K-Beautyが日本市場にアプローチするために必要な分析と戦略 「Qoo10 K-Beauty Conference」より
日本の化粧品市場でのさらなるシェア拡大が確実視されているK-Beauty(韓国コスメ)。韓国のビューティー関連企業は、どのように日本のビューティー市場、EC市場にアプローチしようとしているのか。その分析と戦略を、2025年3月に韓国・ソウル市で開催された「Qoo10 K-Beauty Conference」内のセッションから探る。
日本におけるK-Beautyの浸透度合い
日本のEC市場におけるK-Beautyの売上トップシェアを占めている「Qoo10」は、eBay Japan合同会社が運営するインターネット総合ショッピングモール。今回紹介するのは、「Qoo10 K-Beauty Conference」で行われた、世界的な戦略コンサルティングファーム、Bain & Companyのシニアパートナーであるカン・ジチョル氏の講演である。
カン氏によると日本でのK-Beauty人気は、Kカルチャーがスタート地点だという。
「日本の消費者がK-Beautyについて関心を持ち、リサーチを始めたのは、K-POPからだと思います。そこからK-POPアイドルに対しての“ワナビー消費”が始まりました。しかし今では、そのようなK-POPとは無関係に、K-Beautyが次世代やα世代(2010年以降に生まれた世代)のライフスタイルに溶け込んでいると私は見ています」(カン氏)
その証が、日本の化粧品売り場だとカン氏は語る。K-Beautyのブランドを区別して販売されているわけではなく、日本の競合品と一緒に陳列されている。したがって消費者からは、どれがK-BeautyでどれがJ-Beauty(日本のコスメブランド)なのかは、判別できない。つまり日本の消費者は、「K-Beautyだから」「K-ポップ アイドルが使っているから」という理由で消費しているのではなく、非常に速いスピードでトレンドが推移しているK-Beautyそのものの魅力が訴求ポイントとなって、購入されているのだという。
「ある意味で、一つのステージを超えている状態であり、次の成長のために非常に前向きなシグナルだと私は見ています」(カン氏)
K-Beautyを使っている日本の消費者の属性を示した資料で、カン氏が特に注目しているのは年齢だ。
「15歳~24歳の若い世代はK-Beautyへの寛容度が非常に高く、71%がK-Beautyの使用体験者。使用を検討したことがあるという9%まで含めると、非常に寛容度が高いことがわかります。またこの世代がK-Beautyの経験を拡散していることも重要。韓国でも、母親が娘からトレンドのコスメを学ぶといった現象がありますが、日本においても非常に潜在力が高いと考えられます」(カン氏)
したがって、K-Beauty企業が日本進出する場合、フォーカスするべき層はまず15歳~24歳、次いで25歳~34歳だとカン氏は明言。こうした層に対して、若年層向けのブランドだと位置付けてもらい、グローバル展開を狙う場合には、日本はとても良いマーケットになると分析した。
K-BeautyとJ-Beautyとの違い
K-Beautyが日本の化粧品市場に進出する場合に大きな競合となるのは、もちろん日本のコスメブランド=“J-Beauty”だ。2つの違いはどこにあるのか。カン氏は大きな違いは、新商品のローンチの頻度の差だと指摘する。
「K-Beautyでは新製品を頻繁に発売していて、2~3カ月に1度は新しいブランドをローンチすることで市場のトレンドをリードしています。一方、J-Beautyの場合、私たちから見ると、新発売の速度が非常にゆるやかに見えます。その理由は、日本の消費者が化粧品の購入に対して非常に慎重な姿勢を持っていること。特に年齢の高い消費者はその傾向が強く、自分が使っている化粧品をあまり変えたくないと考える人が多いために、日本では同じような商品を売り出すことができるのです」(カン氏)
韓国のブランドのトップ10の推移を見ると、トップ10に毎年、3つの新しいブランドが入っている。それに対して日本の場合は、トップ10ブランドにあまり変化がない。ただし若者世代は違う傾向を持っているというデータもある。日本の消費者の声を聞くと「K-Beautyは商品の種類が多い」「商品の入れ替わりが激しいので、トレンドをスピーディーに感じることができる」という声が多く、こうしたことを踏まえるとK-Beautyの勝算があるのでは、とカン氏は見ている。
K-Beautyが日本のマーケットに進出するうえで、カン氏がもうひとつ注目しているのが「EC」だ。同氏が示したデータによれば、日本で売られているK-Beautyの合計を100とした場合に、71%はオンラインで販売されており、これはオフラインで出店・販売する難しさを意味する。さらにカン氏は、オフラインにおける日本の流通構造の複雑さも指摘した。
