楽しむという”コト”を提供するUCC上島珈琲の新戦略「My COFFEE STYLE」

利根川 舞

UCC上島珈琲株式会社
右:マーケティング本部 デジタル推進部 部長 染谷清史氏
左:DTC事業本部 CSUチーム 係長 木次日向子氏

実店舗にECサイト、SNSなど消費者が商品に触れる機会は非常に増えている。その分、選択肢も増え、「自分にはどの商品があっているのか?」「本当にいい商品とは?」という迷いが生まれてしまう。

先日、『My COFFEE STYLE』というコーヒーの楽しさを伝えるO2OプラットフォームをリリースしたUCC上島珈琲株式会社(以下、UCC)のマーケティング本部 デジタル推進部 部長 染谷清史氏、DTC事業本部 CSUチーム 係長 木次日向子氏にコーヒーを選ぶ楽しみを提供する理由を伺った。

自分の好みのコーヒー豆が届くだけではない

自分の好みのコーヒー豆が届くだけではない『My COFFEE STYLE』の詳細はこちら:https://mystyle.ucc.co.jp/

ーー『My COFFEE STYLE』の概要を教えてください。

染谷 『My COFFEE STYLE』は味覚評価データに基づいて個人の好みに合わせたコーヒーを提案する、O2O プラットフォームサービスです。コーヒーの選び方をサポートし、楽しく選べるようにすることを主眼に置いています。テイスティングキットに入っている4つのコーヒーを飲み、レビューを入力することで好みを「My COFFEE マップ」の中で視覚化します。サブスクリプションサービスではこのデータをもとに、好みに合わせたコーヒー豆を16種類の中から毎月お届けします。

染谷 マップを見ていただくとわかるのですが、マップには16種類以上の枠があります。この『My COFFEE マップ』には直営店のCOFFEE STYLE UCCで販売しているものも入っていますので、店頭に行けば16種類以外のコーヒーも購入いただくことができます。

ーー3月上旬に無料でテイスティングキットを先着配布された際、10時間で予定数に達したそうですが、お客様からはどういった反響がありましたか?

染谷 今回のサービスのターゲットである「コーヒーの探し方がわからない」という方はもちろんの事、すでにUCCブランドのファンである方からも、新しいサービスに対する期待の声をいただいています。

ーー新しいファンを取り込みつつも、既存のファンの育成もできているんですね。開発にはどのようなきっかけがあったのですか?

染谷 『My COFFEE STYLE』のトップページにも「どんな豆を選んだらいいの?自分の好みってどれだろう?」と悩んでいる写真があるのですが、実はこれ私の原体験なんです。私がこの会社に入ったのが一年ほど前なのですが、店頭のショーケースにコーヒー豆が並んでいるのを見て、どう選んだらいいのかわかりずらかったんです。選び方がわからない方をサポートできるサービスがあれば、さらにターゲットが広がるのではないかと考えたのもきかっけの一つです。

木次 私は長い間、UCCグループの運営しているコーヒーショップで働いていまして、直近の2年間は焙煎豆の販売をしていました。その中で、「どう選んでいいかわからない」とか、一度買って嫌いじゃないからそのまま購入しているというお客様が多かったんです。しかし、コーヒーの種類を自分で選ぶことはできなくとも人それぞれに好みがあり、決して何でもいいわけではないと思うんです。そういう方々にコーヒーの奥深さや楽しさをどう伝えるかが課題でした。『My COFFEE STYLE』であれば、そういった課題の解決策になると思います。

また弊社の研究開発施設「UCCイノベーションセンター」には、「味覚センサー」と呼ばれるコーヒーの味を分析し、数値化する装置があります。この装置を使うことで、数値化された何百種類ものコーヒーの味を比較して、今消費者に支持されているコーヒーの味や、まだ市場にないコーヒーの味を見つけることができ、トレンドの調査や新製品の開発に活用されています。

『My COFFEE STYLE』ではこのような味分析の技術を活かして、取り扱うコーヒーの味をお客様にもわかりやすい「My COFFEE マップ」という形で表現しています。

ーー通常は目に見えない味覚というものを数値化し、目に見える形にできるのは面白いですね。

染谷 あまり例のないところに突入していると思いますね、本来は難しいんです。味覚はコンディション次第なので。そのため、『My COFFEE STYLE』では機械的に教えるというよりも、「それを飲んだ時にあなたはどう感じましたか?」という、あくまでもメモ感覚の登録方法になるようなUX設計にしています。

開発スピードを加速させた開発の内製化

開発スピードを加速させた開発の内製化

ーーここからは開発について伺いたいと思います。『My COFFEE STYLE』の計画がスタートしたのはいつ頃ですか?

