中小企業の成功をサポートするAmazonが「Amazon Academy」開催。イノベーションを加速させる「多様性」とは
左から相馬知子氏、薛明鶴氏、西山桃子氏、松田崇弥氏、司会を務めた中井美穂氏
Amazonは2023年9月8日、産官学の意見交換イベント「Amazon Academy」を開催した。第9回となる今回のテーマは「多様性が加速させる中小企業のイノベーション」。専門家による基調講演に加え、地方の中小企業経営者によるパネルディスカッションが行われた。
「Amazon Academy」はAmazonが2018年から8回にわたり、日本社会や企業が直面する課題をテーマに、産学官の視点から課題の解決策や目指すべき方向性について考えるイベントだ。第9回のテーマは「多様性が加速させる中小企業のイノベーション」で、“イノベーション”の観点での多様性やパーパス経営についての専門家による基調講演と、障がい、性別、国籍の違いなど、多様性を尊重しながらイノベーションを創出している中小企業によるパネルディスカッションが行われた。同イベントはAmazon Japan公式YouTubeチャンネルでもオンラインLive配信され、アーカイブで見ることができるようになっている。内容を一部見ていこう。
多様な人々と連携することで、イノベーションが自然に生まれる場を作り出す
Amazonでは、200万近くの販売業者の多くを中小企業が占める。その成功をサポートするパートナー企業として同社が成長し続けられた理由を、アマゾンジャパン合同会社 社長のジャスパー・チャン氏は「日本で23年にわたり、絶え間なくイノベーションに取り組み続けてきたこと」だという。それはまた、刻々と変化する外部環境への対応を継続してきた歴史であり、その考えを共有したいという思いから今回のテーマを選んだとした。
アマゾンジャパン合同会社 社長のジャスパー・チャン氏は「私たちはあらゆる立場の人々を歓迎し、互いに異なるユニークなニーズを持つビジネスパートナーや販売業者の皆様と連携することで、イノベーションが自然に生まれる場を作り出します」と話した
経産省相馬智子氏が語る「ダイバーシティ経営」の重要性とは
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長の相馬知子氏の基調講演は「イノベーション視点で多様性を考える」がテーマ。「ダイバーシティ経営とは」「ダイバーシティ経営の3つのポイント」「ダイバーシティ経営に必要なインクルージョン」「ダイバーシティ経営の実現に必要なエクイティ」などについて解説。「マジョリティだけが活用できる制度ではないかどうかを見直し、一人一人の特性に合ったリソースを提供することが重要」と語った。
ダイバーシティ経営を行うメリットを、さまざまなデータを用いて解説
経済産業省が行っている取り組みについても紹介
一橋大学大学院の名和高司氏「企業には、なぜパーパスが必要なのか」
リモートで参加した一橋大学大学院 経営管理研究科 客員教授の名和高司氏。『パーパス経営』『CSV経営戦略』など著書多数
一橋大学大学院 経営管理研究科 客員教授の名和高司氏による「中小企業にこそ必要なパーパス経営」の実例と課題、その解決の施策についてだ。社員26人の下請け企業である株式会社仙北谷(せんぼくや)の例を用いて解説した。
中小企業には「パーパスのような抽象的なことはうちには関係ない」と考えている人が多いが、仙北谷は日本経済新聞社といっしょにパーパスをつくってみるという活動を行った。
仙北谷のパーパス策定は、若手チームとシニアチームがそれぞれ、「お客様」「社員」「コミュニティ」の3つの視点から「どうありたいか」ということをポストイットに書き込んで、ホワイトボードに貼ることから始めた。社長とのブリーフィングを経て、1カ月でパーパスが完成。これは名和氏がこれまで関わって来た100社以上の会社の中でも最短で、「中小企業ならではのスピード感」と語った。
「この言葉ができたことの効果はまず、社員のやる気に火がついたこと。そしてこのパーパスを見てこの会社を志望してくる若い人が出てきたことだ。未来の社員を呼び寄せる効果があった」(名和氏)
またパーパスによって起きた現場の変化を、会社全体に広げるための施策についても提言。「イノベーションはエッジ(現場)でしか起こらない」というシリコンバレーの有名な言葉を紹介し、「現場は変化の波打ち際。そこでソリューションを起こしても、その現場だけで終わってしまうことが多い。本社はしっかり目利きをして、現場のソリューションの中のいいものを選び、つないで、大きな流れにしなければならない。現場の『たくみ』を、会社の『しくみ』にすることが重要」とも語った。
知的障害のあるアーティストに還元されるクレジットカードは他のカードよりLTVが4倍高い
左から、株式会社創通メディカル 代表取締役社長の薛明鶴(せつ めいかく)氏、株式会社西山酒造場 取締役女将の西山桃子氏、株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長の松田崇弥氏
パネルディスカッションには多様性によるイノベーションを実現している中小企業の代表者が登壇。
知的障碍者のアートを販売する会社を障碍者のスタッフとともに運営する松田崇弥氏。福祉は失敗が許されない空気感を変えるために挑戦していく過程を見せたいと考え、「福祉実験ユニット」という呼び名を使用している
重度の知的障害を持つ兄がいる松田氏は、25歳の時に知的障害のある人のアートを見てショックを受け、福祉とアートをかけあわせたビジネスをスタートした。
「ビジネスを始めた5年前と比べても、ダイバーシティに対する感覚が大きく変わっていると感じる。使用金額に応じて知的障害のあるアーティストに還元されるクレジットカードも発行しているが、他のカードと比較するとLTVが4倍も高いという結果が出ている。顧客は若い人が多いので、これからはこういうことがあたりまえの社会になっていくと思う」(松田氏)
西山桃子氏は銀行職員から看護師にキャリアチェンジした後、西山酒造場6代目蔵主となる西山周三氏との結婚を機に丹波市へ移住。3人の子育てをしながら女将として、丹波への観光事業促進などさまざまな取り組みを推進し、蔵の敷地内にオープン予定の複合施設のプロデュースも手掛けている。
西山氏は、「酒造業界はやはり何百年も続く男性社会で、正直なところ、変革のスピードは緩やか。お酒をネットショップで売りたいと言ったら、古くからのおつきあいのある酒屋さんに厳しいお叱りをいただいたこともあった」と振り返る。しかし台風で被災した時、ネットショップで購入していた人たちの支援が大きかったことなどから、最近は新たなチャレンジへの理解が深まってきているのを感じるという。
薛明鶴(せつ めいかく)氏は中国山東省出身。2008年、留学を機に来日。2017年、株式会社創通メディカルを設立。知識・知恵は日本をベースに、技術は中国で研究開発している
「イノベーションを生み出すために、eコマースが果たす役割は?」という質問に対して薛氏は、「最初の2年間はAmazonのショップだけで販売していた。1人でやっていた小さな会社が、大企業と肩を並べて競うことができたのは、レビューの高評価の積み重ねがあったから。どんなに小さい会社でもちゃんとした商品を作れば、eコマースを活用して、大企業に立ち向かうことができる」と自身の経験を振り返って答えた。
中小企業が躍進するためには、イノベーションが欠かせない。それを加速させるのが多様性であることを、今回のAmazon Academyでは繰り返し伝えていた。果たしてEC事業者にとってのイノベーションとはなにか。パネルディスカッションに登壇した経営者たちのリアルな声を参考にしたい。