世界は日本のプロダクトを待っている。デザイナーのための越境EC「Pinkoi」
ユニークな商品を求める消費者と、こだわりのプロダクトを世界に販売したい作り手を結ぶマーケットプレイス「Pinkoi(ピンコイ)」。台湾では圧倒的な知名度を誇り、日本をはじめとするアジア圏でも注目度を高めている。
そんなPinkoiの魅力やデザイナー支援への想い、そして実際に出品するまでの流れについて、ピンコイ株式会社 日本支社長の堀太樹氏、日本ブランドの海外販売支援担当の山尾春菜子氏に話を伺った。
デザイナーを応援するマーケットプレイスPinkoi
——Pinkoiの会社概要や設立背景について教えてください。
堀氏:Pinkoiは2011年8月に台湾で設立された会社で、香港やタイ、日本などアジアを中心にグローバルに展開しています。日本版サイトは2014年にオープンし、その翌年の2015年に日本支社を設立しました。特に台湾では知名度が高く、台湾の人口からの単純計算にはなりますが、台湾では10人に1人がPinkoiの会員という計算になります。
代表のピーター・イェンはもともとYahoo!のエンジニアとしてシリコンバレーで働いていました。週末になると毎週のように、現地のハンドメイドマーケットやデザイナーのショップに出かけていました。そこで出会ったデザイナーの熱意や作品の素晴らしさに感銘を受け、「アジアで、こういう人たちをサポートするサービスを立ち上げたい」と思い立ったのが、Pinkoiのスタート地点です。
——Pinkoiとはどのようなサービスですか?
堀氏:Pinkoiはアジア最大級の“デザインECサイト”です。メインとなるのはオンラインのマーケットプレイスを通じたデザインプロダクトの販売ですが、一番の目的はデザイナーとお客様をつなぐことです。ふだん使いのニーズを満たすというよりは、ユニークなものとの出会いを楽しむお客様が多いですね。
山尾氏:台湾ではただECでモノを売るだけはなく、ワークショップを開催したり、デザイン関連のベンチャービジネスへ投資するなどして、デザイナーの育成やサポートまでを手がけています。日本でも今後そのような取り組みを展開していきたいと考えています。
堀氏:数値的なデータをご紹介すると、グローバルでの会員数は500万人以上、ショップ数が約3万2000店舗、商品販売実績は1,130万点以上にのぼります。Pinkoiで取引された商品の発送実績は93の地域にのぼります。
日本国内でも2021年の受注件数が前年比129%となるなど、成長を続けています。日本のデザイナー(=Pinkoi出品者の呼称)の場合、80%以上が海外からの購入なので、海外に自らの商品をアピールしたい方にもPinkoiはマッチしていると思います。
——Pinkoiを一言で表すと、どのようなワードが当てはまりますか?
堀氏:「デザインファースト」というのがキーワードだと思っています。マーケットプレイスをベースに、SaaSサービス、そしてデザイナーによるデザイン、この3つをかけ合わせたサービスがPinkoiのコアの部分です。デザイナーとお客様と世界をつないでいくために、そしてデザイナーの活躍の場を増やしていくために、一生懸命サポートさせていただきます。
多彩なジャンルで重宝される日本のデザイン
——Pinkoiのマーケットプレイスにはどのような商品が多いですか?
