食品ECへの挑戦。コロナ影響下で活路を見出した3店舗

小林俊也(kobayahi toshiya)

左:焼き菓子専門店ル・ウィークエンド オーナーパティシエ 橋田香南子氏
中央:鶴亀の湯・鶴亀食堂 根岸えま 氏
右:株式会社大島造船所 農産グループ 納田琢 氏

新型コロナウイルスの影響で対面営業を主としていた店舗は多大なる影響を受けている。緊急事態宣言が明けた今でも多くの店舗が従来通りには程遠く、苦しい状態が続いている。

そういった状況でもECを活用してピンチを乗り越えたという声も多く聞く。今回はネットショップ作成サービス「カラーミーショップ」ご協力の元、ECを活用してピンチを乗り越えた食品関連事業社3社にお話を伺った。

宮城、長崎、石川で実店舗を展開

今回の取材では、地方で食品関係の実店舗を営業し、直近でECサイトを立ち上げた3店舗からお話を伺った。

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「私達、鶴亀の湯・鶴亀食堂は宮城県の気仙沼で食堂と銭湯を運営しております。気仙沼は漁業水産業の町で、生鮮カツオの水揚げ全国1位を23年連続で記録していますが、水揚げの7割が地元の船ではなく高知や宮崎、三重のカツオ船の人たちの水揚げで成り立っている町なのです。

その気仙沼を支えてくれる漁師の方々は、船上では狭い海水風呂に入っており、陸に上がった時、真水の広いお風呂に入ることを楽しみにしていました。しかし、3年ほど前に130年ほど続いていた漁港の銭湯が防潮堤工事の関係で廃業してしまい、疲れを癒す場がなくなってしまったんです。

私は東日本大震災後のボランティアで東京から移住したのですが、そういった背景で地元の水産関係に従事しているおかみさん達と一緒にクラウドファンディングで資金応援の募集を行い、食堂のある銭湯としてこの鶴亀食堂を去年の7月にオープンしました。」

大島トマト農園 納田氏
「私は長崎県の西海市で特産品である大島トマトという高糖度トマトの生産と販売を行っています。

私が勤めている株式会社大島造船所は今年で創業48年目の歴史がある造船所で、主に石炭や材木などを運ぶ貨物船を作っている会社になります。

造船業界は過去2回も不況を経験している不安定な業界です。1回目の不況時に当時の代表が、船を作れなくても他に出来ることがないのか模索し、事業として開始したのが今も続いている農業でした。

それから農園は32年目ですが、弊社は「地域と共に」というモットーを掲げており、地域との関わりを大事にしている企業でもあります。それを体現しているのが大島トマトなのです。」

ル・ウィークエンド 橋田氏
「私は石川県の能登半島にある羽咋市でフランス料理店と併設の焼き菓子店を夫婦で営業しています。私はフランスでパティシエとサービス業として働き、夫もフランスでフランス料理の料理人として働いていましたので、その経験を生かしたお店となっています。

二人とも東京出身ですが、フランスに住んでいた際に日本で震災が発生しました。原発事故などの不安も大きく、このままフランスで暮らしていこうと考えていましたが、日本でお世話になっていた方が能登に戻られていて、タイミングよくお声がけいただいたことが能登へ行くきっかけになりました。

その時は別のレストラン事業の立ち上げ話で能登に移住したのですが、そちらは色々あってなくなりました。でも、その期間に地域の方とご縁ができ、夫が羽咋市で栽培している無農薬、無肥料お野菜などの食材を気に入り、とんとん拍子に話が進み3年前に開店しました。」

コロナ禍の影響

元々独自性のある店舗を営業していた3社。今回のコロナ騒動ではどういった影響があったのだろうか。

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「鶴亀の湯・鶴亀食堂は350人もの方にクラウドファンディングでご支援いただきオープンできた銭湯です。ご支援いただいた多くの方が3月やゴールデンウィークの時期に利用できるチケットリターンをお持ちでした。しかし、コロナの話が大きくなってきたのが2月末~3月頃だったので、皆様にお越しいただくのが難しくなってしまったのです。

他にも、震災から9年が立った今でも3月11日やゴールデンウィークにボランティアでお手伝いされていた方達がいらっしゃるのですが、そちらの方達もコロナの影響で来られなくなってしまいました。」

大島トマト農園 納田氏
「私たちは、収穫してから購入いただくという形で、農業体験を含めたトマト狩りサービスを大島トマトの出荷期間である1月~5月中旬で提供していました。

そのトマト狩りには毎年5000人以上のお客様にお越しいただいていたのですが、4月の緊急事態宣言によりトマト狩りは中止。併設している直売店も閉店せざるを得ない状況になりました。