染谷 始まりは2018年の1月ですね。消費者向けの重点施策として始まりました。そして2018年の夏頃からはCOFFEE STYLE UCC横浜店で不定期にイベントを開催。プロットタイプのアプリをお客様に使っていただき、フィードバックを得て改善していきました。

ーー『My COFFEE STYLE』の開発は内製化されているんですか?

染谷 今回、データベースと味覚センサーのマップデータ、そこから照合するロジックの作りこみをしなければならず、完全にフルスクラッチで作っています。社内の会議室を1つ潰して開発チームを作りました。イノベーションセンターのメンバーとエンジニアが直接コミュニケーションをとりながら開発できるようにしています。

今後は店頭でのタブレットやアプリの活用を企画していまして、様々なチャネルに応じた開発に対応するために、当初から内製化していました。すでにあるカート型のオンラインショップとは異なるため、いただいたフィードバックをすぐに反映できる開発体制にしたかったんです。

ーーチーム作りをしながらプロジェクトを進めるのは大変だったのではないでしょうか。

染谷 よくこんなに面倒臭いことをやったなとは思います(笑)チームを作りながらプロットタイプを作り、サービスを作りという状況だったので、なかなか立ち上げの難易度は高かったですね。

ーー『My COFFEE STYLE』はサブスクリプションモデルを採用されていますが、その理由を教えてください。

染谷 コーヒーって嗜好品的な要素もすごく強い一方で、日常的に飲んでいただいて、習慣化しやすい商材でもあると思っています。また、昨今、サブスクリプションが一般的なものになってきたこともありますし、何より定期的に新しい味を知ることができる楽しみと、毎月異なる商品が届くという楽しみを伝えられるというのも大きな理由です。

また、味覚というのは実際に飲まなければわからないものですから、オンラインサービスで提供するにはアパレルよりも難しいものだと思っています。そのため、O2Oという概念は計画の当初から入れたいなと思っていました。

ーーサブスクリプションサービスでは16種類のコーヒーを好みに合わせて送られると思うのですが、出荷までの仕組みはどのようになっていますか?

染谷 好みに合わせてアソートをする必要があるため、自社でシステムを組み、ピッキング情報を出せるようにしています。また、お客様への配送に関しては、もともと直営店への配送で利用している物流網を活用しています。

木次 お客様の好みの豆をお送りするだけでなく、「『My COFFEE マップ』の中でこのゾーンを選んだ方にはこの豆も合うのではないですか?」という我々からの提案商品もあるため、オペレーションに関しての負荷は大きいかもしれません。しかし、『My COFFEE STYLE』の良いところは、ただ好みの豆が届くだけでなく、コーヒーの楽しさを知るところにあるので、お客様に楽しさや面白さをお伝えできるのであれば、ある程度の負荷があったとしても問題ないと思っています。

オンラインとオフラインの垣根を変えて楽しみを届ける

オンラインとオフラインの垣根を変えて楽しみを届ける

ーー今後はどのような展開をお考えですか?

染谷 今年はUCCグループの会員組織に既に入会しているお客様にテイスティングキットを使用していただいて、『My COFFEE STYLE』におけるIDの獲得を重視して進めていきたいですね。また、当初からオンラインとオフラインの連動を意識しています。そのため、サブスクリプションサービスをきっかけに会員になってくださった方をいかに店頭へ連れてくる、店頭で試飲していただいたお客様をオンラインに誘導するためにも、『My COFFEE STYLE』のIDデータと購買データを一元管理できるような仕組みを進めています。

UCCグループには量販店に並んでいる商品や缶コーヒーなどもありますから、顧客接点は直営店舗やECサイトに限りません。『My COFFEE STYLE』は汎用的に作っており、小売店で商品を購入されるようなお客様にも『My COFFEE STYLE』のサービスを提供できる可能性があります。ですから、各所での連携も今後は画策していきたいですね。

染谷氏はUCCにおいて『My COFFEE STYLE』が消費者向けの重点施策とされていると語っているように、”課題を解決し、楽しさを提供する”という体験を提供するこの取り組みは、付加価値をつけることの重要性、そして付加価値の多様性を示している。『My COFFEE STYLE』の取り組みは新たなモノの売り方として、EC業界においても新たな風を吹かせてくれるのではないだろうか。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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