国民生活センター、ADRの実施状況と結果概要を公表 通信販売に関する返品トラブルも
独立行政法人国民生活センター(以下:国民生活センター)は2024年7月10日、国民生活センター紛争解決委員会によるADR(※1)の実施状況と手続結果の概要について公表した。本記事では一部内容を抜粋して紹介する。
※1:訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与してその解決を図る手続
「教養・娯楽サービス」に関する内容がトップ
2018年から2023年までの、国民生活センターによるADR実施状況は以下の通り。
◆2018年度累計申請件数:177件
◆2019年度累計申請件数:204件
◆2020年度累計申請件数:166件
◆2021年度累計申請件数:136件
◆2022年度累計申請件数:142件
◆2023年度累計申請件数:117件
累計の商品・役務別件数については上位から「教養・娯楽サービス」113件、「他の役務(観光葬祭など)」107件、「金融・保険サービス」100件、「保健・福祉サービス」87件、「運輸・通信サービス」84件と続く。
通信販売にて分割払いに関するトラブル
2024年6月3日に実施された紛争解決委員会の審議を踏まえ、28例の結果概要が公表。
「マンション購入契約に関する紛争」「スポーツジムの中途解約に関する紛争」「タレント等養成スクールの解約に関する紛争」などが並ぶ中、通信販売に関する内容も含まれた。以下はその概要である。
「公式通販サイトで購入しようとした際、メッセージアプリで申し込むとさらに安くなる旨の表示を見た。そこで、メッセージアプリから簡単なアンケートに答え、13000円の「クーポン」をプレゼントとして受け取った。このクーポンを利用すれば、公式通販サイトの販売価格では約60000円のところ、約1900円×24回=約4万6000円になる旨の表示を見て、クレジットカードの24回払いにしなければ13000円は値引きされないと判断し分割で購入。その後、13000円が値引きされても、カードの分割払い手数料が約8000円かかることに気が付き、相手方販売業者に取消しを求めたが、解決できなかった」
販売業者は「カードの分割手数料約8000円は、カード会社が定めた手数料のため、当社との契約ではない」と主張。
仲介委員は、返品特約は顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法等により表示されている必要があるが(特定商取引法 24 条および 44 条)、公式通販サイトにおいてそのような表示にはなっていないことを指摘。
申請人が送料1200円を負担すればキャンセル(返品)を認めるとの回答があり、申請人と販売業者との間で和解が成立した。
同種紛争の解決にもつながる指針を提示
各地の消費生活センター等や国民生活センターへ寄せられた相談において、助言やあっせん等の相談処理による解決が見込めなかったときなどに、国民生活センター紛争解決委員会へ和解の仲介や仲裁を申請することができる。
ADRは柔軟な解決を図るため、手続非公開が原則となっている。しかし、紛争解決委員会で扱う重要消費者紛争の背後には、多数の同種紛争が存在しており、当該紛争の解決を図り、その結果の概要を公表することは、それを契機とした他の同種紛争の解決にもつながる指針を提示することとなると考えられる。
そのため、国民生活の安定と向上を図るために委員会が必要と認める場合には、紛争の結果概要を公表できる仕組みが設けられている。本結果概要の公表については、こうした制度に基づくものである。
消費者トラブルを未然に防ぐための事例として役立つだろう。今後の事業運営の参考にしてほしい。
◯参考:国民生活センターADRの実施状況と結果概要について(令和6年度第1回)(独立行政法人国民生活センター紛争解決委員会)