「持続可能なラストワンマイル物流に向けての共創」をテーマに、第10回Amazon Academyを開催

桑原 恵美子

(左から)高山芽衣氏、小池泰弘氏、紺野博行氏、二村真理子氏、角井亮一氏、中村誠氏、ジャスパー・チャン氏、司会のAmazonロジスティクスDSP2.0シニアプログラムマネージャー 河合麻衣子氏

Amazonは2024年8月7日、「持続可能なラストワンマイル物流に向けての共創」をテーマに 第10回「Amazon Academy」を開催した。専門家による基調講演に加え、「ラストワンマイル」に関わる企業や配送パートナーによるパネルディスカッションも行われた。

「Amazon Academy」はAmazonが2018年から行っているイベントで、日本社会や企業が直面する課題をテーマに、産学官の視点から課題の解決策や目指すべき方向性について考えることを目的としている。第10回のテーマは「持続可能なラストワンマイル配送に向けての共創」。

基調講演では、国土交通省 物流・自動車局物流政策課長の紺野博行氏が、さまざまなデータから「2024年を『物流革新元年』に」をテーマに、政府が講じている対策について解説した。続いて東京女子大学 現代教養学部 国際社会学科 経済学専攻教授の二村真理子氏が、持続可能な配送環境を構築するための多様で柔軟性のある職場を作りと、ドライバーのウェルビーイング向上の重要性について語った。

後半のパネルディスカッションでは、「ラストワンマイル」に関わる企業や配送パートナーを代表して、株式会社イー・ロジット代表取締役会長 角井亮一氏、ENEOS株式会社 執行理事 プラットフォーマー事業部長 小池泰弘氏、株式会社Passion monster 代表取締役社長 高山芽衣氏、三井不動産レジデンシャルリース株式会社 経営企画部長 中村誠氏が、ラストワンマイル配送における各社の取り組みや、日本のラストワンマイル配送の未来について語り合った。その内容の一部を紹介する。

ジャスパー・チャン社長によるメッセージ

Amazon Academyは、アマゾンジャパン合同会社(以下「Amazon」)社長のジャスパー・チャン氏のメッセージからスタート。

「Amazonができることはまだたくさんある」とアマゾンジャパン合同会社社長 ジャスパー・チャン氏

チャン氏はAmazonが2024年に、ラストワンマイル配送とドライバーの働き方に関わる施策の拡大に従来の投資額の数千億円以上に追加して、さらに250億円以上を投資することを発表。その投資を投下するのは、「配送ネットワークの拡大」「ドライバーのウェルビーイング向上と安全対策」「再配達の削減」「配送プログラムの拡大」の4大分野だと語った。「Amazon は物流業界で先駆けて『置き配指定サービス』を開始し、日本全国のお客様に翌日配送で商品をお届けするなど、日本での事業開始から20年以上にわたり、イノベーションを率先して推進してきました。私たちは今後もお客様と配送パートナーに代わって、イノベーションを推進し、これからの未来を築いていけることを楽しみにしています」(チャン氏)

会場内に設置された Amazonロッカーのディスプレイ。現在、日本全国で4000台以上設置されているという

2024年問題対策として、500億円の財政措置と法整備

国土交通省 物流・自動車局 物流政策課長の紺野博行氏の基調講演のテーマは、「2024年を『物流革新元年』に」。物流の停滞が懸念される2024年問題に対応するため、政府が推進する政策について、様々なデータを参照しつつ解説した。物流業界の主要な業種の営業収入の合計額は約29兆円で全産業の売上の約2%を、従業員数は約223万人で全産業の約3%を占めている。特徴は事業者数が非常に多いこと、そして中小企業比率が高いこと。労働時間は全産業平均よりも約2割、400時間程度長くなっているのに対し、年間賃金は5%から15%位(20万から60万円)低くなっている。

国は自動車運送事業における時間外労働規制の見直しに伴い、物流関係閣僚会議を昨年の3月に立ち上げて、総理のリーダーシップのもとで様々な取り組みを進めているという。

「物流効率化に関しては、いわゆる物流DXなどの生産性向上、再配達再配達率を半減するための取り組みのために、今年度の当初予算を合わせまして総額で約500億円の財政措置を講じています。また流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正し、荷主に対する努力義務、あるいはトラック事故に関しては契約の書面交付の義務づけがスタートする予定です」(紺野氏)