「日本の場合、オフラインにおける流通が非常に複雑な構造になっています。ですから、それがよくわからない事業者がオフラインで参入することは簡単ではありません。さらに通貨をはじめとするさまざまな手続きの問題もあります。そのためにK-Beautyが日本に進出する際にはECのプラットフォームを利用することになって供給もオンラインに集中します」(カン氏)
日本の消費者がK-Beautyを購入する理由は、最新のトレンドをいち早く使いたいということ。したがって最新のトレンドが集中しているECで買い物をする消費者が圧倒的に多く、それが好循環を生み出している。カン氏は、この傾向は当分変わらないと見ている。ではどのようなプラットフォームを使うべきか。カン氏は、化粧品に特化した場合、トップはQoo10だと言う。
「日本の化粧品ECでは楽天、Yahoo!、 Amazon、Qoo10が四大プラットフォームであり、日本でECを行う場合は、このプラットフォームに集中することになります。ですが、その中で特に若年層が集まっているプラットフォームを攻略するとなると、Qoo10であることがデータからもはっきりと示されています」(カン氏)。ただし35歳以上になると、日本の伝統的なプラットフォームである楽天が強いので、ターゲットによってプラットフォームを使い分けることも重要だという。
日本で成功するにはローカライゼーションが重要
ではK-Beautyが日本に進出する場合、注意しなければならないことは何か。カン氏は「韓国の消費者と日本の消費者の違いを理解し、日本の消費者に合わせてローカライゼーションすること」だと語る。
「日本の消費者と韓国の消費者の違いは明らかです。例えば、日本の消費者は買い物に際して、韓国の消費者よりもはるかに慎重です。製品名における言葉の選定、詳細ページの構成、そして接客のし方も、オンライン、オフライン、それぞれ異なりますから、韓国で成功したやり方をただ踏襲するのではなく、専門家とともに議論や協議をしながら戦術を立てていくことが非常に重要だと考えています」(カン氏)
また消費者が化粧品のどんなジャンルにお金を使っているかを、GDPとも照らし合わせたデータを見ると、米国はカラー系の化粧品が強く、韓国はベースメイクの商品が強いことがわかる。そして日本で支出が多いのは、化粧水やクリームなどの基礎化粧品。一方、ヘアーやボディ製品は韓国よりも支出が低いことがわかる。こうした違いも踏まえて、攻略していくことが重要だと言う。
また、韓国では最近「アーリーアンチエイジング」(若い時から備えるアンチエイジング)が話題になっているが、日本でもアーリーアンチエイジングへの若い層の関心は高い。ただしそうした関心に対する訴求ポイントも、韓国と日本では異なる。商品の訴求ポイントを比較すると、美白や肌の色に関する訴求が、韓国の商品よりも日本の商品のほうが強いという。また、同じ成分が使われている商品でも、日本市場では「シミ対策」「美白」といったことが訴求されている。「韓国商品のアイデンティティ を持って日本に参入する際には、このようなローカライズが非常に重要になります」(カン氏)。
K-Beautyが日本において当面成長すると見込む根拠
カン氏は、「直近の5年間の日本のビューティー市場全体で最大の話題はK-BeautyとECだった」と振り返る。その理由は、過去5年間でK-Beautyが日本のビューティー市場で3倍以上の成長を遂げていること。金額で換算すると約18億ドルになるが、この金額は日本のビューティー市場の7%に相当するという。5年前は2%だったが、もはや7%に達しているのだ。一方EC市場については、日本ではコロナ禍以降に本格的な成長が始まり、ビューティー市場の中でも22%を占めるようになったと、カン氏はデータを示した。
「(ECの)数字だけを見ると韓国より5年ほど遅れていますが、過去5年間で韓国のECがどれだけ速く成長してきたかを考えると、これからの日本での成長ぶりも見えてくるように思います。ですからこの2つが日本でのビューティー市場におけるトレンドであり、その真ん中に、まさにK-Beautyがあると思います」(カン氏)
カン氏は、ここから5年間、K-Beautyは年平均で10%ずつ成長するだろうと語る。その根拠はいくつかある。ひとつは、日本のEC化がさらに進み、今後若い層が流入することが予想されていること。また韓国が先行しているビューティーインフルエンサー発のトレンドが今後は日本でも増えていき、興味深いコンテンツによってK-Beautyを支えていくことが期待されることも挙げた。
「K-Beauty という観点から見ますと、日本の市場はそのサイズ、成長性ともに非常に優れていますし、可能性を秘めた非常に魅力的な市場であることが、さまざまなデータから結果として出ています。今日のイベントが、皆様がさまざまな情報を集めて、ご自分のものにできる機会になることを願っています」(カン氏)