発信しなければ始まらない!EC事業者がすべき広報・PR活動とは?

利根川 舞

株式会社シプード 代表取締役 舩木 真由美氏
マスコミ、大手PR会社、企業広報というキャリアをもとに2014年に独立。広報・PRの家庭教師として、スタートアップを中心に現在まで100社以上の企業の広報・PR担当者を支援している。「広報・PRの力で社会課題を解決」をモットーにノウハウを企業に提供し、広報担当者が自走して卒業することをゴールにしている。新サービスとして月3万円でPCやスマホから記者にPRできるクラウド記者クラブ「PRONE(プロネ)」の提供も開始。

素敵な商品にもかかわらず、世間に知られず、なかなか日の目を見ることができていない商品が溢れている。偶然の出会いから商品に出会い、口コミが広がり、大ヒットすることもあるが、ではその確率はどれほどだろうか。であれば、広報・PR(Public Relations)という視点で積極的に情報を発信・拡散する必要があるのだが、上手く取り組めていない企業は多々ある。

そこで今回、EC事業者がすべき広報・PR活動について、元楽天広報で、現在は各企業の広報・PRを”家庭教師”という立場で支援する株式会社シプード 代表取締役 舩木 真由美氏にお話を伺った。

認知を上げるためには発信をしていくことが重要

ECサイトへの集客手段として、主に使用されているは広告だ。しかし、リスティング広告の獲得単価が高騰していたり、ニッチな商品であれば検索すらされなかったりと、広告だけで消費者に知ってもらうことは難しい。また、SNSを活用している企業も増えてきているが、やはり消費者に見つけてもらう必要がある。

そこで注目したいのが、発信する情報を工夫し、メディアを介して消費者に情報を届ける”広報・PR(Public Relations)”だ。第三者であるメディアを介すことによって、受け手の情報信頼度も高くなる。

しかし、この”広報・PR”について、取り組めていない企業は少なくない。そこには圧倒的なリソース不足があると舩木氏はいう。

「EC事業者に限らず中小企業に共通していることは、とにかく人が足りないことです。目の前の売り上げを追いたいがために、営業・採用・経理などの業務が優先され、広報の優先度が低いんです」(舩木氏)。

また、いざ広報・PRを実践しようとするものの、人も時間も足りない。そして何よりやり方がわからない。多くの企業がそういった課題を抱えているのだ。

「だいたいの企業は新たに広報・PRに取り組もうという時、本を1冊読んだり、セミナーに参加してみたりと、そこまでのアクションはできるのですが、得たノウハウを自分のモノにできずに止まってしまうケースが多々有ります。しかし、そこでお伝えしたいのは、”認知を上げるためには発信をしていかなければ伝わらない”ということです」(舩木氏)。

広報・PR活動の第一歩”プレスリリース”

情報を発信するにしても、その手段はさまざまだ。どのような情報をどうやって発信をしていくべきなのだろうか。舩木氏は次のように解説する。

「まずはプレスリリースの発信です。プレスリリースは国内初や業界初といった”新規性”か、世の中のトレンドとなる”社会性”という、二つの軸のどちらかに絡めることで自然なニュース構成となります」。

舩木氏はこの二軸を活用して、数々のトレンドを生み出してきた。

「楽天市場の広報時代に仕掛けたのが”ワケあり商品”です。今では一般的になりつつありますが、足折れのカニやカステラの端、形状が不揃いの野菜など、本来は流通に乗らない規格外商品たちです。

当時、そうした商品を取り扱っている店舗は少なかったのですが、あるきっかけがあり、出店店舗さんにお声がけしたところ、あっという間に商品が集まりました。そして、”ワケあり商品”の特集ページをオープンし、記者向けに発表したところ、多数のメディアに取り上げられ、爆発的にヒットしたんです」(舩木氏)。

その当時、リーマンショックの影響で日本国内は節約志向になっていた。そうした”社会性”と、今まで捨てられていた商品が売られているという”新規性”が相まってメディアにも取り上げられたのだ。

「EC事業者さんの場合、『新商品ができました』で終わってしまうことが多いのですが、社会的意義や消費者の利便性向上など、誰の何の課題を解決する商品なのか、どんな利便性があるのかを書いてあげるだけで大きく変わってきます。しかし、皆さん咄嗟には整理ができないですし、自社の商品だと愛があるので尚更整理しづらい。PR会社など外部の方は客観的な視点で内容を見ることができるため、新規性や社会性の整理がしやすい。そういう点では外部委託もよいと思います」(舩木氏)。

また、ニュースのポイントをしっかりと整理することに加えて、タイミングも重要だと舩木氏は語る。

「発売後にリリースを出すケースも多いのですが、発売日よりも前、遅くとも発売当日に出すだけでも変わります。そこを知らずに先月発売しました、というプレスリリースを出してもそのプレスリリースは発売後の時点で新規性が弱いため、すでにニュース性が低く賞味期限切れ状態なのです」(舩木氏)。

ターゲットを定め、訴求する

ターゲットを定め、訴求する

プレスリリースを作成したところで、そのプレスリリースを把握し、拡散をしてくれるメディアを知ることも重要だ。舩木氏は「本当はメディア研究をしっかりしてほしい」とし、次のように解説する。

「専門系メディアにはいち早く取り上げてもらいやすいのでオススメです。彼らは業界内で第一報を報じるミッションを持っているので、広報・PR活動の第一ターゲットになります。

