Oisix流、顧客に支持され続けるD2Cの創り方

ECのミカタ編集部

Oisix流、顧客に支持され続けるD2Cの創り方

コロナ禍で物販系EC市場が拡大したが、とりわけ目覚ましい成長を遂げたのが食品系ECだ。食品ECの先駆者であるOisixは、利便性以上の価値を提案することでマーケットを開拓してきた。顧客インサイトの見つけ方や支持され続けるD2Cの創り方について、オイシックス・ラ・大地株式会社 CMT 西井敏恭氏に話を伺った。

オイシックス・ラ・大地株式会社
CMT 西井 敏恭 氏

―EC事業を運営されていて、近年感じる変化はありますか?

過去10年間は、スマホやSNSの台頭、宅配クライシスといった物流の問題などいろいろありましたが、EC市場は、何度か大きな変化があったというよりも、絶えず変化し続けており、刻一刻と変わり続ける市場に合わせて変化できる会社が生き残っています。今年で創業22年目を迎える当社も、さまざまなトレンドを読み、変化に対応してきました。
特にコロナ禍のここ2 年間は、市場が激動しています。我々がやっている食品ECやネットスーパーはもちろん、Uber Eatsや出前館など、インターネットで食品を注文することが急速に当たり前になっていきました。以前は「食品をネットで注文するなんて」という感覚があり、お取り寄せのカニのような特別な食品はともかく、日常の食料品をネットで買うという習慣はありませんでした。
コロナ禍で価値観やライフスタイルが変化した中、「使ってみたら意外に便利だよね」と、Oisixの価値を体験してもらえる機会がグッと増えたと感じています。

―コロナ禍で消費者にはどのような変化がありましたか?

コロナ禍に突入した直後は、単純に「非接触」を求めてインターネットで食品購入される方が増えたものの、コロナ禍で食卓の状況も大きく変わりました。「以前は晩ご飯だけだったのに、ランチも作らなければばらなくなった」「今までは学校に行っていた子どもの食事も作らなければならなくなった」など、食生活の急激な変化に対して、食卓の準備がすぐには追い付かない状況でした。
食品に限った話ではありませんが、デジタルマーケティングにおいては、消費者の変化に対応することが一番大事だと考えています。SNS 、アンケート、インタビューなどを通して、お客様の変化やお客様が求めているものに気付くことで、なるべく先回りしながら消費者の変化に対応してきたことが、今Oisixを支持していただいている理由なのだと思います。

―消費者の価値観やライフスタイルが変化する中、新たに始めた取り組みやお客様のニーズを捉えて成功した事例はありますか?

コロナ前まで外食が人々の日常生活に浸透していて、元々「たまにはレストランに食べに行きたいよね」という気持ちがある一方で、「子どもがいてなかなか食べに行けない」「コロナ禍で外食が難しい」という状況があります。また「自炊疲れ」という言葉があるように、家でご飯を作ることに対する疲れも出てきています。
Oisixでは、「外食したいのにできない」と困っているお客様に対し、家でレストランの味を楽しんでもらえるよう、全国の名店の味をお届けする「おうちレストラン」という企画を始めました。「お家でレストランの味が楽しめて嬉しい」という声を頂いていて、サービスも順調に拡大しています。
また、緊急事態宣言に伴って小中学校が休校になり、牛乳の大量廃棄が問題となったときは、当社が牛乳を買い取ってお客様に提供するという形を取りました。それによって、お客様にも「応援消費」という考え方が伝わったのではないでしょうか。
大事なのは単純に「牛乳が安く買える」ということではなく、「助け合い」が実感できることだと思います。Oisixが困っている生産者の方々とお客様の仲介役となれたことはもちろん、率先してこうした取り組みを行っている会社だということをお客様に伝えられたこと自体が非常に良かったですね。

―お客様のニーズ、もっと言えば「インサイト」を見出す秘訣はなんでしょうか?

お客様ときちんと話をすることです。インターネットだけを通じてお客様を見てしまうと、リアルなお客様の姿が見えなくなってしまいます。だからこそ、当社には「現場のお客様をちゃんと見よう」という意識が会社のカルチャーとしてしっかり根付いています。
コロナで休止していますが、社長自らお客様の家に伺ってインタビューを実施し冷蔵庫の中身を拝見する、といったことも行っています。
もはや、お客様が企業の言うことをそのまま鵜呑みにして買う時代ではなくなっていると思うんです。その中で大事なのは、お客様を「30代女性」のようなくくりで捉えるのではなく、「この商品がめちゃくちゃほしいお客様って誰なんだろう?」と考えることです。100 人に 1人でもいいから、「この商品がめちゃくちゃほしい」というお客様が感じている価値をしっかり深掘りしていくことがとても重要なのです。
100 人に 1人が「ほしい」と思えば、日本国内に 100万人のお客様がいることになるので、たいていのビジネスが成り立ちます。ですから、みんなが「いい」と言うものより、 100 人に 1人が「いい」と思う価値とは何なのかをちゃんと理解すること、そしてそれをどのように言語化すれば他のお客様にも価値が伝わるかを考えるヒントになるところが、お客様と直接お会いすることのメリットだと感じています。

―コロナ禍で入会されたお客様の価値観やニーズに特徴はありますか?

