お米のギフトECが年間15万人利用を実現した理由。 『八代目儀兵衛』のギフトEC戦略とは?
ひとりでも多くの人に、美味しいお米を届けたい──。多彩な米ビジネスを手掛ける株式会社八代目儀兵衛のビジョンはシンプルだ。日本人の“米離れ”が進む中、京都の老舗企業がインターネットでお米のギフト通販を開始してから15余年。業界のパイオニアであり、トップランナーでもある同社が、自社ECサイトをフルリニューアルして新たな一歩を踏み出した。取締役CMOを務める神徳昭裕氏に、ギフト通販の戦略やブランディング、大幅刷新されたECサイトの狙いなどについて話を聞いた。
京都の老舗お米屋「八代目儀兵衛」とは
──御社の事業内容について教えてください。
当社は1787年に京都で創業した米屋で、現在の代表が8代目です。株式会社八代目儀兵衛の設立は2006年。「お米の価値観を変える」をビジョンに掲げ、通販・飲食・卸売の3事業を展開しています。
メインである通販事業では、「八代目儀兵衛」というお米のギフト通販のECサイトを運営しています。売上げの8割はギフト用です。飲食事業では京都・祇園と東京・銀座で米料亭を経営し、卸売事業ではミシュラン三つ星店やホテル、ラーメン店などさまざまな飲食事業者にお米を提供しています。
――2006年に株式会社八代目儀兵衛を設立したのは、どのような経緯があったのでしょうか。
やはり日本人の“米離れ”に対する危機感が大きく影響しています。高度経済成長期以降、日本人のお米の消費量は減り続け、現在はパンに逆転されてしまいました。農家の数も減少し、お米に対する価値・評価がどんどん下がっています。
当社のルーツは江戸時代から続く米屋ですが、商圏が限られていたので事業の拡大が困難でした。美味しいお米をより多くの人に食べてもらうにはインターネットの活用が必須だと考え、会社を立ち上げた段階で通販事業に乗り出しました。現在は楽天市場やAmazonなどモールへも出品していますが、自社ECの売上げが約6割を占めています。
お米のギフト化を実現したブランディング戦略
――お米をギフト通販で販売するという決断に至った背景について教えてください。
当社ではもともと決まった仕入れ先ではなく、その時々で美味しいお米を全国から仕入れていましたし、お米の価値を広げるための手段としてはギフトが最適だと考えました。お米は好き嫌いがなく、賞味期限が比較的長い点もギフト向きです。
――お米の通販は競合も多く“レッドオーシャン”と言えそうですよね。
そうですね。普通に販売するだけでは価格競争に陥ることが目に見えていました。お米の見た目はどの銘柄も一緒ですからね。お客様の信頼をしっかりと獲得することで付加価値を付けることができました。
――具体的にどのようにお米に付加価値をつけたのですか。
基本的にはその商品を贈りたいと思ってもらうことが重要です。当社では『お米マイスター』によるこだわりのブレンドで美味しいお米を提供していますが、美味しさだけではなくビジュアルやストーリー性を価値として伝える工夫をしています。
例えば看板商品の「十二単 満開」は、和食や中華など食事の分野別に最適なお米12種類を詰め合わせた商品ですが、十二単になぞらえた色とりどりの風呂敷で丁寧に包んであり、贈る側の感謝の気持ちや願いを表現しています。
――卸売業や飲食店経営など、通販以外の事業を展開していることはブランディングに役立ちましたか。
もちろんです。お米を卸しているお取引先様が「儀兵衛の米を使っている」と店頭で宣伝してくださることもありますし、自社で運営する米料亭でお食事されたお客様がECでお買い物をされることもあります。これらが循環することで認知と信頼性を得て、「儀兵衛のお米をギフトとして贈りたい」と思ってくださるユーザーが増えているのだと実感しています。
また、今治タオルや人気キャラクター「リラックマ」とのコラボレーション、炊飯器のプロデュースなどユニークな施策も付加価値向上に寄与しました。
――消費者とのタッチポイントが複数あることが、売上アップにつながっているのですね。
それぞれの事業を〈点〉ではなく〈線〉で捉え、企業全体としてお客様の体験価値を上げていくことが大切です。特に事業の柱である通販に関しては、ライフイベントやシーズンごとの需要創出はもちろん、ふとしたときに大切な人を思いながらギフトを選ぶ楽しさやワクワク感なども伝えていけたらと思います。当社のブランド価値を消費者に伝えていくためには、ECサイトの強化は欠かせません。
ギフトEC「八代目儀兵衛」のこだわり
――御社はお米のギフトECとして確固たる地位を築かれていますが、どのような点にこだわってサイトを運営されているのですか。
贈り手の想いを伝えるため、箱色や包装、のし、メッセージカードや手紙の同梱などさまざまな無料サービスを設定しています。有料ではありますが、手提げ袋や外包み風呂敷のご用意もあります。こうしたギフトオプションを目的や好みに合わせてお選びいただける点は利用者様から高い評価をいただいております。
――顧客対応についてはいかがですか。
ギフトのマナーについてはしっかりと利用者様にお伝えするよう心がけています。例えば結婚内祝いのギフトの場合「お客様が選択したのしは最適か」「表書きに誤りはないか」など、スタッフが目視でチェックし、間違っていそうな場合は確認の連絡や修正をしています。大切な人への贈り物なので、送り主が恥をかかないように最大限サポートしています。
