日本参入から約1年。Shopifyが世界で選ばれるその理由とは
2017年に日本へ参入を果たしたカナダ発のECプラットフォームShopify。世界中で利用され、日本参入から約1年足らずではあるものの、ローカライズ化も進み、日本国内でもシェアを拡大し続けている。注目を浴びるShopifyの魅力とはどのような部分にあるのだろうか。
Shopify専門の制作会社、フラッグシップ合同会社(以下、フラッグシップ)で代表を務める神馬 光滋氏とジャパンEコマースコンサルタント協会(以下、JECCICA)で客員講師を務める河野 貴伸氏に話を伺った。
Shopifyにコミットするほどの魅力とは
ーー神馬さんはShopify専門の制作会社とのことですが、そこに行き着くまでにどのようなきっかけがあったのでしょうか?
神馬 当社が創業7年くらいなのですが、設立当時はFacebookページの形が流行っており、Facebookページ自体の他言語対応機能が出てきたところでした。そこで「越境ECもできるようにしたいね」というところから海外出荷に対応したシステム調査しました。色々と見ていく中で、Shopifyに特にビビッときたのは、デフォルトでグローバル対応しているECプラットフォームなんだと感じたこと、そして、Shopify自体が当社でも使っている開発言語で開発されていることを知ったので、親近感を感じてShopifyを選びました。
河野 僕はもともとEC-CUBEのエバンジェリストをやっていて、そもそもイーコマースだったりオープンソースが好きなんですね。その中でも越境ECをやるのに何かいいものがないかと探していた時に、ニューヨークに住んでいる友人から「USのスタートアップブランドはみんなShopifyを使っていて、今後間違いなく世界で普及するだろう」という話を聞いたんです。全然日本語化されていなかったので、様子を見ていたのですが、昨年の5月にShopifyが日本に本格参入するという話があり、その際に神馬さんとお会いして、神馬さんが既に多くの実績を持っていて、「いろんなことができるから絶対広まっていく」という話をしてくれて、これは日本でもいけるんじゃないかと感じました。
世界中の成功例をベースにした提案型ECプラットフォーム
ーー河野さんから見て、Shopifyと他のオープンソースとの違いはどこにありますか?
河野 日本のECプラットフォームってお客様の店舗ごとのビジネスに合わせてひたすら機能を追加していくんですね。しかし、Shopifyは「世界中でこういう形が一番上手くいっているよ」というベースを提示した上で、そこに機能を追加していくイメージなんです。あとはShopifyほどパートナーを支援する体制が整っているサービスってないんですよ。僕も使い始めた頃には「こんなにしてもらっていいんだ」と思ったくらい手助けがあるので、使う側として不安がありません。
ーーどんなパートナー制度があるんですか?
河野:まずは『Shopify エキスパート』というパートナー制度があって、5個以上のストアを作って審査を受けると認定されるものです。パートナー同士で教えあうなど、オープンソースのコミュニティに近いですね。
神馬 最初驚いたのが、パートナー登録がサイトで会員登録するだけということと、事業者をShopifyに紹介すると事業者がShopifyに払う金額の20%がずっと戻ってくる仕組みになっているんです。
ーー神馬さんの会社が日本で初めて『Shopify エキスパート』に認定されたと伺っています。
神馬 はい、『Shopify エキスパート』の認定を受けたのが2013年の6月で、日本初でした。最初は『Shopify エキスパート』の仕組みがあるのを知らず、ECサイトの案件があるとShopifyで作っていたのですが、この仕組みを人に教えてもらい、申請しました。
ーーShopify専門の制作会社となるのには転換期があったのですか?
