【Mr. CHEESECAKE・田村浩二氏に聞く】 飲食店経営者必見!顧客との向き合い方で変わるコミュニケーション

ECのミカタ編集部

Mr. CHEESECAKE 代表取締役 田村 浩二氏

料理人として13年レストラン業界で働く。シェフとして働いた2年間で、World's 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。香りをテーマに様々なプロダクトを開発。現在は Mr. CHEESECAKE の他、複数の事業を手掛ける事業家、経営者としても多方面に活躍。

毎週日曜日と月曜日の午前10時から、オンライン限定で販売されるチーズケーキがある。レストランで味わうデザートのように繊細で儚い口溶けが人気を博し、数分で売り切れることも珍しくない。“人生最高”と賞されるそのチーズケーキは『Mr. CHEESECAKE』。代表の田村浩二氏が趣味で作り始めたケーキがSNSで評判を呼び、唯一無二の味わいやものづくりへの姿勢が共感を生んだ。シェフとしても多くの実績がある田村氏に、ブランド立ち上げの経緯やD2Cへの取り組み、料理人がECで成功するための秘訣などについて話を聞いた。

挫折から救ってくれた友人の笑顔

――料理人を目指したきっかけを教えてください。

小中高校は野球三昧の日々でした。大学でも野球を続けようと高3の夏にセレクションを受けたのですが全滅で。自信があったのでかなり落ち込みました。

夏休み明けの2学期に親友の誕生日があり、ここで何を思ったか生まれて初めてケーキを作ってみたんです。母が料理上手だったので僕にもできるんじゃないかと。学校に持っていくと、親友はもちろんクラスのみんながすごく喜んでくれました。この経験から「食で人を笑顔にしたい」と思うようになり、すぐに専門学校を調べ始めました。

――専門学校卒業後はフレンチの名店やパリのレストランで活躍されました。

幸いにして世界のレストランランキング1位の店で働いたり、僕自身も権威ある賞を受賞したりしました。技術的なことはもちろんですが、どんな状況でも精度の高い料理を提供するというトップレベルのメンタリティを学べたことは大きな財産です。

ただ、自分への評価が高まる反面、周囲の環境も変わりました。同業者や専門家の来店が増えたことで、親友に誕生日ケーキを振る舞ったあの頃の気持ちで料理に向き合えなくなってしまったのです。

唯一無二の食感とリッチな味わい

――「Mr. CHEESECAKE」立ち上げの経緯を教えてください。

ちょうどこの頃、料理の世界に入るきっかけとなったケーキを趣味で作り始めました。作ったのは僕の大好きなチーズケーキ。美味しくできたのでInstagramに投稿したら、DMで「食べてみたい」という声が多くて。

そこで『Mr. CHEESECAKE』と名付け、2018年4月5日にストーリーで販売したところ1ヵ月で売上げが100万円になりました。その後「BASE」での販売を経て、自社ECを立ち上げたのが2019年8月1日。この間、ケーキ作りに集中するためシェフを辞め、キッチンをゼロから立ち上げました。

――濃厚なのに口の中でスッと溶ける味わいが人気ですね。

形を保つのが難しいほど柔らかいチーズケーキなので、冷凍でのお届けになります。解凍してすぐは酸味が引き立ち、常温では上品な甘みを感じるなど、温度によって味わいや食感、香りが変化します。同じチーズケーキなのに、口にする状態によってまったく異なる食体験が得られるんです。

販売日時は毎週日曜日と月曜日の午前10時から。生産量に余裕はなく、作った分はすべて販売しています。毎日受発注を繰り返すよりも、その週の注文を2日間に集約することでケーキ作りにかけられる時間が増えました。今のオペレーションではこのやり方がもっとも効率的な方法です。

Mr. CHEESECAKEのサイトでは、ブランドコンセプトや美味しい食べ方をミニマムなデザインでシンプルに伝えています。こうした作り手側の意図を、直接顧客に伝えられるのがD2Cのメリットですね。

モール型ECサイトは広告メニューが多く、デザインが画一的になりがちです。写真や価格で判断されることが多いので、顧客に本当に伝えたいことが伝わりません。顧客と真摯に向き合い、正しい情報を伝えることを重視したので、自社ECサイトで運営を行っています。

D2Cのメリットを最大限活用する

――店舗を持たず通販のみで食品を販売するビジネスモデルへの批判はありましたか?

