EC運営者の本音トーク第1弾!(後半) ワークマン、ファンケル、ピジョンのEC運営者が語る。 自社ECとECモール、実店舗の棲み分けとは?

ECのミカタ編集部

自社ECの運営で抱えるそうした悩みや課題を、異なる業種の運営者が集まって共有し、互いの取り組みから解決のヒントを探る3社対談を企画しました。参加いただいたのは、株式会社ワークマンEC事業部長代理の加藤健さん、株式会社ファンケル通販営業本部コミュニケーション部コンテンツ企画グループ課長の萩山智さん、ピジョン株式会社IT推進部IT販売グループの島崎慶さんの3人です。前半では、主に各社の施策を語っていただいた。後半では、EC事業の経営課題について、リアル店舗やモールとのすみ分けなど、「この際、聞いてみたい」と思うことを率直に交わしていただきました。

ピジョンが聞きたい、実店舗やモール店とのすみ分け

ピジョンが聞きたい、実店舗やモール店とのすみ分け

━━ありがとうございます。では次はピジョンの島崎さんからの質問ですね。

ピジョン・島崎 公式オンラインショップの運営で課題に感じているのが、リアル店舗やモールの店舗とどうすみ分けて、全体のEC化率を上げるかという点です。そのあたりのお考えをうかがえますか。

ワークマン・加藤 自社ECは店舗への送客機能と考えているので、すみ分けというよりは店舗との100%連携を目指しています。まったくECの経験がなかった私が、2年前からこのポジションにいるのも、これまでエリア長や商品開発、販売促進などの仕事をしてきて現場がわかっているからです。加盟店とどう連携していくかしか考えていないですね。

ピジョン・島崎 モールで言えば、ワークマンさんは2020年に楽天市場から退店されましたが、その理由は何ですか。

ワークマン・加藤 楽天が出店社へ送料無料を求めた時期と退店がちょうど重なったので、「楽天に挑戦状」などとメディアに書かれたりしましたが、実際はそうではなくて、原価率が平均65%と非常に高い当社の商品は、出店料などがかかるモールでの商売は合わないんです。その前から、やめるタイミングを見計らっていたと聞いています。

ファンケル・萩山 当社はモールに関しては、PayPayモール、楽天やAmazonなどに一通り出店していますが、自社ECとモールとのカニバリはそんなに感じていません。理由としては、長く商品をご愛顧いただいているお客様はモールではなく、自社ECを利用される傾向があって、それには独自のポイントサービスも寄与しているように思います。また、お客様との絆づくりの一環で昨年10月に、それまで通販用と直営店舗用に分かれていたスマホ用のメンバーズアプリを統合しました。チャネルを融合させながら、お客様に適したタイミングで適した情報でアプローチする形をいま整えているところです。

ピジョン・島崎 確認ですが、楽天やPayPayモール、Amazonなどに出店されていて、そこでのカニバリは特にありませんか。

ファンケル・萩山 そうですね。楽天ユーザーは楽天ポイントを目当てに楽天で買われていると思います。モールの独自サービスにお客様がついているので、いろんなモールに出店してもカニバル印象はないです。

ファンケルに聞きたい、越境ECの課題

━━次は越境ECに関して、ワークマンの加藤さんからお二人へ。越境ECを実施している場合、課題などを教えてくださいとの質問です。

ピジョン・島崎 日本含めて各国ともに現地販売代理店制によるビジネスモデルを構築しており、公式に越境ECは行っておりません。

ファンケル・萩山 越境ECは2018年10月から中国に向けて、代理店を通じて健康食品の販売を始めました。開始時の課題はいろいろありましたが、代表的なものを言うと、中国は食品の輸出の規制が厳しくて、原料の産地や製造場所が、中国が指定する都道府県エリア内の場合、食品の輸出ができないんです。その対応は大変でした。越境ECは市場が拡大しているので今後も注力していきますが、一方で、中国国内のスーパーや薬局、ドラックストアなどで許認可製品の販売を開始しましたが、今後さらに拡大できるように今、代理店を通じてさらなる製品許認可申請に向けて進めているところです。

ワークマン・加藤 越境ECを考えているわけではないのですが、成長分野なので勉強までにうかがいました。ありがとうございました。

━━ファンケルの萩山さんから、ワークマンの有名な「エクセル経営」に絡んだ質問です。

ファンケル・萩山ECの分野でエクセルを使って、どんなことをやっておられるのかが知りたいです。

ワークマン・加藤 EC業務の中でエクセルで何をしているかというと、例えば先程でました在庫の実数表示です。1年前にEC専用の倉庫も在庫もなくして、今はリアル店舗と同じ在庫を使用しています。店舗からの引き当てがあってもEC上で欠品にならない数を、エクセルでアイテムごとにしきい値を使って算出し、商品ページの在庫数として毎日掲載しています。