神馬 転換期は、2017年の1月ですね。当時国際化担当をされていたカントリーマネージャーのマーク・ワングさんが日本に来られて、「これから日本でやっていきたいんだけど、どう思う?」という話をされたんです。彼らが日本をちゃんとしたマーケットとして認識し、使命を持って日本で使える仕組みを作ろうとしていること、そしてサンフランシスコで開催されたShopifyのパートナーカンファレンスに参加する中で魅力を感じました。
実はその直前にも何個かShopifyで越境EC案件をやっていました。たまたまその時期に作ったECサイトが公開日に何百件と注文が入ったりとか、低単価な商品にもかかわらず、まとめ買いをして5,000円のオーダーに対して8,000円の送料を払うお客さんもいらっしゃって。世界にはそうしたお客様がいるんだと感動したというのがあります。
もう一つありまして、もともと海外で育ったため英語を使えるんですけど、あまり仕事に活かせていないなという意識があり、この3つを活用できることが当社がShopifyの制作にコミットすることに繋がっています。
システムがシンプルだからこそ海外独自の課題に集中できる
ーー日本では売上が伸び悩んでいる方が多いですし、人口減少でマーケットが縮小すると言われています。とはいえ、過去に越境ECにチャレンジしたも失敗に終わってしまったというケースも少なくありません。
河野 僕はShopifyを使う前に自社開発で何社か越境ECをやっていたんですよ。まぁ大変でした。台湾に向けてのサイトでしたが、最初は統一発票と呼ばれる公式のInvoice(インボイス)を発行しなければいけないというのを知らなくて、「なんじゃそりゃ」って思いましたね。ヨーロッパやシンガポールなどにも行きましたが、色々と細いルールがあるのを見て、結構絶望したんです。
ですから、なるべくそういった運用部分に意識を向けられるように、システム保守や改修は相当楽にしないと運営側は回らないんだなと思いました。そういう意味だと、Shopifyは楽なんですよね。実際に自分でやってたことがあるからこそShopifyの楽さがわかります。多くの方には「Shopifyはとりあえずこの金額でサクッとできるから、まずは契約して運用して、実際に商品を送ってみる。そしてお客さんの反応を見て、サイトをつくり込みたかったらパートナーさんに相談してみるといいよ」と伝えますね。
ーー最近は台湾の越境ECが話題になっていますが、台湾は商品を使っても返品が可能らしいんです。返品率も日本と比べると高いそうで、広告費などにもお金がかかることを考えると、リピート系の商品じゃないと割に合わなくなるのでは、と思うのですがいかがでしょうか?
河野 商材によりますよね。なんだかんだ言って、価格が高くなればなるほどリアルの場所がないと厳しいんですよ。僕らも施策を進めていく中で気づいたことが、ECだけでケリをつけようとするのはもはや無理だなと。僕らもぶつかる問題ですが、国によって宗教だったり文化が違う中で、こういう商品はダメとか、こういう言葉は使っちゃダメっていうのを全て自分たちで網羅しようと思うと、準備だけで何年もかかってしまう。
なので、とりあえずテストマーケティング的にやっていきつつ、わからないことを相談できる体制を作っていくしかないんだなと思います。Shopifyはパートナーさんの中で専門の方々を探すことができる。とりあえず、少しずつ進めていくっていうのが僕の中での1個の答えだったので、いろんな人たちに相談しながら、それができるっていうのが大きいですね。
神馬 マーケティングをしていて面白いなと思うことが、世界で30カ国に出荷できるとして、仕組みを整えてFacebook広告とかやっていくと、案外マレーシアが反応いいなとか、タイが思ったより売れないなとか、データがかなり集まってくるんです。越境ECの先って現地での実店舗を展開するみたいなところありますけど、そのためのデータがかなり得られるというのが面白いのです。現地進出するほどのコストをかけずにマーケティングを広くやって、この市場が行けるという仮説を持って進んで行くことができるのは魅力かと思いますね。
激変するEC業界の中でも日々進化するShopify
ーー長くお付き合いされている中で、Shopifyに変化はありましたか?
神馬 気付いたらトロントとニューヨークで上場していましたし、あとは管理画面が何回かリニューアルして、今どきっぽくなってますね。常々機能が追加され、アップグレードしている印象です。それ以外ですと、日本オフィスができましたね、日本チームがいるっていうのは大きいです。
ーー河野さんはいかがでしょうか?
