コスト上昇に対する価格転嫁率は40.6% TDB調査
株式会社帝国データバンク(以下、TDB)は2025年3月17日、価格転嫁に関する実態調査(2025年2月)の結果を公表した。本記事ではEC業界に関連の深い項目を中心に一部を抜粋して紹介する。
調査概要
◆調査期間:2025年2月14日~2月28日
◆調査方法:インターネット調査
◆調査対象:全国2万6815社
◆有効回答企業数:1万835社(回答率40.4%)
◆出典:価格転嫁に関する実態調査(2025年2月)(株式会社帝国データバンク)
「価格転嫁率」は40.6%と前回調査より4.3ポイント低下
「自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているか」を尋ねたところ、コストの上昇分に対して「多少なりとも価格転嫁できている」と回答した企業は77.0%となり、前回調査(2024年7月)から1.4ポイント低下した。
8割近くの企業で価格転嫁が進んでいる一方、「価格転嫁すると他社との競争に負け失注する」などの声もあり、「まったく価格転嫁できない」と回答した企業は11.2%と1割を超えたという。
また、コスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率(※1)」は40.6%となった。これはコストが100円上昇した場合に40.6円しか販売価格に反映できず、残りの6割近くを企業が負担していることを示している。
価格転嫁率40.6%は前回調査(価格転嫁率44.9%)と比較すると4.3ポイントの低下となり、TDBでは「長引く原材料費やエネルギーコストの高騰、人手不足にともなう人件費の上昇などに対して、価格転嫁が追いつかない状況を示している」と考察している。
※1:各選択肢の中間値に各回答者数を乗じ加算したものから全回答者数で除したもの(ただし、「コスト上昇したが、価格転嫁するつもりはない」「コストは上昇していない」「分からない」は除く)
人件費や物流費に対する転嫁率は3割程度
自社の主な商品・サービスにおいて、「代表的なコストとなる原材料費、人件費、物流費、エネルギーコストを項目別にそれぞれどの程度転嫁できているか」を尋ねたところ、原材料費に対する価格転嫁率は48.0%、人件費は31.3%、物流費は34.7%、エネルギーコストは29.5%となった。
原材料費に対しては5割近くまで転嫁が進んでいる一方で、物価高や人手不足にともない給与などを引き上げざるを得ない状況になっている。さらに、ガソリン補助金の縮小などで物流費が増えるなど、人件費や物流費に対する転嫁率は3割程度にとどまっている。
エネルギーコストの転嫁率については「エネルギー価格の上がり方が見積もり時より早く、反映できない」といった声もあるように、急激に変化するエネルギー価格に対する転嫁は難しく、本調査で把握した4項目のなかでは最も低くなった。
価格転嫁を進めるためには何が必要か
賃上げが物価上昇に追いつかず、実質賃金は2022年から3年連続でマイナスとなり、2025年1月も3カ月ぶりにマイナスに転じている(※2)。
政府、日銀が目指す物価と賃金の好循環による経済の活性化は十分に進まず、個人消費の回復は鈍い状況が続いている。
TDBはこうした状況に対して、「実質賃金の低下が続く限り、消費者が値上げに敏感になり、購買を控える傾向が強まってしまう。このような現状を打開し、価格転嫁を進めるためには、企業努力だけでは限界があるといえ、消費者の購買力を向上させる必要がある」としている。
同社は各企業が単独で価格転嫁を試みても、競争が激しい市場にあっては困難が伴うため、協調して価格戦略を立てることも肝要と続ける。さらに「政府には、税制の見直しや補助金などきめ細かな施策を通じて、企業がコスト増加分を転嫁しやすくする政策や環境を整備することも求められる」と指摘した。
※2:厚生労働省「毎月勤労統計調査・2025年1月速報」(2025年3月10日公表)