トマトは生鮮品なので腐らす訳にもいかず、どうにかして売らなければいけない状況は非常に苦しかったです。」

ル・ウィークエンド 橋田氏
「私たちは元々ECにずっと興味がありました。お店を開いている羽咋市は結構な田舎です。周りには田んぼしかなくお客様も地元の方ばかり、加えて観光資源もあまりない町なので、観光客に頼ることもできません。しかも少子高齢化の影響なのか人口も減っていくばかりで、商売をしていくには少し厳しい環境です。

何もしなければ売り上げが落ちていくのは明らかなので、商圏を広げるためにECに取り掛かろうとずっと下調べはしていたんですが、お店も忙しくて手を付けられずサイトをオープンするまではたどり着けませんでした。

そんな時にコロナが流行り、うちもお店を閉めなければ行けなくなってしまい、幸か不幸かまとまった時間もできたのでECサイトをオープンする事にしました。

当初は焼き菓子店のECサイトだったので、焼き菓子だけと考えていたのですが、併設しているレストランもコロナで閉店している状態だったので、レストランの物も売ろうと決め、併設のレストランの商品も扱うショップになりました。」

ECサイトのこだわり

ECサイトはWEBで閲覧できる表面上の情報だけではなく、各社が実現したい世界観やお客様への関わり方などで特色が出てくる。彼らは初めてのECサイトに苦労しながらも自力でECサイトのオープンをしたという。

おうちで鶴亀食堂(https://tsurukame-shop.shop-pro.jp/

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「ECサイトを立ち上げた理由としては、クラウドファンディングの支援者さんや、ボランティアに参加していただいた方が東京でつらく大変な思いをされ、不安な状況で暮らしていると聞き皆をどうにかして元気づけられないかという思いが強かったですね。」

彼女は単に集客目的という理由だけでなく、人口密度が高く感染リスクの高い東京の人を励ましてあげたいという気持ちが強いと言う。

「鶴亀食堂の実店舗はカウンター形式になっていて、そこで料理を作っているおばちゃんと会話できたり、定食で出てくる魚を取ってきた漁師さんが隣に座ったりとか、そういった地元ならではの空気間が楽しめるお店なのです。東京の人にも気仙沼のおいしい食品と一緒にこの空気感も届けられないかとスタッフみんなで話し合い、動画付きの面白い贈り物を出せないかという考えに至りました。」

鶴亀食堂では、一般的なECサイトとは変わった仕組みで運用をしているという。

「ECサイトの運営自体は1人で行っており、お送りする商品も地元の方に発注する形だったので、今日の注文を明日お送りする事や、在庫を保管する事ができませんでした。

そういった課題を解決する為に、予約注文で運営を行なっています。5月はカツオの定食セット、6月には牡蠣とお豆腐の生鮮便セット、7月の企画がフカヒレの餡掛け焼きそばといった具合で毎月上がる旬な魚で企画を組んで、決まった日にまとめて発送するので少ない人手でもなんとかできました。」

大島トマト農園 ONLINE STORE(https://oshimatomato.com/

大島トマト農園 納田氏
「弊社は元々、今年の4月に会社のHPをリニューアルする予定があり、それに合わせてECサイトも一緒にリニューアルを進めていました。15年前からECサイトを持ってはいたのですが、決済機能もついていない自作で作った古いECサイトでした。」

コロナの時期だったのでタイミングは良かったのですが、会社的には不況続きで予算がもらえず、自分たちのできる限りを尽くしてECサイトをオープンさせました。」

株式会社大島造船所は従業員が1500人を超える企業で、納田氏は会社の環境をうまく使いオープンまでこぎつけたと話す。

「とにかく費用をかけないスタンスだったので、WEBの扱いが得意な人や、趣味で写真を撮っているような人を見つけてお手伝いをお願いしていました。

EC サイトは制作会社などを利用せずカラーミーショップの有料テンプレートで作成し、高級トマトである大島トマトの高級感がお客様に伝わるよう、写真は会社が保有している迎賓館のプールサイドで撮影しました。」

le weeek-end (https://le-week-end.shop-pro.jp/)

ル・ウィークエンド 橋田氏
「私はHPとECサイトとか全く経験が無かったので、どうやって作るだろうというレベルでした。また、オープンして直ぐは売り上げが立たないと思っていたので、いかに最初の資金を安くできるかがシステム選びのポイントの1つでした。」

ド素人がECサイトをオープンできた理由は、 カラーミーショップのサポート力があってこそだと言う。

「最初はもう、リンクを1つ張るのすら全然わからなくて、カラーミーショップのサポートの方に電話で相談したり、カラーミーショップがやっているYouTube「カラーミーショップch」を見ながら作業していました。

