今後の注目企業はLINE!EC業界でのAI活用はどこまで進んでいるのか?

利根川 舞

ライオンブリッジ AI事業部長 セドリック・ヴァグレ氏

ECサイトで使用されているソリューションの中でAIが使用されているものは少なくありません。しかし、そうしたソリューション以外にも我々の見えないところでも多数使用されています。そして、AIは購買体験をより良いものに変える大きな可能性を秘めています。

今回、AIの研究開発に欠かせない教師データの作成やアノテーションを行うサービス「Lionbridge AI」を提供するライオンブリッジのAI事業部長 セドリック・ヴァグレ氏にEC業界におけるAI活用事例と、AIが購買体験にどのような影響を与えるのか、話を伺いました。

EC業界の最先端はやはりAmazon。海外のAI活用事例

ーーEC業界でも”AI”という言葉をよく耳にします。しかし、どのようにAIが使われていて、今後どう活用すべきなのかをわからない方が多いのではないでしょうか。

セドリック氏:そもそもAIが何でどんな新しいことができるのか。もしくは既存のプロセスをどんな風に改善できるかなど、想像しきれていない方は多いかもしれませんね。しかし、別の業界や企業での事例をお伝えすると『うちの業界にも入れたら面白いんじゃないか!』とおっしゃる方が多いんです。そのため、今回は活用事例を踏まえて、AIについてお話しできればと思います。

ーーありがとうございます。ライオンブリッジ社は米国に本社がありますが、海外のEC業界ではどのようにAIが活用されているのでしょうか。

セドリック氏:ECですと、米国だけでなくヨーロッパや中国も見たほうがいいと思いますが、米国で代表的なのはAmazonですね。昨年、米アマゾン共同創業者のジェフ・ベゾス氏は株主向けにAIに関する戦略を語っています。AmazonでのAI活用については2種類に分けることができるのですが、一つ目は目に見える画期的なAI活用です。たとえば、ドローンでの配送やAmazonの開発したAIアシスタントAlexaを搭載したAmazon Echoです。

またその一方で、表面上には見えていない部分でもAIが活用されています。まず一つ目に集客です。たとえばドイツのAmazon.deではドイツ人だけでなく、スェーデンやオランダ、チェコスロバキアなどいろいろな国の人々がAmazon.deを利用しています。そうなれば、ページの翻訳が必要になりますよね。『機械翻訳なんて前からあるよ』と思われる方もいると思いますが、集客のためには言語は重要な要素で、Amazonは昔からそこに注力しています。

次に検索も大事です。昔からキーワードを入力して検索する仕組みはありましが、今はAIの自然言語処理機能を使うことによって、本当にお客さんが探している商品を深く理解し、適切に商品を提示することによってコンバージョンが上がることもあります。また、チャットボットでのサポートや需要予測などにも活用されています。他にも、Amazonの倉庫ではロボットが活用されていますが、ロボットの管理やロケーション管理にもAIが活用されています。

実は日本もAIの活用が進んでいる!

ーー日本ではどのようにAIが活用されているのでしょうか?

セドリック氏:実は日本でもAIの活用は進んでいるんです。とくにLINEですね。彼らはもともとチャットから始まり、現在はAIアシスタント「Clova」やLINEショッピングなどでもAIを活用しています。多分、今のLINEは中国のWeChatと比較するとよいと思うのですが、WeChatはやはりチャットから始まり、ECやタクシーの配車サービスなど、日常生活、ビジネスともにWeChat上でできるようになっています。そして、こうしたサービスの利用データを積極的に取得しているんです。情報が多ければ商品の適切なレコメンドができますし、そのままチャットで購入できるのでCV率も高くなります。

実店舗に行くときに接客が上手な店員さんなら、お客さんが着ている服を見て好みを把握したり、推察することができます。また、接客をしていく中で、前回の購入商品を把握していれば、前回購入した服に合う商品を提案することも可能です。いずれはチャットボットでも声や表情からお客さんの感情を分析して、適切な提案をしたりと、逆に提案を控えることもできるようになるでしょう。とはいえまだ時間はかかりそうですけどね。

ーー昨年、LINEとヤフーと経営統合を発表しましたが、WeChatと同じ位置を目指しているように感じました。

セドリック氏:まったくその通りです。2019年の6月にLINEが開発・保有するAI技術を外部企業等へ展開する「LINE BRAIN」事業の始動が発表されました。API関連サービスを提供することによって、WeChatのミニプログラムようにLINE上でECビジネスに取り組むことも可能になります。LINEの最終目的はプラットフォームを作ることですから、そのために多くのデータを収集し、繋ぎこみ、レコメンデーションをしていく。日本のECのエコシステムはLINEのAPIや、プラットフォームの力でさらに加速するのではないかと思っています。

面白いのはLINEはもともとチャットのプラットフォームでECに対応し、逆にECから始まったAmazonはAlexaを使ったチャットに注力している。まったく別のビジネスから始まった企業が、どちらも”自然に購入に遷移させる”という点に向かっているんです。

