートナーは、所定の車を保有しているなどの条件を満たす20歳以上の人なら誰でも登録でき、稼働日や時間帯は自由に選択できる。日本各地に数千人のデリバリーパートナーがいる。

2つめは、デリバリーサービスパートナー(DSP)プログラムだ。Amazonが配送を委託するさまざまな規模の配送業者が地域に配送業者コミュニティを築き、各自の方法で配送するというもの。ドライバーの契約管理や支払管理などはDSP側が行い、AmazonはDSPが円滑に配送できるようにインフラや技術面でサポートする。例えばAmazonの配送アプリを利用することもできる。2023年3月には、配送ビジネスの起業を支援する次世代のDSPプログラムを開始し、提携する配送業者の範囲を広げている。

3つめは、Amazon Hub デリバリーだ。これは地域の中小企業が、仕事の空き時間を利用して、近隣に商品の配送を行うというもの。例えば飲食店や花屋、新聞配達店、雑貨店、写真館などが、副業としてAmazonの配送を請け負うプログラムだ。配送で街や地域を巡ることにより、本業の宣伝活動にもつながる。日本では2022年12月にスタートしたもので、北海道、宮城県、東京都、千葉県、大阪府など12都道府県で展開している。

※参考プレスリリース:Amazon、新しい配送プログラム 「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」を発表

置き配でドライバーの負担減少、環境負荷も低減

Amazonによると、DSが11カ所増えることでAmazon Flexプログラムのデリバリーパートナー、DSPプログラム、Amazon Hub デリバリーなど3500以上の雇用機会を創出できるという。また配送拠点と購入者の距離が短くなり、700万店以上の商品の翌日配送が可能になる。

またDSができると、購入者の玄関横など荷物を置く、いわゆる「置き配」可能な地域が増える。置き配によって再配達が減少すればドライバーの負担が減少し、荷物をより効率的に運べるようになるため環境負荷も低減できる。購入者にとっても、受け取りの手間を減らせるなどのメリットがある。Amazonでは荷物の置き場所を、宅配ボックス、ガスメーターボックス、自転車のかご、車庫、建物内受付/管理人などから選べるようにしている。そのほかもちろん、当日配送や翌日配送、日時指定配送、自宅外で荷物を受け取れるAmazonロッカーといった選択肢もある。

アマゾンジャパン アマゾンロジスティクス代表 アヴァニシュ・ナライン・シング氏は、「新たなDSが開設されることで、置き配指定サービスを選択できる地域が増える。置き配は重要だ。再配達が減ることでドライバーの負担は減少し、カーボンフットプリントが減ることで環境負荷低減にもつながる。荷物を受け取る側にとっても、家にいなくていいなどの利便性がある。私たちは顧客サービスを第一に考えている。自分たち独自の配送網を持つことで、顧客が望む配送方法を選択できるようになる」と述べた。

2024年問題を乗り越える

Amazonが独自の配送網を拡充する背景のひとつに、2024年問題が挙げられる。2024年4月1日以降、働き方改革関連法により、自動車運転の業務において時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間となる。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、時間外労働の上限は年960時間となる。これにより配送業者が1日に運べる荷物量が減ることになり、売り上げや利益が減少したり、ドライバーの収入が減少したりするおそれがある。ドライバーの収入減少は離職につながり、労働力不足に拍車がかかるおそれがある。

※参考文献:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」P6

置き配指定ができる地域を増やしてドライバーの負担を低減したり、Amazon Flexプログラムなどを推進してラストワンマイルの配送業者を確保したりすることは、こうした問題への対処につながる。アマゾンロジスティクス代表のアヴァニシュ・ナライン・シング氏は「2024年問題の課題は複数ある。これまでとは違う考えが必要であり、本業の空き時間を利用して配達するAmazon Hub デリバリーや、起業家を巻き込むDSPなどがスタートしている。オープンであることが大切で、働く人たちに公正な賃金が支払われるように、政府が定める労働時間が守られるように取り組んでいる」とした。

ECサイトを運営する側にとっても、こうした問題は無視できない。例えば、荷物を入れる箱を内容物に合った適正なサイズにしたり、複数の荷物を1つの箱にまとめたりすることで箱の中の無駄な空間を減らせば、1度の配送でより多くの箱を運べるようになり、ドライバーの負担低減や環境負荷低減につながるだろう。


記者プロフィール

湯浅 英夫

フリーライター。新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆。主な著書に「挑戦すれば必ずできる 自作パソコン完全組み立てガイド」(技術評論社)、「大きな字だからスグ分かる!エクセル2013入門 Windows 8対応」(マイナビ)、「Excel2000 300の技」(技術評論社)がある。

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