サイト制作の途中からレストランのカテゴリも追加することになり、それまで使っていたテンプレートが使えなくなってしまったりもしました。その時も電話で色々なアドバイスをもらう事ができたので非常に助かりました。

固定費が無いカートシステムもあったのですが、こんなド素人ですので直接相談できるようなカートシステムを選んでよかったと思っています。」

ECサイト運営の現状

始めての挑戦はだれであっても手探りの状況であるはずだ。初めてのECサイト運営ではどんな苦労があったのだろうか。

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「正直、ECサイトをやったことが無かったので、全部初めてで全部が大変でした。特に注文キャンセルや、注文数の増減、到着指定日変更など、個別対応が必要な変化球は大変です。100件注文があったら3件程度の数ですが今でも少し焦ります。

また、ECサイトの運用は全部1人でやっているので、来月の企画考案、商品の発送メールと一緒にお送りしている、YouTubeに出演するおかみさんのアテンドなども苦労しました。

今では慣れてきましたが、再開してからは食堂も朝7時から営業しているので、ECサイトと実店舗の両立はとても忙しいですね。」

大島トマト農園 納田氏
「私も大変な事というとお客様都合のイレギュラー対応ですね。特に私たちが提供している物は生鮮物なので、早いうちに返送してもらう事や、転送先の指定が必要だったり、その時によって対応が変わるので大変です。」

ル・ウィークエンド 橋田氏
「実店舗でも、クレジット決済を導入していなかったので、この作業で金額変更がちゃんとできているのか?とか不安が大きかったです。でも、何回かやれば同じ作業なので、慣れちゃえば大丈夫でした。」

そういった苦労もありながらもオープンしたECサイトはお客様から、高い評価をいただているという。

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「私たちは気仙沼の空気間を味わってもらう為『実家から届く贈り物感』を出せるように工夫しています。

その空気感を出すために商品の同梱物には特に力を入れていまして、手書きのレシピはもちろん、手作りポストカードなども入れています。自分たちでその時期の気仙沼の景色を撮影し、全て私が手書きでコメントを書いているのでポストカード作りは大変ですが、そうやって、”今の気仙沼はこんな感じです”とか、”鶴亀食堂はカツオ船が入ってきてにぎやかになりました”とか、メッセージが届けられるので、お客様からはご好評いただいております。

他にも、開けるまで何か分からないおまけ袋を同梱しておりまして、そこに気仙沼のスイーツや、おかみさんの手作り品などの物が入っています。

お客様からはおまけ袋がおまけのクオリティじゃないとよく言われますが、裏を返せば私達はこのくらいしかできないんです。でも、こういった形で心の通う贈り物にすることで、お客様からご好評いただきリピーターになってもらえるので、ずっと大切にしていきたい心がけです。」

EC・通販業界は顧客との関係構築が大事だとずっと言われ続けてきた業界だが、それを誰に教わるでもなく、自分たちのポリシーとして実践しているのだという。まさに、対面でお客様とかかわってきたからこそ生まれた経験則である。

大島トマト農園 納田氏
「4月にリニューアルをした際にお客様から見やすくなったねとか、買いやすくなったねとお話いただきます。

リニューアル前は、15年前の使いづらいサイトだったので、表面をシンプルにし、スマートフォン対応もしました。その影響でスマートフォンからのお客様が増えたのが良かったです。

残る大きい課題としてクレジット払いとか電子決済がまだ導入できておらず、代引き若しくは、コンビニ・郵便局での後払いで対応しているので、対応して取り込めていないお客様にもご利用いただける様にしていきたいですね。」

ル・ウィークエンド 橋田氏
「元々店舗を営業していく中で、地方発送はできないのか?という声が多くありました。店頭で言っていただければ、そのままお金をいただき発送を行う事ができたのですが、HPなどで大々的には周知させていませんでした。そのため、ECサイトをオープンさせただけで皆さんに喜んでもらえました。

また、うちの焼き菓子店はギフト用に贈りたいという声も多く、ECサイトで発送先を指定する事ができて喜ばれる方も多かったです。

私も実家に贈り物をするときにECサイトを利用しているので、地方の方もそういった感覚なんだと思いました。」

他にもル・ウィークエンドではレストランのギフトカードもECサイトで販売しており、そこにも工夫が施されている。

「レストランを閉店しても支出は無くならないので、レストランを再開した時に使えるギフトカードを作りました。でも、それだけではお客様がこのタイミングで買う理由が無いので、メインディッシュで出している能登牛というブランド牛が無料でつきますという特典を思い切ってつけたんです。