AIによって購買体験が大きく変わる

ーー”自然に購入”とはどのような購入になるのでしょうか。

セドリック氏:今はインターネットを使って検索をして購入するのが一般的ですが、今後、買い物の仕方はどんどん変化していくでしょう。たとえば、テレビドラマの俳優が素敵なジャケットを着ていて、欲しいなと思った時に「Alexa」や「Clova」に話しかけてそのジャケットを検索し、検索結果がスマートフォンに表示される。そしてそのジャケットの写真を自身の写真に重ね合わせて、自分に似合うのかを確認したり、そのジャケットを着ているインフルエンサーの写真を表示しして検討し、商品を購入するようになるのではないでしょうか。

現状では、イスラエルのsyteが提供する高精度画像認識AI「syte」では画像の中のアイテムをそれぞれ探すことができます。ZOZOTOWNでも画像検索ができますが、その次の段階にまで進んでいるんです。他にも画像認識サービスを提供するViSenzeはユニクロや楽天が利用しています。画像検索周りは今後、さらに面白くなると思いますよ。

ーー最近、日本でも画像検索や画像認識を利用したレコメンドサービスなどが増えている印象です。

セドリック氏:購入のハードルがかなり低くなりますよね。今だったら映画の中で気に入ったジャケットがあっても、どう検索していいかわからないですよね。「ジャケット 青」くらいでしか説明ができない。であれば、画像検索の方が検索しやすいです。画像認識とレコメンデーションの組み合わせで面白いのは、コスメや香水を販売しているフランスのSephoraという会社です。彼らは2013年頃からAIを使っています。彼らは画像認識AIを活用しているのですが、チャットボットの中で写真をアップロードすることで、自分の肌にあったコスメをレコメンドしてくれます。実店舗でも鏡の中でコスメをレコメンドしてくれるようなコンテンツがあったりと、自然な流れでレコメンドできるようになっています。画像認識とチャットボットは今後、キーポイントになってくると思います。

レコメンデーションでいうと、実はAmazonも楽天も私たちが思っているよりも私たちのことを理解してくれていると思います。でも、ピンポイントで的確すぎる商品を提案されたら逆に気持ちが悪いので、レコメンドでは何故この商品をレコメンドしているのかを伝えることが大切です。

また、大事なのはお客さんの製品に対する反応やSNSでの反応を見ること。とくにチャットではブランドとお客さんとの距離が近くなりますよね。そこで、お客さんが何を考えているのか、どんな感情を持っているのかを知るために感情分析の機能を入れているのです。今後は本当に関係づくりが大事になります。人がすべてを対応していてはキリがないですが、AIだったらそれができる。AIを使うことによって、上手な店員さんの接客にプラスなエッセンスを加えた顧客体験を提供できるようになります。

AIサービスの普及を阻むもの

ーー日本のAIも進んでいるということですが、海外のAI活用サービスもどんどん日本へ入ってくるのでしょうか。

セドリック氏:そうですね。ただ、それぞれの国で課題があるんです。たとえばヨーロッパは、ヨーロッパの各国言語に翻訳しなければいけない。しかし、わりと英語やフランス語は言語として近いものがあるので、ヨーロッパでは機械翻訳がよく活用されています。一方で、日本語は他の言語とまったく違うので、他言語からの機械翻訳では違和感が生じてしまうんです。

ーー日本語は他の言語と構造が異なるので、難しいという話はよく聞きますね。例えば、同じ言語でも地域によって訛りがありますが、何か影響はあるのでしょうか?

セドリック氏:ありますね。たとえば英語は国際的な言語ですから、アメリカの南北、イギリスの発音だけでなく、フランス人、日本人、インド人それぞれの英語の発音があります。あとは中国語も訛りが多いので音声認識などでは結構手間取ります。そのため、音声認識に必要な「音声データを収集してほしい」という依頼も多いです。当社(Lionbridge AI)では、各地域の方言、発音・訛りに対応できるよう、性別・年齢が異なる音声データを収集、分析したこともあります。6〜75歳の話者の音声サンプルを、30言語で20時間分、録音しました。

その他の課題でいうと、ほとんどのAIの開発は英語や中国語で行われています。そうなると日本でのデータ量が少なくなってしまうため、日本語のシステムの精度は英語などに比べると下がってしまい、結果的に開発が遅れてしまうのでしょう。車に例えれば、AIがエンジンであればデータはガソリンですから、膨大な量のデータを持っている方が有利です。

日本のAIはどう変わっていく?

ーー今後、日本ではどのようにAIが活用されていくのでしょうか。

セドリック氏:大きなトピックとしてはチャットボットの改良です。現在のチャットボットは、10分前に話していたことを忘れられてしまったり、文章の不自然さがありますが、今後改良されていくことで、違和感は減っていくでしょう。また、文脈や現在地、表情や声などを認識し、ことも判断できるようになり、今のチャットボットよりも適切に私たちを理解し、その場で役に立つ情報や商品を紹介してくれるようになります。

私は日本のECサイトは結構進んでいると思っています。日本市場の特徴ももちろん大事にしなければなりませんが、そこに海外のトレンドや施策、社会的なトレンドなどを見ながら運営していただくのがよいのではないでしょうか。



国内問わずAIは多数活用されており、私たちは知らず識らずのうちにAIに触れ合っています。セドリック氏は「少しずつ変化していくので、気づかないかもしれませんが、2、3年後と今ではまったく違うことが起こっている」と語っていましたが、情報にアンテナを張り、微々たる変化を逃さず、ビジネスに活用していくことが勝機を掴むポイントなのかもしれません。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

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EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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