河野 この1年、2年で「いいの?」ってくらい日本のことを考えてくれてるなと思いますね。僕の中でずっと懸念だったのは、やはり日本人にとっては、管理画面が日本語であることがとても大事なんだということ。僕も海外のツールが好きでよく使うんですけど、ECの担当者さんの中には「英語はちょっと・・・」って声が結構あります。だから、ここまでのスピードで管理画面を日本語化してくれたShopifyは本当に本気なんだなって感じます。
神馬 一つ凄い面白いなって思ったのが、日本のECサイトの住所入力画面って、郵便番号を補完するじゃないですか。最初の頃は日本ローカライズが進んでいるもののその機能がなくて、事業者から郵便番号補完を入れて欲しいっという意見が結構あったんです。
それがShopifyにも要望として伝わっていまして、Shopifyのエンジニアとどうしようかって議論をした時に、自分の発想としては「典型的なやり方として日本郵便のサイトから郵便番号と住所のリストをダウンロードしてデータベースに入れて補完するといいと思う」と。ただ、向こうのエンジニアの方が「変更されたら更新をかけなきゃいけないのは面倒だ」と指摘されて。彼が思いついたのはグーグルマップのAPIを使って郵便番号から補完するということでした。日本で当たり前のやり方ではなく、より良いやり方で、同じ、もしくはよりベターな形でやるという。
さらに面白いのが、日本起点で始まったその機能が他国でも実装されていて、Shopifyとして日本の学びがプロダクトにフィードバックされてグローバルで使われているという、そのスケール感や自動化の仕組みが非常に面白いなと思います。
ーーShopifyは”日本から世界を見る姿勢”を大切にされていて、日本でプロダクトを良くすることによって、世界でもどんどん良くなっていくという観点を持たれているそうですね。
”まずは試してみる”がEC事業を成長させる
ーー河野さんはご自身が代表取締役を務められているFRACTAでもECプラットフォームをご提供されていますよね?どういった立ち位置にいらっしゃるのでしょうか。
河野 FRACTAの他にも土屋鞄製造所のデジタルコミュニケーション室室長などもやっています。僕個人として、またFRACTAとしても、本来のミッションは「ブランドが生き残っていくためにあらゆる手段を提案し、設計、実装する」ことです。ECってステージに合わせていろんなものを的確に選択しないといけないんです。そういった意味で僕たちのミッションを達成するために、無理に僕らのプロダクトを勧めても仕方ないなと最近気付きました。そして僕らがもっているECプラットフォーム「FRACTA NODE」でカバーしきれない領域をShopifyはすべてカバーしてくれていると感じているので、僕としてはShopifyをどんどん普及させたいという考えています。
もちろん、使うECプラットフォームを判断する時には迷います。しかし、この場合はどれが良いんだろうって考えた時に、選択肢として多いのはやはりShopifyだった。ですから、Shopifyをもっと多くの人に使ってもらって、パートナーさんが増え、一緒に連携を組めれば、僕らとしても一番やりたいブランドを成長させることに一番コミットできると思っています。
ーーShopifyへ期待されていることはありますか?
神馬 ShopifyはAPIが非常に充実していまして、機能の拡張がしやすい仕組みになっています。足りない機能については当社で作っているので、ある程度の機能はカバーできるんですけど、それでもカバーできない部分があります。例えば、お客様の国の通貨でそのまま販売できる仕組みとか、いろいろあるんですけど(笑)。
でも、あまり不満なことはないですね。自分にとってShopifyって希望の塊なんです。これまでの1年間で問題もどんどん解決されてきましたし、Shopifyとしては対応しないだろうと言われていた変更も実施されました。今、課題がないわけではないですが、それをShopifyが解決するか、我々が解決するという選択肢が与えられているんです。
河野 いろんなオープンソースを使ってきて、常に思っていることがあるんです。それは実際にEC事業者だったり、依頼したい人たちはいろいろ調べてShopifyにたどり着きますが、日本の場合は自分たちだけで解決できるって人が少ないんですよ。もちろんご自身でいろいろと進められる方はいますが、やはり相談したいと思っている人たちが多くて。今までのプロダクトやサービスでもパートナー制度はありましたが、そのパートナーの得意分野や実績の情報がとても少ない・・・と感じていました。ですから、Shopifyさんのサイト内でパートナーの専門分野や強み、キャラクターなどが詳しくわかるようになればすごくいいかなと思います。
ーー読者さんにお伝えしたことはありますか?
神馬 自社でサイト制作などをお手伝いする中で、サーバー管理に限界を感じることが度々あるんです。2、3サイトならいいんですけど、10サイト20サイトってなってくると管理しきれない。Shopifyですと月額29ドルのプランから1分間1万件の購入に耐えうるサーバー構成になっていますので、そこの心配がありません。同じ予算、あるいはリソースを守りに使うのではなく、全部攻めの方に使えますから、より物事が前進できる。インフラが管理されているSaaSでありながら、機能拡張も柔軟に出来る。その両面の良いとこ取りなのが、安心してShopifyを使い続けられる理由です。
河野 やはり海外から入ってきたものなので、最初はちょっとウッてなる方もいらっしゃるかもしれないんですが、2週間の無料期間もあるので、とりあえず触っていただくのが一番良いなと思いますね。皆さんから「難しいんでしょ?」っていうのはすごく聞く声ですが、もう英語じゃないよって伝えたいです(笑)。
僕たちのプロダクトを使ってもらった方でそんなに売上規模がまだ大きくなくて、越境ECを含め攻めにお金を使っていきたいんだって人には「Shopify使ってみて」って伝えてるんですね。そうすると「何これめっちゃ使い易いじゃん!」って方が多いので、食わず嫌いな状態を何とかしたいっていうのはお伝えしたいですね。