顧客に好かれるコンテンツ”でECのLTVを高める秘訣とは?クラシコム×Repro対談
「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコムの青木耕平社長と、CE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム「Repro」を提供するRepro株式会社の平田祐介社長による対談の後編。ディスカッションのテーマは、EC事業のLTVを高めるために、顧客から好かれるコンテンツを作るノウハウなど、より実践的な内容へと進んだ。
前編:いまECに求められる“カスタマーエンゲージメント”とは?
→https://ecnomikata.com/original_news/24556/
社員の「おもてなし」の気持ちを引き出すために、業務効率化で「時間と心の余裕」を生み出す
平田:LTVを高めるために、まず必要なことは、自社にとって大切なお客さまの姿をしっかり定義することです。その上で、そういったお客さまを増やすためのマーケティングの戦略を設計し、適切なKPIを設定することが重要です。
また、LTVを高めるには「ハード」と「ソフト」の2つの側面でアプローチする必要があると思っています。ディズニーランドを例に上げると、「ハード」とはアトラクションやお城などの設備、「ソフト」はキャスト(園内のスタッフ)による接客です。
LTVにおける「ハード」と「ソフト」といった考え方について、青木さんはどう捉えていますか?
青木:「ハード」と「ソフト」の考え方は、とても重要な視点だと思います。
平田さんがおっしゃったディズニーランドの例えは私もよく使うのですが、キャストのパフォーマンスという「ソフト」の価値を最大限に引き出すには、キャストが自発的にお客さまを楽しませたくなる環境を整えてあげることが大切だと考えています。
会社側がKPIの数字を設定し、それをキャストに課したらポテンシャルを引き出せない。だって、ディズニーランドのキャストに「今日は5,000人を楽しませろ」と指示したら、キャストは数字の達成を意識してしまって、心からのおもてなしはできませんよ。
平田:クラシコムさんは、社員のポテンシャルを引き出すために、具体的に何か取り組んでいることはありますか?
青木:心の余裕を生み出すために、業務効率化に取り組んでいます。
良い商品を作り、お客さまに良いサービスを提供するには、社員が心の余裕を持つことが必要だと思っています。「誰かを喜ばせたい」という気持ちが自然に生まれるのは、本人に余裕があるときですよね。そして、心の余裕を作るには、時間を生み出さなくてはいけません。つまり、社員のパフォーマンスを高めるためには「仕事の効率化」が必要なんです。
弊社はEC事業を効率化するために、2010年ごろから継続的に、システム開発に相当な金額を投資しています。ちなみに、今使っているECシステムは、ほぼすべて自社で開発したものです。
平田:業務を効率化のためにシステムへの投資を重視しているというのは、少し意外でした。
青木:弊社はテックカンパニーのような側面があるんですよ。普段は絶対にそういった表現は使いませんけど。
弊社は、購買データから需要を予測し、自動発注するシステムを独自に開発しました。発注する商品のSKUと発注数が自動的に決まり、ボタン1つで約100社の仕入れ先に発注できる仕組みです。
こうしたシステムを作ることで、年間で約30億円を売り上げていても、発注業務に携わるのはごくわずかなスタッフに抑えています。
仕事を自動化すれば、より付加価値が高い仕事に時間を割けます。そして、社員に余裕が生まれ、そのことがコンテンツ作りや接客などの質と量の向上につながっていく。それが結果的にLTVの向上にもつながると考えています。
顧客が求めるコンテンツならメルマガを週6回送っても嫌われない
平田:クラシコムさんはお客さまに対して、どのようなチャネルでコンテンツを届けているのでしょうか?
青木:メルマガは週5~6回、LINEは毎日送っています。その他にFacebookやinstagram、YouTubeなどでも発信しています。
平田:売り上げへの貢献度を教えていただくことはできますか?
青木:メルマガ経由が売上高の3割以上を占めています。
平田:クラシコムさんはCRMに強いとは思っていましたが、メルマガ経由が売上高の3割を占めるというのは、すごいですね。
しかも、メルマガを週に5~6回送っても、お客さまから嫌われない。お客さまから求められているコンテンツを送っているのでしょうね。
青木:お客さまが欲しい情報であれば、メルマガを何通送っても嫌われないと思いますよ。
メルマガが嫌われる原因は、「メールマガジン」ではなくて「チラシ」を送っているからだと思います。お客さまからすれば、雑誌(マガジン)を読みたいと思って受信を許可したのにチラシが送られてきたら怒るのも当然です。
平田:「Repro」のお客さまの中には、アプリのプッシュ通知を送りすぎると、アプリをアンインストールされると心配している方もいます。そして、「1日に何通送るのが最適ですか?」とよく聞かれるんです。でも、青木さんがおっしゃった通り、嫌われるかどうかは内容次第なんですよね。
青木:弊社はLINEでもメッセージを毎日送っています。LINEも送りすぎるとブロックされると言われますが、コンテンツを工夫すれば、まったくそんなことはありませんよ。
平田:どのようなコンテンツなのか気になります。
青木:「日めくりカレンダー」をモチーフにすることで、毎日ほぼ決まった時間に開封してもらうようにしています。
平田:「日めくりカレンダー」は上手いですね。
青木:「日めくりカレンダー」は、一旦見る習慣ができると、毎日来ないと逆に気持ち悪くなるんですよ。
平田:いつ、どのような方法で、どのようなコンテンツを届ければお客さまに喜ばれるか。そして、お店に来たくなるのか。そこから逆算して、ユーザーの行動や状態に合わせて最適なタイミングで施策を打っているクラシコムさんは、LTVを高めるために必要なことをしっかり押さえていらっしゃいますね。
Reproはマーケターのポテンシャルを増幅させる「モビルスーツ」
平田:コンテンツを誰に対して、いつ、どのような内容で送ればLTVが高まるかの判断は、多くの企業はこれまでマーケターが経験や洞察によって行なっていたと思います。
しかし近年は、AIによって配信タイミングの最適化を自動で行えるようになってきているんです。
青木:ユーザーごとに送るタイミングを変えられるということですよね。それが上手くいけば、ユーザーにも親切な話ですね。具体期に、どのように行うんですか?
