オンラインクレーンゲームは日本の魅力を国内外に流通させる、新しいカタチ
ぬいぐるみや家電製品が景品として扱われることの多いオンラインクレーンゲームの中でも「クレーンゲームマスター」(以下クレマス)は、地域貢献にこだわり特産品を扱うという独自路線を貫いている。ユーザーの20%は海外ユーザーであることから、日本の文化や魅力を世界にPRする場としての可能性も内在しているという「クレマス」の特徴や、海外PRに強みをもつDMSTと協業するに至る経緯やその戦略について聞いた。
世界累計250万超ダウンロード。 広がるオンラインクレーンゲーム市場
――オンラインクレーンゲーム市場が活況と聞いています。まずはオンラインクレーンゲームについて教えてください。
クレーンゲームジャパン當銘(以下、當銘):2018年に設立メンバーとして「クレマス」をリリースしました。「実際のクレーンゲームを、PCやスマートフォンなどデバイスを通して遠隔操作して、ゲームを楽しんでいただくものです。サービス開始から累計で250万超ダウンロードされました。オンラインクレーンゲームの市場規模は250億円にも達するとされ、盛り上がりを見せています。その中には日本のみならず海外からのアクセスも多いです。
――ここまで市場が拡大するきっかけはありましたか。
當銘: 2017年に経済産業省がオンラインクレーンゲームは風営法による規制には該当しないと通達したからです。この通達により、リアル店舗に定められている営業時間や景品の上限金額がオンラインについては適用外となりました。より多くのユーザーに楽しんでいただけるようになりましたが、未成年者も利用する可能性があるので業界で景品の上限金額などの基準を定め、より健全に楽しんでいただけるよう努めています。
――他にはない「クレマス」の特徴を教えてください。
當銘:景品を自社開発しているところもありますが、弊社にはオリジナル商品がなく、差別化が課題でした。そこで在庫を抱えるリスクがあり、賞味期限など管理が難しい食品にあえて挑戦しました。ジュース6,000本を2日で完売したこともあり、今では毎週10tトラックがいっぱいになるほどの食品類を仕入れています。「クレマス」なら食品と認識いただいている国内外のユーザーも多いと思います。
また、ゲームを通して地方の魅力ある特産品を知ってもらい、地域経済を活性化させたいという思いから、ご縁のあった高知県四万十市を皮切りに地方の特産品も扱うようになりました。10月に全国各地のご当地カレーを61種類集めて開催した「全国横断ご当地カレーフェア」も大変好評で、手応えを感じています。
クリック数は通常の10倍。 ご当地カレーで地域に目を向けるきっかけに
――「全国横断ご当地カレーフェア」の反響を教えてください。
當銘:新規だけでなく、既存のユーザーにも大変好評でした。実はアクシデントがあって告知していたよりも1日早く出してしまったのですが、ご当地カレーを景品にしたゲーム機は常にプレイ中になり、景品在庫が足りなくなると焦るほどでした。
「クレマス」ではイベントを定期的に開催しています。イベント告知のバナーのクリック数は通常だと1週間で300~400といったところですが、カレーフェアは1週間で3,000~4,000と約10倍でした。結果としてイベント期間中は1,500食ものカレーが流通しました。
DMST長岡(以下、長岡):連動キャンペーンとして、獲得したご当地カレーのパッケージを並べて、カレーの壁をつくるという「カレーの壁チャレンジコンテスト」を実施しました。SNSで「カレーの壁チャレンジコンテスト」に挑戦した様子を報告するユーザーもいて、楽しんでいただけたと感じています。
――なぜカレーだったのでしょうか。
長岡:カレーは老若男女に愛されているということもありますが、特産品を入れることで地域性が出やすい食品でもあります。カレーに続いて12月10日から「ご当地ラーメンフェア」を実施していますが、国民食ともいえるカレーやラーメンをフックにして多くのユーザーに注目してもらえたらと考えました。ゲームだからこそ挑戦したくなる個性の強い商品も扱いながら、まずは地域の魅力ある特産品を知っていただく機会にする。そして「○○県にはカレー以外にもこれがある!」と興味を広げるきっかけになることを目指しました。
オンラインクレーンゲームは、 国内にチャネルを増やしながら海外も見据えることができるプレイス
――「クレマス」との協業は、どのように生まれたのでしょうか。
長岡:私はこれまで自治体や企業と組み、訪日客を送客するためのプロモーションに携わってきました。観光庁認定の訪日客誘致アドバイザーとして各地を訪ねるたびに、創意工夫を重ねた魅力ある特産品や、地方の方々のおもてなしの心に触れてきましたが、その素晴らしさが伝わりきっておらず、歯がゆく思うことも多いです。日本国内に対してもまた海外に対しても圧倒的にPRの場が乏しいため、周知されていかないのです。
【観光庁:広域周遊観光促進のための専門家派遣事業登録専門家でもある】