それに、初期段階でのターゲットってそこまで多くないはずなんです。最初にWebや雑誌、新聞を調べて、自社商品やサービス、業界について取り上げているような媒体をもとにメディアリストを作り、まずはプレスリリースや資料を送付することから始める。ここぞというときは電話をしたり、商品を持って挨拶に行ったりするだけでも大きく結果は変わってきます。

専門媒体の次にターゲットとなるのは全国メディアです。彼らはネタ元として常に専門媒体を張っていますので、専門メディアでの実績が出てくると動き出します。そして、この動きに続き、大体3ヶ月〜6ヶ月頃には世の中のトレンドごととして、テレビなどで取り上げられやすくなります。テレビ番組の場合は、新商品を紹介するコーナーを設けていること番組もあるため、そうしたコーナー宛にリリースを送ると掲載率が変わってきます。この半年のサイクルを回していくことがオススメです」(舩木氏)。

また、プレスリリース以外にもメディアとの接触ポイントは多数ある。EC事業者での例を紹介してくれた。

「スーパーフードを使用した健康食品を販売しているEC事業者を支援していた際、当時スムージーが社会トレンドになっていました。また、並行して”腸内フローラ”というワードがバズっていました。そこで、このスーパーフードを使用したスムージーレシピを作って試食会やメディアへのお披露目会を始めたところ、女性誌を中心に露出が取れるようになりました。

そのEC事業者は商材が一つしかなかったため、新商品発売など定期的に情報発信することは難しかったのですが、スーパーフードを解説する記者向けセミナーを開催したり、レシピを開発してカフェとコラボしたりと、見せ方を変えながら、メディアが取材しやすいように絵を作ることを重要視していました。当時、サービス開始から2年程でECサイトは年商1億円規模にまで成長しました」(舩木氏)。

広報・PRを行うことで、商品を知っている母数を増やすだけでなく、工夫次第で広告以上の体験を消費者に提供することができる。

「よく『広報・PRは広告の無料版でしょ』と言われるのですが、そうではないんです」と舩木氏。

情報拡散だけで終わらせない!CVポイントをしっかり設ける

メディアへの接触ポイントは大事だが、一番届けたい消費者の存在も忘れてはいけない。ECサイトの場合は、商品の購入が一つの大きなコンバージョンポイントとなるが、購入してもらえなければ、広報・PR活動の意味も半減してしまう。

「大手企業の場合は広報・PR活動により認知してもらって、ブランディングすることがゴールであるケースもありますが、ECサイトの場合は集客した人の受け皿を用意することを意識することが重要です。昨今はスマホが普及していることもあり、消費者はすぐにアクションを取ってくれます。たくさんメディアに取り上げられても、検索した人が行き着く場がなければもったいないですから、LPなどを用意するといいでしょう」(舩木氏)。

また、キャンペーンについて発信をしたならば、商品ページにキャンペーンに関するキャッチを入れるなど、受け皿になる部分でのコンバージョンを意識することも重要だという。

「楽天市場で広報を担当していた頃、とても大ヒットした洋菓子店さんがありました。とあるテレビ番組でその洋菓子店のお菓子が取り上げられることになった際に、お店の方に、”○○で紹介されました”という文言と、テレビ撮影時の取材風景写真をLPに入れて欲しいというお願いをしました。予想は当たり、放送後に注文が集中しました。検索から流入した人が番組名や撮影風景の写真があるだけで安心して買い物ができるんですよね」(舩木氏)。

”テレビ離れ”というワードも耳にするものの、今でもテレビ番組の影響力は大きいようだ。しかし、最近では消費者の情報源も多様化しており、広報・PRのあり方も変化しているという。

「最近変化が出てきている事例としては、InstagramやTwitterなど限定した場所でしか告知せず、その場経由でしか買えないものが増えてきているという点ですね。自分たちのファンだけに対しての販売なので、在庫は少ないのですがそれが一瞬で売れてしまう。

自社商品のターゲットを決めるときに、Instagramにターゲットがたくさんいるのであれば、手段を絞るのは有りですよね。消費者の情報源は山ほどあるのにもかかわらず、漠然と『テレビに出たい』とおっしゃる方が多いのですが、その商品のターゲットが情報源にしているものが何かというところから逆算していく必要があります」(舩木氏)。

半年後に向けて育てる感覚をもつ

「広報担当には、その会社の営業のエースを立てるとベストと言われています。エースは経営視点もPRの視点もしっかり持っていますし、何より自社サービスや商品への理解も深く、誰のどんな課題を解決するための商品であるかを時流に合わせて発信するのが得意だから。しかし、社長からすると会社の営業数字を落としたくないから、エースを広報・PR担当に異動させたくはない。そんな中、営業のエースが広報を担うことで、企業成長の加速に成功したのがマネーフォワードさんですね。そして半年後に向けて育てていく感覚が重要だと思います」と舩木氏は語っている。

広報・PRはリスティング広告などと異なり、すぐに目に見えて数字が伸びてくるものではない。しかし、何もせずにただ見つけてもらうのを待っているだけでは、そう簡単にサイトや会社を成長させることは難しいだろう。

多少なりとも時間やリソースは必要になるが、コストを掛けずに実践できるものもある。そして、自社の商品を一番理解しているのは自分たちだ。その情報発信も、少しの工夫だけで多くの人に知ってもらうことも夢ではないのだ。

もし今、広報・PR活動が後回しになってしまっているようであれば、少しずつでもチャレンジしてみてはいかがだろうか。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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