――取り扱う商品も非常に華やかですよね。
さきほどお話しした「十二単」シリーズやこだわりを極めた最高峰のお米「祇園料亭米」など、京都らしさを重視した商品が人気です。この他にもさまざまなシリーズがあり、贈る方、贈られる方の双方にストーリーを連想してもらえるようなコンセプトの商品を取り揃えています。
ギフトECの課題とリニューアルで強化したポイント
――3月9日にECサイトをフルリニューアルしたと伺いました。新しいカートシステムはどのような基準で選んだのですか。
7~8社のソリューションを比較検討した結果、もっとも当社の希望にマッチしていたのがロックウェーブ様の「aishipGIFT」でした。クラウド型のASPでカスタマイズ性に優れていることはもちろん、ギフトECのサイト構築に特化したショッピングカートであることや、豊富な構築実績などが決め手でした。
導入前にaishipGIFTで構築されたECサイトを実際に利用してみたのですが、贈られる状態を具体的にイメージでき、非常に使いやすかったことも採用の後押しになりました。
――リニューアル後のECサイトでは、具体的にどのような点を強化したのでしょうか。
まず改修したのはUIです。ギフトECで重要なのは、『注文者が贈られた状態を想像できること』ですが、リニューアル前はそれが不十分でした。今回のリニューアルでは、のしやラッピングなどギフト特有のオプションを目的に沿って表示し、ユーザーが最適なものを選択できるように刷新しました。
また、サイト訪問者の“ワクワク感”を醸成するため、ビジュアル面を強化しました。トップページの写真は「星のや京都」で、法事用の商品は「東山・圓徳院」でそれぞれ特別に許可をいただいて撮影し、京都らしさにこだわることで注文する人が商品を選ぶ際にもワクワクしてもらえるよう工夫しました。
──利用者の使い勝手の部分では、どのような工夫をされたのですか。
例えばこれまでオリジナルメッセージカードに関しては、お客様にIDを控えてもらい備考欄に入れてもらう仕様でしたが、リニューアル後はメッセージカードASPとAPI連携したことで、お客様に手間なくカードを作っていただけるようになりました。
また、多くの人が普段使い慣れているLINEとの連携も行いました。LINEのアカウント情報と紐付けられるので、簡単にログインできるようになりました。
――運営側としてもより使いやすくなったのでしょうか。
そうですね。以前はオープンソースのEC構築システムを使っていましたが、ソースコードがめちゃくちゃで仕様書もなかったため、SEO対策もまともにできない状態でした。顧客リストの活用も十分ではありませんでした。そのため今回のリニューアルではマーケティングの強化を念頭に置き、CMSを使いしっかりとSEO対策ができる状態に改善しました。
今後は属性ごとにLTV分析を行い、広告の費用対効果を高めていきます。また、ライフイベントに合わせてプッシュ通知することで、リピーターを増やす仕組みも強化したいですね。
――カスタマイズ性についてはいかがでしたか。
標準機能でできないことは要件定義に時間をかけ、現場の要求を吸い上げてもらいながらカスタマイズしていきました。実装した機能は他のaishipユーザーも使えるようになるため、多くのユーザーに役立ちそうなものは両社でシェアするなど、しっかりと伴走していただけました。
リニューアル後の効果
──アクセス数やコンバージョン率など、リニューアル後に目に見える数値の変化はありましたか。
ふつう、リニューアル後のコンバージョンは一時的に悪化しがちですが、検索流入を失わないようにSEO関連の設定をしっかりと行ったので、3月の売上は前年比9%増、4月の売上は前年比40%増で着地しました。より使いやすく、魅力的なサイトに生まれ変わったと自負しています。
また、注文方法などサイトの使い方に関するお客様からのお問い合わせ件数は大幅に減りました。慶事や法事など目的ごとにマナーに沿った設定を提示することで、注文段階である程度ミスが減るようになりました。運営側の工数も確実に削減できたので、スタッフからも喜ばれています。
今後の展望
――中長期的に達成したい目標や計画はありますか。
当社は通販のほか、飲食業やお米の卸売などさまざまな事業を展開しており、お客様とのタッチポイントが複数あります。例えば祇園のお店でLINE登録してもらったお客様にクーポンを配布してEC利用を促したり、儀兵衛のお米を使っていただいている飲食店様に店頭でその旨を案内してもらったりと自然な形でいろいろな体験をつないでいき、全体としてLTVを上げていくといったことに挑戦したいですね。
──今後チャレンジしたいことはありますか。
aishipシリーズで構築するECサイトにこのたび「ソーシャルギフト機能」が追加されました。この機能が自社ECで使えるのはありがたいですね。お食事券や独自のカタログギフトなどを企画して、今後ソーシャルギフトを積極的に活用していきたいと思います。飲食店で食事をして美味しかったものを軽いギフトとして贈る場合や、会社の福利厚生(ノベルティ)でも使えそうですね。