當銘さんとは以前から面識があり、私が長年取り組んできたYouTuberを活用したプロモーションに興味をお持ちでした。また日本の文化を世界に発信して地域貢献したいという思いも強く、DMSTの活動目的とも共通しています。當銘さんと協業することでシナジーが生まれると思っています。
――オンラインクレーンゲームが、どのようなシナジーを生むのでしょうか。
長岡:コロナ禍で観光客が訪日できなくなり、よりPRの機会が失われたことで、越境ECを立ち上げたいというご相談も増えています。しかし国内向けのECを戦略上拡充して海外向けのECにするという意識では難しい。新規でビジネスを立ち上げるのと変わらないくらい労力の必要な作業なので、腰を据えて取り組めるかどうかで結果が大きく変わります。資金面など企業としての体力がなければ挑戦しにくいのが現状です。
しかし、地産地消で経営されている方にとって、目下の売上を立てることが大事で、とても越境ECを粘り強く運営するには人手もコストも足りない。じゃあまずは、その課題に応えるにはどうすれば良いのか?を、考えようと。
色々頭を悩ませていたところ、クレマスさんが地域振興に貢献したい!というお話をお聞きしました。そこで、もしかしたらオンラインクレーンが、日本国内向けの今までにないチャネルの一つとして、商品を流通させる場として、目下の売上を立てることもでき、かつ越境ECの様な形で海外に商品を流通させていく機会を提供する場として機能できるかもしれない。そうしたら、中小メーカーの悩みを解決しつつ、更に海外進出のキッカケを作れるのでは?と考えついて、今回の協業そして日本各地の商品を展開、紹介するサービス「新・顧客キャッチャー!」の設立に至ってます。
――国内にチャネルを築きながら、越境ECの役割を担うということですね。
長岡:越境ECを立ち上げても商品が流通するとは限りません。マーケティングに基づく運用を継続し、認知度を高めながら成長させていく必要があります。しかしオンラインクレーンゲームのユーザーは、商品を購入するためではなく、ゲームを楽しみたくて「クレマス」にアクセスしています。ゲームを楽しんだ結果商品が動くことが前提となっていて、そこがこれまでの流通チャネルとは大きく異なります。それも国内外で累計250万人以上のユーザーの目に触れる可能性があり、かなり大きなプラットフォームと言えるでしょう。
當銘:もともとクレーンゲームは海外が発祥で、海外の方にとってなじみがあります。日本のクレーンゲームは独自の進化を遂げた2本アームのものが多いですが、「クレマス」のユーザーの20%は中華圏を中心とした海外ユーザーで、日本文化を愛している方々が多いです。実際に、「全国横断ご当地カレーフェア」も中華圏を中心に多くの海外ユーザーに楽しんでいただいています。
長岡:予算が潤沢ではないなら、まずは一商品から始められることもできますし、国内向けとは別に海外向けのECサイトを用意する必要もありません。海外進出が初めてという自治体や企業にとってやりやすい手法の一つになるはずですし、オンラインクレーンゲーム市場が成熟すればするほど、景品として国内のみならず世界に発信された日本の商品や文化への認知度を上げるという流れをつくることができます。
日本にはまだ知られていない魅力的な商品がたくさんあります。こんな商品を扱えないかとご提案いただけたら、私たちにとっても新しい発見になると期待しています。
特産品から日本の伝統工芸品まで 地域PRの場に
――今後取り組みたいことは何ですか。
當銘:日用品にも力を入れていきたいです。間違えて日用品を発注してしまったため、景品に出したところすごく動きました。食品用ラップやアルミ箔、トイレットペーパーといった安価で入手しやすいものを、どうしてクレーンゲームでと思われるかもしれませんが、ユーザーには30~40代の主婦も多いです。「クレマス」で遊びながら日用品という確実に消費するものを入手する。さらにお米や飲料など重たいものを配送してもらえるメリットもあります。そう考えると、ユーザーに支持される景品はまだまだあると思っています。
もちろん地域とのコラボレーションは今後も続けていくつもりです。ご当地カレーやラーメンに続くフェアも計画しています。
長岡:今、海外からの直接配送を行える環境を準備しています。四万十市とのコラボレーション商品は一部四万十市から直接配送されていますが、「クレマス」は海外在住のユーザーも多いので、海外メーカーから海外在住のユーザーに直接配送することができれば、コスト削減や短納期などメリットは大きいです。
今後はご当地グルメを扱うことを皮切りに経験を積み重ねながら、いずれは日本の伝統工芸品や特産品なども扱っていきたい。そうすれば、より地域に貢献できるだけでなく、海外へ日本の文化を発信していくことにつながると考えています。
日本にはまだ知られていない魅力的な商品がたくさんあります。こんな商品をクレーンゲームで扱えないかとご提案いただけたら、私たちにとっても新しい発見になると思っています。