「シェフなのになぜ」という批判はありました。当然ですよね。飲食店は〈客数×客単価×営業日数〉で売上げの上限が決まります。薄利だし、商圏も限られます。

でも、ネット販売なら店舗運営にかかる家賃や人件費が抑えられます。店に縛られることがなく、シェフの働き方も変わります。距離や時間によるハンデがなくなるので、注文があれば日本全国のお客様に商品を届けられます。だから僕個人としては、店舗を持たないことに対するネガティブな感覚は特にありませんでした。

――D2Cで得られるメリットは何でしょう?

D2C最大の利点は、顧客と相互コミュニケーションが図れること。レストランのシェフがお客様と直接話せる機会って、実はあまり多くないんです。基本は厨房で料理を作っていますから。D2Cで得たリアルな声を業務改善に活かし、顧客と向き合うことでブランドロイヤリティが研ぎ澄まされます。

もちろん購入データも重要ですが、データは数字でしかありません。顧客の体験価値を向上させるための手段であり、データ収集自体が目的ではありませんから。

また、顧客とのコミュニケーションの一環としてSNSも活用しています。特に匿名性が高いTwitterにはリアルな声が寄せられますよね。こうした声も受け止めながらブランド力をブラッシュアップする必要があると思います。

人生が豊かになる顧客体験を

――ホームページに掲げた「世界一じゃなく、あなたの人生最高に。」の真意とは?

誰かが決める「世界一」を目指すのではなく、お客様に「人生で最高だ」と評価してもらえるチーズケーキを提供する。あくまで主役はお客様。ケーキを食べることで、より人生が豊かになる体験を届けたいんです。

誰とどんな場所で、どう食べるのか。冷凍だからこそ可能な食べ方の提案も含め、ウェブサイトやSNSを通じて顧客とコミュニケーションしています。

――レシピの公開やコンビニとのコラボレーションにも積極的ですね。

エンジニアの世界では、新しい技術や情報はどんどん公開されています。僕は料理人もそうあるべきだと思います。その方がお客様も嬉しいでしょ。季節限定フレーバーの発売やセブンイレブンとのコラボも目的は同じ。行き着くところはお客様の笑顔のため。おいしさの力で誰かの人生を豊かにするためなんです。

僕たちはチーズケーキを売ることを最終的な目標にしていません。もちろん事業継続のために売上げは必要ですが、そのために施策を考えるとブランドの品格がなくなってしまいます。顧客のために今の自分たちができることは何か。それがMr. CHEESECAKEの行動原理です。

料理人が食の未来を切り開く

――Mr. CHEESECAKEの今後の展開は?

グローバルなブランドに育てたいですね。“トーキョーチーズケーキ”と謳っているのもそのためです。メイド・イン・ジャパンの技術は世界に引けをとらないはず。日本から世界に進出するブランドが料理人から生まれるって、ワクワクしませんか?

生活様式が急激に変化する中、僕たち料理人も変わらなければなりません。未来を見据えた新しい価値観や販売方法、コミュニケーションをD2Cで発信していくべきです。料理人だからこそできる価値訴求の方法があると思います。

価格を一時的に割り引いて、クーポンを配布することもできますが、それは長い目で見ればブランドにとってはマイナスでしょう。そのため、Mr. CHEESECAKEではそのような価値訴求は行いません。

短期的に売上げを伸ばす方法はたくさんあります。しかし僕たちはMr. CHEESECAKEを100年続くブランドに育てたいんです。今はまだブランド立ち上げから3年目。「この施策は今、本当に必要なのか」ということをひとつひとつスタッフと議論しながら進めています。

――料理人がD2Cで成功するための秘訣はありますか?

まずは自分のスキルを棚卸ししましょう。自身の強みはレシピを考案することなのか調理なのか、はたまたマネジメントなのか。この強みを活かせる商品と領域を選定し、あとはそこに向かってアクセルを踏み込むことが成功への近道です。

ただ、コロナ禍で売上げが落ちているからという理由だけでD2Cに参入するべきではありません。こうした熱量はすぐに消費者に伝わります。自分たちが行う施策は本当に顧客が求めているものなのか。日頃から顧客ときちんと向き合うことでその答えが見えてきます。

これまでは独立して自分の店を持つことが最大の成功とされてきましたが、D2Cでその考え方も変わりつつあります。大切なのは柔軟な発想で脳内のスイッチを切り替えること。未知の領域に一歩を踏み出した料理人が、食の未来を切り開くのではないでしょうか。


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