会社の状況に応じたシステムの見極めが重要である

株式会社ecbeing 代表取締役 林雅也氏

5G導入による動画コマースやD2C企業の躍進、新型コロナウイルスの影響など、急速な変化が起きた2020年上半期EC市場。事業の基盤を支えるECシステムにも変化が起きています。そんな変化について、ECサイト構築パッケージ12年連続シェアNo.1を獲得した『ecbeing』を提供する、株式会社ecbeing 代表取締役 林雅也氏に伺いました。

2020年上半期までのEC業界の変化

――近年の自社ECサイトは、購入までの導線をいかに効率的にするかという機能性に加え、ショッピングの楽しさをどう体感させることが重視されるようになっているように思います。

機能性と楽しさの両立は重要です。機能性だけのECサイトは、AmazonなどのECモールや大手ECサイトに淘汰される一方、アパレルや化粧品、メーカーのD2Cなど、特徴的な商品やサービスを持つECサイトには楽しさがあると感じます。その背景にあるのが、個人の消費行動の変化です。消費者が購買行動においてインターネットを活用するようになり、実店舗メインだった事業者もECに対応するようになりました。実店舗を訪れる楽しさをECでも再現しようとしています。さらにソーシャルメディアの発展により、個人の発信力が強くなったことで、機能面には置き換えられない、人の関わりというのも生まれています。

実際、自社ECを成長させるには、消費者と結びついて人間性を出せるもの、フィードバックを受けて強化していける部分、商品や売り場、販促手法やカスタマーサービス、物流面などの差別化が必要です。これらを総合的に差別化していくことで、自社ECの価値が生まれます。我々システム側の役割としては、システムやマーケティング手法で事業者さんを悩ませないこと、事業者さんが商品やサービスなど顧客に対するところに集中できるようにすることが重要だと考えています。

――2020年上半期は、5G導入による動画コマースが注目されていましたが、新型コロナウイルス感染拡大による社会の変化など、予想外の出来事が多い半年でした。その中で、EC事業者にどのような影響があり、ECシステム側としてはどんな対応を行いましたか?

動画コマースや、オムニチャネル、D2Cなど、方向性が変わったというよりも、もともと目指していたところが加速したという面があります。今後数年かけてやろうとしていたことが前倒しになって、皆が一斉にやろうとしている印象です。消費者の変化もあり、オンライン会議などで動画でのコミュニケーションに多くの人が慣れ、自宅のインターネット環境が整えられたこともあり、ECの利用環境がより整ったと考えられます。

システム側としては、ECの利用が増えてトラフィックが急増したため、その対応に追われたところはありました。また、以前から必要性がいわれていた、顧客接点を強めてロイヤリティを高めるといった施策を強めていた事業者さんは、結果としてコロナ耐性が強いと感じています。国内だけでなく、越境ECも同様です。

ECシステムに求められていること

――EC市場が変化する中、ECシステムにはどのようなことが求められていると考えられますか?

変化の中で、既存のビジネス手法だけでは顧客ニーズと合わなくなりつつあり、EC事業の成長が難しくなっています。消費者がインターネットを活用するようになったことで、CRMなどが整備されたECサイトに顧客がつき、既存の売り方をしているだけでは顧客が逃げていってしまう。そういったこともあり、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連のご相談が増えています。単純なECサイト構築と異なり、全社的な取り組みとなるため、システムの規模も連携も難易度が高く、我々にご相談いただく要因となっているようです。

また我々としては、受注やバックオフィス、配送まわりのシステムなど店舗によるカスタマイズの多いところは、パッケージの強みを生かしつつ、分析系やソーシャルメディア連携など、カスタマイズが必要ないところは外に切り出すということもしています。巨大なシステムのかたまりというよりも、パーツごとに切り分けるような、マイクロサービス的な考え方に立ってサービスを提供していきたいと考えています。

システムは大規模になるほど一度に変えようとすると大変なことになるので、ある程度、部分的に変えていく必要があります。駅の改良などもそうですよね。一気に切り替えるのではなく、パーツごとに変えていく。そういう意味で、システムは建築と似ているかもしれません。

――EC事業者がECシステムを選定する際に気をつけるべきことや、変化したことはありますか。

まず、会社の状況に応じた落としどころの見極めが必要です。どのシステムが良くてどのシステムが悪いというより、そのシステムを使いこなすためのリソースが自社にあるのかを考える必要があります。相性の問題ともいえるでしょう。いきなり高度なシステムを導入しても運用施策が追いつきませんし、在庫管理や店舗連携などの基本的な業務ができていないとECサイトだけでは動きません。また、導入後の継続的な改善も重要です。

そして落としどころを見極めるためには、情報収集の手間を惜しまず、「実現性」と「継続性」を考えることが重要です。ECサイト構築にあたってやりたいことがいろいろ出てくると思いますが、無理に対応すると、不具合が出やすくなります。そうならないよう、実現性のある提案があるかが重要です。実現性の有無は、製品や営業担当者の説明、導入実績などから判断できます。一方向の情報は安易に信頼しない方が良いと思います。

また、ECサイト構築後、5年、10年と使い続けられるかという継続性も重要です。ECサイトが複雑化している今、システム移行は以前よりも難しくなっています。

一方で周辺系のサービスが充実してきているので、基幹システムをフル活用しながら、連携サービスも取り入れ、長く使い続けられる体制を組めるかどうかを考える必要があります。誰にでも合う万能のシステムというのはありません。スポーツの道具と同じで、万能型の道具はほどほどの結果しか出ない。本気を出すためにはプレイヤーごとにチューニングされた道具が必要なのです。

EC業界における人の重要性

――今後のEC業界において、どのようなことを重視されていますか?また、林さんご自身では2020年4月に日本オムニチャネル協会を立ち上げられましたが、今後どういった活動を展開予定なのでしょうか?

まず、我々がシステムを提供する中で重視しているのが「製品」と「人」です。ECサイトの成長のためには、製品だけでなく、誰がどう構築していくのかという人の部分が重要です。我々はベンダーでありながら自分たちで構築も行う、製品と人が一緒になったビジネスモデルを重視しています。

また、EC自体は手段だと私は思っていて、ECにとどまらず、小売業界全般がどう成長していくかということが重要だと考えています。日本市場の先を行くといわれるアメリカ市場の状況を見ていると、4年ほど前に今の日本市場のような課題がありましたが、そこから一気に改革が進んでいきました。しかし日本はアメリカに比べてスピードが遅いです。その一番の原因はデジタル人材の不足です。

オムニチャネル協会には、多様な業界の会社が集まっています。その多様性の中で、人と人を結びつけて、デジタル人材を育てていきたいと考えています。DXというのはイノベーションであり、イノベーションは知と知の融合です。いろいろな人が集まることでイノベーションが起こる。そういった場として、協会を捉えています。

消費者が進化したテクノロジーによる便利なサービスを体験する中で、昔には戻れないという状況があります。DXにスピードは避けては通れません。ECはそこと結び付きの強い市場です。決済もある、会員データもある、商品もある。その基盤を生かさない手はないと考えています。

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