物流のKPIとは。国土交通省による指標の例や設定のポイントを紹介
EC市場が急拡大する現在、どのように物流を管理するかが企業の経営戦略として重要な要素になっています。
市場拡大の一方で、物流の2024年問題や労働人口の低下といった物流危機が本格化し、「いかに効率的な運用ができるか」が物流企業や荷主の明暗を分けるといっても過言ではない状況になりつつあります。
そこで今回は、国土交通省が発表している導入の手引きを参考に、物流のKPI(重要業績評価指標)の定義、導入のメリット、代表的な指標や活用事例について解説します。
物流のKPIとは
KPI(Key Performance Indicator:キー パフォーマンス インジケータ―)は「重要業績評価指標」と訳され、企業目標を達成するための指標となる定量的な基準です。
業務の工程を定量的に測定し、コストや生産性、品質などのパフォーマンスを計測するための指標になります。
KPIは通常、KGI(重要目標達成指標。企業の最終目標のこと)とセットで考えられます。
“設定したKGIに近づいているかを測る道しるべ”として活用される指標が、KPIです。
国土交通省による「物流事業者におけるKPI導入の手引き」とは
「物流事業者におけるKPI導入の手引き」は、企業間競争の激化による過度な価格競争を懸念した国土交通省が2015年に公表した手引きです。
事業の生産性・最適性・課題等を明らかにすることで改善につなげ、荷主に理解を得ることで物流事業者が一体となって健全な効率化を目指すことを目的に作成されました。
KPIを利用するメリットやKPIの例・定義、導入のステップが網羅的に解説されており、手引きを読めばKPIの基本的な考え方や取り組み方法が理解できるようになっています。
出典:概要版 物流事業者におけるKPI導入の手引き|国土交通省
物流KPIを導入するメリット
物流事業者においてKPIを導入するメリットは大きく3つあります。
実態と課題の見える化
物流現場の業務プロセスは現場により多種多様であり、作業工程の適・不適の評価は困難な場合が多いです。複数拠点の管理や業務プロセスの細分化が進むと、判断はより難しくなります。
そこで実態を定量的に測定するKPIを用いることで、現状が可視化され、情報共有もスムーズになります。
また、各工程や現場のKPIをそれぞれで比較することで、作業のボトルネック工程や、ミスが起こりやすい工程などの課題も容易に抽出できます。
一般的に、明確化された問題点に対しては、自然と改善の方向へ向かう心理が働きます。
関係者が現状を把握することで、原因の特定・改善策の実施へと動きやすくなることも大きなメリットです。
コミュニケーションの促進
数値で表すことで状況を客観的に把握でき、異なる立場の人とも共通の認識が生まれます。
物流には荷主・倉庫会社・輸送会社・納品先などさまざまな関係者がいます。
主観で話しても伝わらないことも、根拠のある数値で示すことで現状や課題を共有することが可能となります。
課題に対して共通認識を持つことで、同じ方向を向いて解決策を検討することができ、建設的なコミュニケーションが促進されるというメリットがあります。
適正な評価
KPIの数値を評価軸とすることで、主観にとらわれず、中立的で誰にとっても納得感のある評価が可能となります。
改善に努力した人や組織が正確に評価される仕組みを作ることで、改善に対する動機付けにもつながります。
これは経営者から作業者に対する組織内での評価だけでなく、荷主から物流事業者に対する評価も同様です。
【一覧】物流KPIの評価の視点と指標
KPIの導入に多くのメリットがあることは、前項で述べたとおりです。
では具体的にどのような指標があるのか、「コスト・生産性」「品質・サービスレベル」「物流条件・配送条件」の3つの評価視点から、KPIの代表例と計算式を解説します。
コスト・生産性
ここでは企業利益に直結するコスト・生産性に関するKPIの例を紹介します。
庫内業務における人時生産性
作業者1人が、1時間あたりでどれだけのアウトプット(成果)を得られたかを表す指標です。
算出方法:人時生産性 = アウトプット数量 ÷ 人時(延べ作業時間)
輸送業務における積載効率
トラックの最大積載重量に対して、実際に荷物をどの程度積載しているかを示します。
算出方法:積載効率(%) = 積載重量 ÷ トラックの最大積載重量 × 100
品質・サービスレベル
次に顧客満足度へ大きく影響する品質・サービスレベルに関するKPIの代表例を紹介します。
誤出荷率(PPM)
全体の出荷のうち、出荷に関するミスが何件あったかを表します。
算出方法:誤出荷率(%) = 誤出荷件数 ÷ 総出荷件数 × 100
汚損・破損率
入荷数や出荷数に対して、汚損・破損が発生した数量を示す指標です。
商品の仕入れ時に確認する場合もあれば、出荷時に確認するケースもあります。
算出方法:汚損・破損率(%) = 汚破損発生件数 ÷ 総出荷(入荷)数 × 100
遅配・時間指定違反率
納品遅延や時間指定違反が発生した割合を表す指標です。
算出方法:遅配・時間指定違反率 = 遅配・時間指定違反発生件数 ÷ 総納品件数 × 100
物流条件・配送条件
最後に、荷主企業との連携に役立つKPIの代表例を紹介します。
配送頻度
配送先ごとの配送頻度を表す指標です。
算出方法:配送頻度 = 配送回数 ÷ 営業日数
ロットサイズ
配送先や顧客あたりの出荷ロットサイズ(荷物のボリューム)を指します。