平田:「Repro」では、ユーザーの活動量が多い時間帯や曜日などをAI(人工知能)が分析し、そのユーザーが開封してくれる確率が高いタイミングを特定します。
また、ユーザーの属性データなどを分析し、特定の条件に合致したユーザーがECサイトを訪れたときにだけ、準備しておいたコンテンツをポップアップで表示するといったことも可能です。
クラシコムさんであれば、特定の記事を読んだのに商品を買わずにサイトを離脱したユーザーさんに限定してメルマガを配信するといった施策も行えます。
青木:コンテンツを作っている人たちは、「いつ配信するか」を考えやすくなるかもしれませんね。その分、より良いコンテンツを作ることに専念できたりするのでしょうか。
平田:クラシコムさんが業務効率化のためにシステム投資を続けていらっしゃるように、機械に任せられる業務はシステム化した方が良いというのが弊社の考えです。
そして、人間は、遊び心が必要な仕事や、お客さまの心の機微を理解しなくてはいけない仕事に専念する。これが「Repro」が目指す世界観です。
青木:コンテンツを作る人間の力を増幅させるという意味で、「Repro」はガンダムのモビルスーツのような役割を目指されているのですね。
平田:そうですね。今後は、コンテンツを配信するチャネルを最適化できるようにする計画です。まだ実証実験の段階ですが、メールやLINE、プッシュ通知やSMSなど、チャネルごとの反応率を調べて、どのチャネル経由で送るとユーザーの反応が一番良くなるかをコンテンツを配信する前にAIが判別する機能も開発しています。
クラシコムが目指すコンテンツマーケティングの未来
平田:クラシコムさんはアプリをリリースした後、どのように事業を展開していくんですか?
青木:お客さまの可処分時間を少しでも長く、弊社に使っていだくために、あらゆることをやっていきますよ。今、特に力を入れているのはYouTubeを中心とした動画制作です。
弊社はIP(知的財産権)の活用を意識的に行なっています。動画の多くは、もともとテキストの記事でヒットしたネタをベースに制作しているものが多いんですよ。ヒットした記事でインタビューした方に、同じテーマで動画にも出ていただくなど、IPを有効活用しています。
平田:YouTubeで動画を配信すると、LTVへの影響はありそうですか?
青木:そうですね。動画は既存のお客さまを対象に、お客さまが求めているものを提供するというコンセプトで制作していますので、LTVにもポジティブな影響があると予想しています。
同時に、YouTubeがきっかけで新しい客層を開拓できている実感もあります。じつは最近、採用でもYouTubeの動画で弊社のことを知ったという人が増えています。特に若年層にリーチできているようです。
平田:既存客のLTVを高める効果に加え、若年層へのリーチにもつながっていると。
青木:結果論ですが、そういった効果もありそうです。
Reproの進化の先にあるのは「データで人間の機微を理解すること」
青木:Reproさんは今後、「Repro」をどのように発展させていくんですか?
平田:「Repro」はもともとマーケティングツールという位置付けだったのですが、現在は「カスタマーエンゲージメントプラットフォーム」へと進化しています。
これから国内の人口が減っていく中で、ECの新規顧客獲得はさらに難しくなっていくと思います。ですから、弊社は、EC事業者さまが既存のお客さまと長く付き合っていくためのきっかけを提供できるツールベンダーになることを、強く意識しています。
EC業界ではLTVの重要性が浸透しているものの、実際にLTVを計測し、LTV向上のために施策を実行できている企業は非常に少ないのが現実です。
「Repro」はLTVの計測と施策の実行、さらにはマーケティングの最適化を自動化するところまでサポートするツールを目指します。
また、「Repro」は購買データや顧客の行動データなどを分析することで、ロイヤル顧客が離脱する兆候を、高い精度で予測することもできるようになってきました。
今後は、離脱しそうなロイヤル顧客に対して、事前に何か手を打つことでお付き合いを続けられるようにするといった仕組みも実現していきたいです。
青木:お客さまとのお付き合いが終わってしまう兆候という、人間の機微みたいなものをAIが察するようになるんですか。
平田:そうですね。「Repro」は毎月4,000万台以上のデバイスで使われているアプリやブラウザのデータを収集しているので、そのデータを踏まえて人間の行動に対する理解を深めています。
大量のデータからユーザーの行動を予測するのは、弊社が得意とするところですので、行動予測の精度を高めていきたいです。
また、将来的には、ロイヤル顧客になる可能性が高いユーザーを抽出し、ロイヤル化のために必要な施策をAIがレコメンドするような仕組みも目指します。
青木:「Repro」さんの、さらなる進化に期待したいです。
平田:期待に応えられるよう頑張ります。
そろそろお時間が来たようです。名残惜しいですが、このあたりで締めたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。