通常1人様1万円ほどのフルコースのメインが付くという非常にお得な特典なので、ギフトでの購入や、常連さんなどが買ってくれて大変ご好評をいただきました。」

ECサイトはオープンしただけで売り上げが立つという事はない。しかし、実店舗の運営経験がある場合、お客様との接点がすでにあるので、ECサイトの売り上げが立ちやすい傾向にあるようだ。

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「ECサイトのお客様属性は、クラウドファンディングの支援者やとボランティアでお越しになった方が半分くらいです。もう半分がその人たちの友達だとか、ネットで記事を見て、まだお店や気仙沼には来たこと無いけど注文した方いわゆる新規のお客様だったんです。

このようにECを通じて、今まで気仙沼を知らなかった人達に知っていただき、今後落ち着いた頃に気仙沼に来るきっかけになるといいなと思っています。絶対、現地で食べていただけた方が美味しいので!」

大島トマト農園 納田氏
「リニューアルしてから去年の4月と比べて3割程度ECサイトの売り上げが上がりました。そのお客様情報を詳しく見ると、ありがたいことに5割が新規の購入だったのです。

更に新規の方は、ほとんどスマホからの注文でしたので、リニューアルのスマホ対応によりそういった層が拾えたのだと思います。」

ル・ウィークエンド 橋田氏
「最初は元々やっていたインスタやFacebookで宣伝していく予定だったので、長い目で見て育てなければいけないと思っていました。しかし、巣ごもり消費の影響もあったのか、想像以上に新しいお客さ様が購入してくださりました。

旅行でいらした方が購入してくださったり、金沢の常連さんがECサイト でもお買い上げいただいてくれたり、他にもル・ウィークエンドはふるさと納税にも出品していたので、以前ふるさと納税で購入いただいたお客様もECサイトでも買ってくれたりもして、本当に感謝です。」

目指す未来

コロナ禍の中でもECという新しい切り口を選択して、実績を勝ち取ってきた彼ら。今後、ECだけでなく実店舗を含めた未来を創造している。

おうちで鶴亀食堂 根岸氏
「私たちのお店は海から入ってくる漁師さんたちと、丘からくる地元の方々、東京とか関東方面からくる方など、色々なところからお客様 が足を運んでくれます。

漁師の人達は、一番に鶴亀食堂へ来てくれますが、地元以外の認知がまだまだ少ないので、まずはECサイトから私たちの事を知っていただき、そこから気仙沼に来ていただく事が増えればと思っています。

そのような未来を考えさせてくれたので、今後もずっとECは続けていきたいですし、地元の皆さんの想いを伝えられる企画をこれからも続けていきたいなと思っています。」

コロナの影響を受けて、実店舗のみで営業していた企業もどんどんECサイトを展開していくだろう。そういった店舗に向け自分達がECで得た実感も伺った。

「最初はECと聞くとクレジットカードの対応やWEBページの作成などで、難しいと感じるかも知れませんが、サポートがちゃんとしているカートシステムを利用すれば、電話などで丁寧に教えてくれます。

実際ECは低コストでできて、自分たちの知恵と工夫次第でどんなことも挑戦できると思っています 。オンラインでも心の通うやり取りもできるのです。

個人的には多少の人手があるならば、やった方が良いと思います!」

大島トマト農園 納田氏
「全部根岸さんがいった通りです。ECサイトと実店舗をきちんとリンクさせて、また買いたいや、また行きたいと思うようなお店にしたいですね。実店舗を増やすよりも圧倒的に低コストで挑戦ができるので、私も絶対ECをやった方が良いと思います。」

ル・ウィークエンド 橋田氏
「売り上げは上がっているのである程度満足ですが、もうちょっと規模を大きくするのが当面の目標だと思っています。

また、私たちは移住者でもあるので、いつかお店を移転してしまう事もあります。その場合、お店を一時的に閉店せざるを得ません。しかし、ECサイトを運営していれば営業を続けることが出来るので、私たちのような飲食店は大助かりです。

まだまだ飲食でECサイトをやられていない方もいらっしゃいますが、こういった時代の流れなのでECに挑戦していくと良いと思います。」

今後は、立地によって売り上げが左右される時代が終わり、商品力や店主の人間力で勝負ができる時代になるかもしれない。元々実店舗を運営していれば、ECを起点に接触頻度を増やして関係を構築したり、新規の接触点になったりとECの活用方法は幅広く、事業の自由度を上げる武器になるはずだ。

こういった時代だからこそ、店舗の在り方も変化していく必要があるのかも知れない。

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記者プロフィール

小林俊也(kobayahi toshiya)

新規事業開発室所属。ECサイト・EC支援事業者両社向けに価値のあるサービスを開発できるよう日々奮闘しています。

何かご要望あればお気軽にお問い合わせください。

mail :t.kobayashi@ecnomikata.co.jp
Twitter:@ecnomikata_tk

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