オルビス✕TENTIAL 対談!EC業界のリーダーたちが語るリテール・メーカー事業者の勝ち筋とは?

桑原 恵美子

左から司会を務めた株式会社SUPER STUDIO 取締役 CRO 真野勉氏、株式会社TENTIAL 代表取締役CEO 中西 裕太郎氏、オルビス株式会社 代表取締役社長 小林 琢磨氏

日々変化しているEC領域において、今後の勝ち筋はどこにあるのか。統合コマースプラットフォーム「ecforce」のイベント「CO-CREATION SUMMIT2024」内で行われたオルビス株式会社 代表取締役社長 小林 琢磨氏と株式会社TENTIAL 代表取締役CEO 中西 裕太郎氏とのトークセッションの一部を紹介する。

単発的な売上よりも、LTV(顧客生涯価値)の重要性がより高まっている

――今、ECをとりまく環境は、どのように変化していると感じていらっしゃいますか?

オルビス 代表取締役社長小林氏(以下、オルビス 小林)  ここ2年半ほどはECを取り巻く環境全体が厳しくなっていると感じています。広告単価が上がっていて、LTV(顧客生涯価値)の重要性がより高まっていることがその背景にあるかもしれません。LTVを高めるには、CX(顧客体験価値)の構築、データの活用の仕方、4Pのチャネル(製品、価格、流通、プロモーション)の組み方が非常に重要です。オルビスは長い間直販至上主義でやってきましたが、今はかなりクロスチャネルで展開しています。他でいうとAmazonさんや@cosmeさんのようなBtoB ECが、今爆発的に伸びていますよね。

TENTIAL 代表取締役CEO中西氏(以下、TENTIAL中西) TENTIALは健康に関連するソリューションを提供している企業です。いわゆるリカバリーウェアを「BAKUNE(バクネ)」というブランドで展開していて、国内に9店舗の直営店を持ち、ハンズさんなどの取扱店を含めると国内117店舗においていただいています。2018年の創業当初は、スタートアップ型の事業展開で、単発商品の売上を初回販売分で回収するようなビジネスモデルを目指していましたが、ブランドを持続的に運営する中で、「本当に誇れるもの」「品質の高いもの」を作っていくことが、結果的に口コミや売上の向上につながることが見えてきました。今は、1周して戻ってきた感じがあります。

Eコマースのシングルチャネルやデジタルマーケティングには限界が来る

――CXやデータ、口コミなどのUCG、4PなどLTV向上のための施策が重要視されており、いかに顧客離れを防ぐかもそうですし、顧客側のブランド愛を育てられるかがキモとなりそうですね。現状を踏まえてこれからの3年間でEC領域はどのように変わっていくと見ていますでしょうか。

オルビス 小林 競争環境の厳しさが緩むことはもうないと思っていますし、誤解を恐れずに言えば、ECのシングルチャネルやデジタルマーケティングといわれるものは限界が見えていると思っています。そのためトータルに4Pをマネジメントしていくことがより重要になるのですが、そのマネジメントにおいて、ECがすごく重要なポジションであるのは間違いありません。ECのCRMをきめ細かく理解していることが、全体のCXを設計する際、大きな強みになると私自身は思っています。
オルビスでも、最もLTVが高いのはリアルから入ってきてEコマースに移行した顧客層です。メイクの色を相談したいからお店のスタッフとコミュニケーションを取りたいときもあれば、いますぐクレンジングを届けてほしいからスマホで購入するという時もあります。1人の人に起こり得るそのニーズに対応できるようにCXを作れば、ちょっとしたライフスタイルの変化のタイミングでそのブランドの想起を高めることができる。つまりLTVが上がると思っています。

TENTIAL中西 僕らもWebから始まったのでWebでの売上比率が高い会社ではありますが、最近は店舗の売上比率がすごく上がってきています。切り口が「健康」なのでちょっと特殊かもしれませんが、健康に悩みを持った時に、求めるチャネルは、ECだけではないと思っています。例えば土日に家族で遊びに行った際、ふらっと店舗に買いに行きたいとか……。ただ出店に関しては、ブランディングの意味合いを持つ店鋪と、実際に売れる店舗が同じではないこともあります。お客様起点で考えたときに、お客様が買いやすければ店舗にこだわらずECを利用してもらうとか、うまくバランスをとっていかなければならないと考えています。

「お客様の解像度が高い」ということ以上の正解はない

――Webのみにこだわらず、店鋪進出など多様な顧客ニーズにあわせたタッチポイントを増やすことがこれからのEC業界全体に求められていますね。3年後を見据えて、メーカーやリテール事業者が今から取り組むべきことは何でしょうか。

オルビス 小林 やっぱりユニットエコノミクス(ビジネスにおける顧客1人あたりの採算性)を理解したうえで、総合的に4Pを組み立てていくっていうことが大事だと思っています。オルビスは30年以上前のECがまだなかったころに創業して、ずっと通販カタログとコールセンターで売り上げを作ってきました。その一方で私は2018年にオルビス代表になった時、DXにかなり大規模な投資をし、カタログやコールセンターといった固定費を削りました。クロスチャネルでアプリをハブにしてCXを作ったこと自体は、LTVを上げることに貢献しましたし、物流センターの自動化をしたことでコロナの時にとても役立ちました。結果的にはよかったのですが、コロナを越えても日本のEC比率は20%しかないし、化粧品ECに関しては20%弱しかない。そのため今はCXを作るために、コールセンターに大きな投資をしています。
とはいえ「お客様視点でCXを作る」というのは当たり前ですが、実はすごく難しいことです。しかしそれを貫いたときに、データは本当の宝にもなるしCXもできると思っています。「お客様の解像度が高い」ということ以上の正解はないのかもしれません。

TENTIAL中西 僕は、今まで見えなかったものが可視化できる時代になったと思っています。これからの動向をいかに可視化していくのかということが今後、テーマになるような気がしています。僕たちも、健康という社会から見えなかったものを可視化していくことをテーマに様々なデータを集めながらやっていますので、数字とその先のお客様の満足度のそのバランスを考えながらしっかり4P全体を見ていくことが必要だと思っています。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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