「政府の取り組みに加え、荷主や物流事業者の方の方が協力して共に取り組むことが重要」と語る紺野氏

多様な輸送方法と、多様な担い手がカギ

東京女子大学 現代教養学部 国際社会学科 経済学専攻教授の二村真理子氏の基調講演のテーマは、「消費者とともに取り組む物流2024年問題」。業界単位で人材獲得が困難になっている状況を踏まえ、2023年に行われた日本物流団体連合会の「物流事業者における女性活躍推進に向けた調査検討報告書」などの内容などを解説した。そしてトラックドライバーを増やすための対策として、「ドライバーのウェルビーイングの向上」「大型免許取得への補助などドライバーになるためのサポート」「高齢者や女性など多様な担い手の確保」が重要であると語った。

また宅配のラストワンマイル輸送については、都市内の配送にフォーカス。「ラストワンマイルで使用されるのは大型トラックではありません。小型トラック、また場合によっては普通乗用車、自転車、もしかすると徒歩ということもあるかもしれず、多様な担い手を確保することも重要かもしれません」(二村氏)

「再配達の削減に消費者が直接関わることによって、意識改革に繋がるのではないか」と語る二村氏

さまざまな分野から、ラストワンマイル問題の解決法を提案

後半のパネルディスカッションでは、「ラストワンマイル」に関わる企業や配送パートナーなど4名のパネラーがそれぞれの立場から、意見を発表した。

物流全般のコンサルティング・セミナー活動を行い、国内外で40冊以上の著書を執筆している株式会社イー・ロジット 代表取締役会長 角井亮一氏は、「宅配ロッカーがあっても全て使用中で使えず、結局は再配達せざるを得ないという問題を解決するために、例えば3日以上取り出さない場合はペナルティを課すというアイデアもある」と指摘。また海外のホテルではロボットが普通にデリバリーをしている状況から「ロボットやドローンが配達をするようになったら、宅配の負荷は大きく軽減されるのでは」と語った。

「置き配を日本でスタンダードにしたAmazonさんに、新しいテクノロジーでのイノベーションを期待している」と角井氏

事業開発部門の部長として、ガソリンスタンドを活用した物流サポート事業の開発に従事しているENEOS株式会社 執行理事 プラットフォーマー事業部長の小池泰弘氏は、「全国に約1万2000カ所あるガソリンスタンドを、ラストワンマイルの拠点として活用する仕組みを構築したい。ENEOSのガソリンスタンドは生活拠点に近い場所が多いので、配送パートナーも最寄り性が高く働きやすいのでは」と語った。

「ガソリンスタンドをドライバーの休憩の拠点に使ったり、今後増えるEVのトラック専用のステーションを設置したりと、様々な観点で事業を進めている」と語る小池氏

Amazonとの協業の上、オートロック付き賃貸マンションでの置き配が可能な環境整備に取り組んでいる三井不動産レジデンシャルリース株式会社 経営企画部長の中村誠氏は、「再配達防止に向けて、オートロックで開錠するという仕組みは非常に数多く世に出てきていますが、一方で、マンションによって設置される機器が異なるため開錠方法も異なり、ドライバーさんが数多くのやり方を覚えなければならないという問題が起こっています。できる限りシンプルな仕組みといったものを、業界全体で提供する必要があるのでは」と指摘した。

「Amazonキーの導入数は現在約370棟、1万5000戸強というところまで拡大している」と語る中村氏

2023年7月に物流業を開始し、Amazonの「デリバリーサービスパートナープログラム(DSP)に参画している株式会社Passion monsterの代表取締役社長 高山芽衣氏は「配達をしている最前線のドライバーたち自身が誇りを持つことが必要。現在は正直、過小評価されている部分が大きいと感じています。仕事が本当にできる人が、志を高く持って働ける環境、外国籍の方や女性など多様な人材を迎え、憧れの仕事と言ってもらえるようにしていきたい」と語った。

「重い荷物を持っていったら不在だったというような、ドライバーにとっての“配達ブルー”を解消しなければならない」と高山氏


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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