計算式はなく、配送ロットをそのまま当てはめます。主に庫内業務や保管、輸送の効率改善等に活用します。
待機時間
納品先において、荷下ろし待ち等の外部要因により待機した時間を指します。
こちらも計算式はなく、待機した時間をそのまま参照します。納品先への改善要求や配送ルート見直しなどに活用できます。
参考:詳細版 物流事業者におけるKPI導入の手引き|国土交通省
物流KPIを設定するときのポイント
ここまでさまざまなKPIを確認してきましたが、もちろん、すべて導入すればよいわけではありません。
ここでは、各現場に即したKPIを設定するポイントを解説します。
最終目標(KGI)の確認
KPIは、KGI(企業の最終目標)を達成するための手段です。
よってKPIは、最終目標に向かって着実に進んでいるかを確認できる指標でなければなりません。
<最終目標に沿ったKPI測定の例>
- 最終目標が「物流にかかる人件費を20%削減する」
→人時生産性を測定する - 最終目標が「輸送効率を30%向上させる」
→積載効率や待機時間を測定をする
このように、最終目標を達成するために活用すべきKPIは何か?といった視点で設定します。
KPIツリーの活用
KPIツリーとは、特定の事象に対して原因や分類などの要素を洗い出すためのフレームワークです。
樹形図のように要素を書き出し、細分化していくことで解決法や原因といった重要要素を導き出しやすくなります。
前項目で述べた最終目標を起点とし、出てきた要素を実務作業レベルまで落とし込んでいくことで、測定すべきKPIが明確になります。
参考:ロジスティクスKPI活用の手引き|公益社団法人日本ロジスティクス システム協会
継続可能性
KPIの測定が容易であることも重要な要素です。
一時的な測定では傾向が読み取れないため、KPIは定期的な観測が必須なためです。
KPI測定にあたり、特定の担当者が長時間拘束されたり、通常業務が滞るようでは継続が難しくなります。
基幹システムやWMS(倉庫管理システム)、TMS(配車管理システム)により抽出できるデータであれば、より好ましいでしょう。
物流KPIの活用事例
ここでは、KPIを活用して業務改善した事例を紹介します。
生産性KPIを活用し、生産性が1.3倍になった事例
最初に紹介するのは、物流センターの受託運営をしている3PL企業がKPIを活用し、作業員人件費削減のための生産性改善に取り組んでいる事例です。
3PL企業であるA社は、人件費削減のためにまず生産性KPI(処理数量÷投入工数(人・時))を割り出し、目標値を設定しました。
そして目標値で運用できていれば作業者を追加投入せずに済んだ時間を「改善余地時間」としました。
KPIで曜日別に改善余地時間を確認し、月・金・土・日曜日の改善余地が特に大きかったため、以下の4つの側面から見直しを図りました。
- 曜日別での必要人数把握
- シフトの見直し
- 作業進捗管理の強化
- 他業務との応援体制と多能工化
その結果、改善余地時間が15%削減され、生産性は1.3倍向上しました。
遅延状況のKPIを活用し、クレームが大幅に削減された事例
次は、大手トラック会社のB社と荷主の日用品メーカーがKPIを活用して輸送の遅延発生状況管理を行い、着荷遅れのクレームを大幅に削減した事例です。
B社では、輸送時に日常的な納品遅延が起こり、着荷先で計画どおりに荷下ろしができないといった課題がありました。
納品遅延の背景には工事や天候による渋滞、別の納品先での待機などさまざまな要因があり、対策が難しい状況だったのです。
そこでB社と荷主が協力し、遅延の発生情報をリアルタイムで把握し、顧客別・要因別でKPI管理できるようにシステムを構築。
輸送を担当するB社だけで改善を図るのではなく、荷主と一緒に改善を検討することで、遅延が多発するルートを見直すなどの対策が可能となりました。
リアルタイムで遅延状況を把握できるため、迅速な情報共有や対策ができるようになり、クレームの大幅な削減と顧客満足度の向上が実現した事例です。
待機時間のKPIを活用し、荷下ろし開始時間の順守率が大幅に向上した事例
最後に、卸・小売専用センターに向けたトラック輸送を担うC社の事例を紹介します。
一般的に、卸・小売の物流センターでは納品待ちの路上待機・構内待機が発生しやすい構造があります。
そこでC社では、納品先ごとに到着時間・納品開始時間・納品終了時間・付帯作業の実施状況を調査し、KPIとして活用しています。
待機時間の発生状況をセンターごとに把握し、KPIを荷主へ情報共有を行い、さらに荷主から着荷主へ適切な納品時間への変更の協力を仰ぐことで、荷下ろし開始時間が順守されるようになりました。
KPIを用いることで根拠のある協力要請が可能となり、ステークホルダーを巻き込んで物流の効率化を実現した事例です。
参考:詳細版 物流事業者におけるKPI導入の手引き|国土交通省
ECサイトの物流業務はプロにアウトソーシングするのがおすすめ◎
今回は物流のKPIについて、メリットや代表例、設定のポイント、活用事例をご紹介しました。
最終目標に沿ったKPIを設定し、定期的な観測を行い、現状把握・課題の改善を図ることが重要です。
企業の最終目標を最短距離で叶えるために有用なツールですが、導入には豊富な知見が必要なことも事実。
効率的な物流業務を目指す際は、プロにアウトソーシングした方が効果的です。
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