ここからは質問と少し外れますが、エクセルを使いこなすために、どんな社員教育をしているのかとよく聞かれます。社内講師によるデータ分析の勉強会も開いていますが、社内資格のデータサイエンティストやデータエンジニアを目指して、20代、30代の社員は本当によく勉強しています。定期的に経営陣を前にした分析発表会があるのですが、そこで発表すると注目されますし、出世の早道にもなる。当社はデータサイエンティスト等を外部から招かず、社内で育てていく方針なので、若い社員のモチベーションにつながっているようです。

━━ワークマンの加藤さんから両社へ。物流拠点が複数ある場合、EC上の在庫数は合計の数を出していますか、という質問です。

ピジョン・島崎 規模がまだ小さいので物流拠点は1カ所です。なので、参考になるお答えができずにすみません。

ファンケル・萩山 在庫は店舗と通販で分けています。通販に関しては関東と関西の物流拠点で管理していますが、サイト上では在庫があるかないかの表記で、ワークマンさんのような具体的な数量まで出していません。在庫がなくなったら販売終了の案内をしています。

率直な質問、自社ECで利益は出せるか

率直な質問、自社ECで利益は出せるか

━━事前にうかがっていた質問は以上ですが、せっかくの機会です。最後に聞いてみたいことがありましたらどうぞ。

ワークマン・加藤 ぶっちゃけ話になりますが、この2年間、自社ECに取り組んで感じるのは、EC事業単体で利益を出すのは大変だなと感じ、経営陣の了解を得て今期1年かけて構造改革中なのですが、皆さんはどう感じていますか。

ファンケル・萩山 通販は他チャネルに比べて固定費や卸料率が抑えられる利点があるので、当社の通販EC全体でみれば、利益は十分に確保できています。だたし、商材の中で、特に仕入れ商品は原価率が高いので、利益を生み出すには工夫が必要です。もう一つの課題はプロモーションです。Webにシフトしたいのですが、ターゲット層がまだ紙媒体のほうが響くお客様も多くコストがかかってしまう。どうやったら利益を出せるかは共通の課題です。

ピジョン・島崎 私たちも正直苦戦していて、ローンチして2年と短いですが、利益を出すことの難しさを感じております。先ほど私の悩みとして挙げたモールと自社ECとの差別化にもつながる話で、楽天の公式店の売り上げは順調に伸びている一方、出店料などもかかるので。やはり優先に自社ECを伸ばしていきたいと感じています。コストを抑える意味で広告についても、コンバージョンにつながる広告かどうかを厳選して見直しているところです。

ピジョン・島崎 最後に、EC業界、EC事業全般で課題に感じていることがあればお聞かせください。

ワークマン・加藤 私はまだ通販初心者なので、業界全体の課題まではわかりませんが、最近、リアル店舗を展開している大企業の方と話をしていて同じ方向を目指していることがわかり、私どもの取り組みは間違っていなかったと自信がついたことがありました。それは、リアル店舗在庫活用型ECへの取り組みです。全国約930店舗の在庫を活用すれば、運送費も人件費も抑えられ、更にスピード化も図れる。リアル店舗を持つ小売業がAmazonに負けないようにする最大にして唯一の施策かなと感じています。

ファンケル・萩山 業界全体の話というよりは当社の課題になりますが、コロナ禍で新規の獲得効率が鈍化傾向にあります。各社が実店舗からWebでの展開にシフトし、広告出稿が増えて獲得競争が激しくなった面があるように思います。モールの店舗では新規のお客様が増えていますが、この状況もいつ頭打ちになるかわかりません。直近で買い物をいただいていないお客様の掘り起こしなど、自社ECの売上をいかに積んでいくかが重要だと思っています。加えてアプリ活用です。今後のECのキーポイントだと思います。当社もネイティブアプリに力を入れていく方針で、EC業界全体のアプリ活用の動きをウォッチしていきたいと思います。

━━皆さんのお話から、自社ECの課題や現状の取り組みが見えてきました。業種を越えて共通する悩みや課題の解決にどう取り組むか、今後も考えていきたいと思います。長時間のご参加をありがとうございました。


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