コロナ禍や東日本大震災など、社会的な大きな問題が出てきたときは、社会がつながっていることを再認識するきっかけになると思います。東日本大震災から10 年が経ち、インターネットを介してユーザーがさまざまな情報を発信する時代になって、社会課題に対する人々の意識がすごく高まっていると感じています。
「SDGs」が注目を浴びていますが、個人レベルでもそうした社会課題を感知していて、社会に大きな波があるたびに大幅に感度が上がっています。こういう時こそ、自分の行動が社会につながっていることに対して、改めて幸せを感じる人が多いのではないでしょうか。

―ECで直接お客様に販売することの意義をどう捉えていらっしゃいますか?

食に限らず、従来のECは「店舗に買いに行くよりインターネットで買った方がラク」「店舗よりインターネットで買った方が安いことが多い」など、店舗の置き換えでしかありませんでした。でも、D2Cは本来「お客様と直接つながる」というところに価値があって、提供する側と提供される側が直接つながることによって、一緒に価値を作っていけるんです。
Oisixにしても、我々が一方的に商品を提供しているのではなく、例えばお客様がミールキットを自分流にアレンジすることで新たな価値が生まれます。Oisixに限らず、お客様が企業の価値と自分の価値を照らし合わせて発展させていけるのは、D2Cならではの良さだと考えています。
だからこそ、お客様が何を求めているかを知って、より良いサービスや商品を生み出すために今後も変わり続けていかなければならないと思っています。

―一般的なネットスーパーとは違って、Oisixは定期販売を中心にした独自のビジネスモデルを構築されていますね。

やはりここでも、当社が「儲かるから」というよりは、課題の解決が先にあります。
リアルのスーパーだとその場でレシピを考えなければならないですし、冷蔵庫の中に何が入っているのか確認して、足りないものを買いに行くという買い方です。それはそれで今後もずっと続くと思いますが、Oisixの場合は、1週間ほど前にこちらからレシピや購入する商品を提案することで、「レシピを考える」「料理のスキルを習得する」という負担の軽減につなげています。
一般的なネットスーパーと違って、Oisixは注文した日に届けることはできませんが、事前にオーダーしていただくことにより、廃棄量を大幅に削減できています。定期で注文をいただくからこそ、契約農家さんに「年間でこれぐらいの出荷量が見込めます」というお話ができますし、オーダーの量に応じて収穫することで、なるべく新鮮な状態でお客様にお届けできるんです。
「時代を先読みしていた」というよりも、本質的なニーズ、もっと言えば「ペイン」のようなものをちゃんと捉えて、それを解決できるようにサービスを作り込んでいった結果、お客様に評価していただけるようになっているのだと思います。

―コロナ禍の食品EC市場をどう見ていらっしゃいますか?コロナ後もECで食品を買う流れは続くのでしょうか?

「非接触」の利便性だけでは、コロナ禍が収束して以前の状態に戻ったら、市場はしぼんでしまうでしょう。ところが、実際には「非接触」以外の価値を感じていただいているお客様も多いと考えています。
Uber Eatsを使ってみて「ちょっと高いけど、外に食べに行くより注文した方が楽じゃない」という発見をした人は少なくないはずです。それと同じで、「Oisixで注文した方がトータルで便利じゃないか、より良い生活ができるんじゃないか」と考えてくださっている方はすごく多いと思うんですよね。
コロナ禍をきっかけに新しいお客様が増えて、Oisixの価値を体験された方が増えたので、コロナ禍が収束したからといって一気に需要が減るということはないと思っています。

―今後お客様にどのような価値を提供していきたいとお考えですか?

「食×エンターテインメント」「食×ヘルスケア」など、他業種とのコラボレーションを本格化させたいと考えていて、昨年からディズニーなどいろんな会社さんとコラボレーションさせていただいてます。それは、我々が「食卓をいかに豊かにしてくか」「食事をいかに楽しい時間にしていくか」ということを重視しているからです。
ご飯を作る、後片付けをするなど、食事にまつわるペインはまだまだ残っているので、ペインの軽減も今まで通り愚直にやりつつ、さらに上の価値を一緒に作っていきたいです。
コロナ禍が収束しても、家でご飯を作ること自体がなくなるわけではありません。その中でOisixが目指しているのは「豊かな食卓を作る」ことです。「リッチなご飯にしましょう」と言っているわけではなくて、家で家族と一緒にご飯を食べる時間って、本来はすごくいい時間だと思うんです。
ところが、私みたいにあまり料理スキルがなくて同じメニューばかり作っていると、家族に「またか」と思われてしまいますし、作る側も「またかと思われちゃうな」と考えてしまってネガティブな時間が生まれてしまいます。そうならないよう、家でゆっくりご飯を食べるという時間を大切にしたい方に対して、「家のご飯を豊かにする」という価値を提供していきたいですね。

ECのミカタ通信vol.23 ~変化を遂げたEC市場!今後の”あるべき姿”とは~

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