AIはEC事業者の救世主たりえるか? “人間中心”とはなにか? 国が「AI事業者ガイドライン案」に関する意見募集

奥山晶子

令和6年1月19日、総務省及び経済産業省が「AI事業者ガイドライン案」への意見募集を行うことを発表した。締め切りは同年2月19日。今後、AIの提供が活発化する可能性の高いEC事業者にとって確認すべき資料だ。内容を簡単にご紹介するため、意見提出の参考にしてほしい。

AI事業者ガイドラインとは

このたび提示された「AI事業者ガイドライン案」は、両省がそれぞれ有識者を座長に据えての会議を開催し、両会議での検討を踏まえてとりまとめられたものだ。

ガイドライン検討の契機になったのは、令和5年5月26日に開催されたAI戦略会議(座長:松尾豊 東京大学大学院工学研究科教授)。会議で取りまとめられた「AIに関する暫定的な論点整理」において、既存のガイドラインに関して必要な改訂を検討する必要性が示された。

このことから「AI開発ガイドライン」、「AI利活用ガイドライン」、「AI原則実践のためのガバナンスガイドラインVer1.1」の統合・アップデートが検討され、このたびの発案となった。

AI事業者にとってどんなガイドラインが必要とされているのか

日本ではかねてより「Society 5.0」として、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステム(CPS : サイバー・フィジカルシステム)により、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会が目指されてきた。そこで令和元年に策定されたのが「人間中心のAI社会原則」だ。

近年、AI関連技術は日々発展を見せ、利用機会も増えつつある。特に生成AIに関しては、知的財産権の侵害や偽情報、誤情報の生成・発信など、これまでのAIではなかったような新たな社会的リスクが生じている。

そこでAIを活用する事業者が安心安全なAIの活用のための望ましい行動に繋がる指針を確認できるものとして、当ガイドラインが位置づけられることになった。また、政府が単独で主導するのではなく、市民社会や民間企業等で構成されるマルチステークホルダーで検討を重ねることで、実効性・正当性を重視したものとして策定されている。

EC事業者はWebアクセシビリティの義務化に注意

当ガイドライン案では、「人間中心のAI社会原則」で提示された以下の3つの基本理念を尊重すべきとしている。

・人間の尊厳が尊重される社会
・多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会
・持続可能な社会

この基本理念を踏まえた上で、各主体はAIシステム・サービスの開発・提供・利用を促進し、事業における価値の創出や社会課題の解決を実現していくべきとされている。

※出典元:AI事業者ガイドライン案

また、各主体が取り組む事項として以下の7点が記載されている。

1.人間中心
  公平性を確保する。
2.安全性
  生命・身体・財産に危害を及ぼさない。
3.公平性
  特定の個人ないし集団への有害な偏見や差別をなくす。
4.プライバシー保護
5.セキュリティ確保
6.透明性
  ステークホルダーに対し合理的な範囲で情報を提供する。
7.アカウンタビリティ
  AIシステム・サービスのもたらすリスクの程度を踏まえ、合理的な範囲で情報を開示する。

そのうえで社会と連携して取り組むことが期待される事項としては、具体的に以下の3つが整理されている。

8.教育・リテラシー
  AIに関わる者が、AIの正しい理解と社会的に正しい利用ができる知識・リテラシー・倫理観を持  つために必要な教育を行う。
9.公正競争確保
10.イノベーションの促進

とくに1番の「公平性の確保では、いわゆる「情報弱者」などを生じさせないようなアクセシビリティの確保がうたわれている。アクセシビリティとは、心身機能に制約のある人でも情報にアクセスし利用できること。これはEC事業者が注視しなければいけないところだろう。

AI提供者として重要な事項

ガイドライン案の後半では、AI提供者にとって重要となる事項がまとめられている。

実装時にはリスク対策や利用上の留意点を正しく定めること、プライバシー保護やセキュリティ対策、システムアーキテクチャなどの文書化が重要。システムアーキテクチャとは、システムの全体像を見ることができる、いわば設計図のようなものだ。

提供後にはプライバシー侵害への対策、脆弱性への対応、関連するステークホルダーへの情報提供などが重要。利用者に適正利用を促し、サービス規約などを文書化してプライバシーポリシーを明示するのも大事なことだ。

意見提出は「意見提出フォーム」から

当ガイドライン案への意見提出は、令和6年1月20日から同年2月19日まで。電子政府の総合窓口(e-Gov)における当該の「意見提出フォーム」に御意見等を日本語で入力し、提出する。

電話での意見提出は不可だが、郵送やFAX、添付ファイルの利用を希望する場合は担当まで問い合わせを。

・ガイドライン案はこちらから

「AI事業者ガイドライン案」本編(別紙1)

「AI事業者ガイドライン案」別添(別紙2)

・意見公募要領はこちらから(問い合わせ担当部署の記載あり)

別紙3

・意見の提出はこちらから

「AI事業者ガイドライン案」に関する意見募集(e-Gov パブリック・コメント)


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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