北朝鮮企業と知らぬ間に取引も? 国連安保理の北朝鮮への制裁調査、専門家パネル活動停止で注意喚起
2024年3月28日、国連安全保障理事会(安保理)で北朝鮮制裁委員会専門家パネルのマンデートに関する安保理決議案が否決された。ロシアが拒否権を行使したことによるものだ。専門家パネルの活動が停止されると、北朝鮮企業と知らぬ間に取引するなどの危険性が高まる。このたびの安保理の動きにより、今後EC事業者が巻き込まれるかもしれないトラブルや、注意すべきことは何かをまとめた。
国連安保理による専門家パネルが4月30日に停止
2024年3月28日(現地時間)、安保理において米国が提案した国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルのマンデート(※)に関する安保理決議案が、ロシアの拒否権行使により否決された。
これにより、専門家パネルの活動は4月30日で活動を停止。3月28日に行われた外務報道官談話においては、ロシアの拒否権行使に遺憾を示すとともに、安保理理事国として北朝鮮への対応に関する議論に引き続き積極的に関与していくことが表明された。
※マンデート:組織が行動するために与えられる権限のこと
出典元:国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネルのマンデートに関する安保理決議案の否決について(外務報道官談話)
そもそも「専門家パネル」とは
「専門家パネル」とは、正式名称を「北朝鮮制裁委員会専門家パネル」といい、安保理の下部組織である北朝鮮制裁委員会の機能を強化するため、2009年に設置されたものだ。
北朝鮮制裁措置には、大きく分けて「ヒト・モノ・カネの流れの規制」と「海上・航空輸送の規制」がある。入国規制や貿易規制、特定の個人または団体の資産凍結、北朝鮮関連の貨物検査などを通じて、核実験や弾道ミサイル発射を行う北朝鮮への制裁を行っている。
専門家パネル委員は、国連事務総長により核兵器や金融などさまざまな分野の専門家が任命され、制裁措置の履行状況に関する情報を収集・審査・分析する。そして制裁履行改善のため勧告し、制裁措置の履行状況などについて年次報告書を作成する役割を持つ。
つまり専門家パネルとは、北朝鮮制裁委員会の任務遂行をサポートする組織といえる。
どのようなことが問題になるのか
専門家パネルの活動が停止すると、制裁逃れの事案が増える可能性がある。これまでもさまざまな分野で制裁逃れの事案があり、ときには他国の政府や民間企業が意図せず関与してしまう場合も。例えば以下のようなケースが懸念されている(実例ではない)。
このケースにおいて、B社やD社が最終的に北朝鮮へ流れると知らずに工業機械を輸出したとしても、違法販売に関わったとの指摘を受け得る。安保理決議第2397号主文7では、北朝鮮への工業機械類等の直接の供給、販売または移転だけでなく、間接の供給、販売または移転も禁止しているためだ。悪意ある取引を行っていないにもかかわらず、安保理決議違反に関与してしまう可能性がある。
こうした違反行為への関与を防ぐため、外務省では、安保理または制裁委員会によって資産凍結措置の対象となった団体や個人、入稿規制措置が取られている船舶と取引を行わないことが重要としている。また、米国等が独自の制裁措置の対象としている船舶や、過去の専門家パネルの年次報告書に挙げられている疑わしい船舶についても注意が必要だ。
EC事業者はとくに「なりすまし」に注意を
EC事業者がとくに注意したいのが、北朝鮮のIT労働者による「なりすまし」だ。警察庁等の注意喚起によると、過去の専門家パネルでは、北朝鮮がIT労働者を外国に派遣し、身分を偽って仕事を受注することで収入を得ているという指摘があった。日本においても、北朝鮮IT労働者が日本人になりすまして業務受注している疑いがある。
「なりすまし」を行う北朝鮮IT労働者にお金が流れれば、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源として利用されてしまう。また、北朝鮮IT労働者が情報窃取などのサイバー活動に関与している可能性もある。もし「なりすまし」に気づかず取引を行えば、安保理違反や国際犯罪に関与してしまうことになるだろう。
北朝鮮IT労働者はIT関連サービスの提供に関して高い技術を有することが多く、サイトやアプリ制作業務を幅広く募集している。IT業務を外注することの多いEC事業者はとくに注意が必要だ。
「なりすまし」を見破るにはどんな方法があるか。警察庁は注意喚起において、北朝鮮IT労働者のアカウント等にみられる特徴を公開している。アカウント名義や連絡先、受取口座の頻繁な変更や、日本語が堪能ではないためテレビ会議形式の打ち合わせに応じないなど。チェックリスト化されているため、下記参考資料をぜひ参照してほしい。
参考元:北朝鮮IT労働者に関する企業等に対する注意喚起(外務省、警察庁、財務省、経済産業省 同時発表)
EC事業者が今後行うべき対応
今後、EC事業者は、とくにIT事業者とのやりとりにおいて、新規の取引先はもちろん不自然なやりとりが生じたときには再度取引先の身元確認を行うなど、確認体制をよりいっそう強めていく必要がある。
先に参照した注意喚起においても、プラットフォームを運営する事業者においては、本人確認手続きの強化や不審なアカウントの探知対策強化を行うよう呼びかけられている。
IT環境を使えば対面せずに取引できる便利な時代になったが、取引先の確認を怠ると、国際的なトラブルに巻き込まれてしまうかもしれない。必要性を感じたらテレビ会議を要求する、身分証の提示を求めるなどして、安全に取引できる相手かどうかを確認しよう。