山尾氏:Pinkoiには、アジアを中心とした世界各地の優れたデザインプロダクトが揃っています。デザイナーは大企業から個人の方まで、商品も洗練されたものから面白みのあるものまで幅広く扱っています。ギフトのニーズが高いのも特徴です。
商品ジャンルでいえば、洋服やアクセサリー、コスメなどのファッションアイテム、近年ではお菓子やお茶といったグルメカテゴリ、文房具やペット用品、ベビー用品なども人気です。2022年6月にはデジタルコンテンツのカテゴリも新設しました。モバイルの待ち受け画像や電子書籍などの販売も強化しています。
——海外のお客様に人気のカテゴリや日本の商品、デザイナーを教えてください。
山尾氏:ファッション、グルメ、インテリアなどが特に人気です。また、中秋節(日本でいう中秋の名月にあたる)にグルメ商品が売れたり、旧正月(日本でいうお正月にあたる)に招き猫や富士山をモチーフにした縁起物が売れたりと、季節によって売れ筋は変わります。
海外で売れるデザイナーの傾向としては「個性が感じられるデザイン」、または「上質でシンプル」というポイントが挙げられます。例えば人気の家具ブランド「MUKU工房」ですと、ダイニングセットのように10万円を超える高単価な商品も台湾・香港から購入されています。
——日本のデザイナーは、どのようなきっかけで出店するケースが多いですか?
山尾氏:多いのはすでに自社ECサイトを運営されていて、海外のお客様からのお問い合わせでニーズを感じて、越境ECの入口としてPinkoiを選ばれるケースです。他には親日イメージの強い台湾・香港に好感を持たれている方や、ご自身がPinkoiを利用されていて「自分も出店してみようかな」と考えた方もいらっしゃいます。
実際に出店されたデザイナーからは「海外からのオーダーが増えて、国際交流につながった」という喜びの声や、「自社ECサイトに実装されていない決済方法で取引ができた」といった機能面での評価もいただいています。
越境ECデビューも安心。イベントやコラボ企画も多数
——越境ECというと、言語や決済、配送について不安に思う方も多そうですが、Pinkoiはどのようなシステムになっていますか?
山尾氏:まず言語について、Pinkoiには自動翻訳機能が搭載されているので、外国語が分からない方でも日本語のみで利用可能です。商品ページの説明文も、お客様とのメッセージのやり取りも、自動で現地の言葉に翻訳されます(5つの言語に対応:日本語・英語・中国語繁体字/簡体字・タイ語)。万が一お取引の中でトラブルがあった場合には、日本支社のスタッフがサポートします。
また、Pinkoiではクレジットカードやコンビニ決済をはじめとする10種類以上の決済方法をご提供していて、各国のお客様が使い慣れている決済手段をご利用いただけます。
配送については、Pinkoiではデザイナーがお客様に直接商品を発送いただく流れになっています。例えば日本郵便のEMSや国際eパケットを利用すれば、スムーズに安心してお届けすることができます。発送を一括で外注されたいデザイナーには、物流会社のご紹介も行っています。
——他のモールにはない、Pinkoiの特長を教えてください。
山尾氏:一つ目が審査制のサイトであることです。それによって商品のクオリティが担保され、世界中からデザインにこだわったアイテムを企業・作家・個人とデザイナーの規模を問わずに購入することができます。
二つ目が「オリジナル商品」または正規の「代理販売商品」のみ出品可能という規約の存在です。複数のデザイナーから同じ商品が出品されることを防いで、結果的に価格競争が起こりにくく、ブランド価値を守ることができます。
三つ目がIPコラボレーション企画を積極的に展開している点です。その事例として、Pinkoiのデザイナーがスヌーピー、ミッフィーやハローキティをモチーフに商品開発をしたコラボ企画があります。台湾、香港、タイ、日本など、個人で活動しているデザイナーも参加しており、これはPinkoiがデザイナーをリスペクトし、グローバルな舞台へと導き、彼らの夢の実現をサポートするというミッションに通ずるものがあります。各コラボには、毎回40ほどのブランドが参加し、これまで600点以上のコラボ商品が誕生しました。(スヌーピーのコラボ商品は日本は販売対象外)
——オフラインでの施策にも力を入れているとお聞きしました。
山尾氏:オフラインでのマーケットやポップアップも積極的に展開しています。台湾、香港、日本などで開催されたマーケットのこれまでの総出店ブランド数は1,000以上、総来場者数は280万人以上にのぼります。
やはり「実物を見てから買いたい」というニーズは少なくありません。台湾のシューズブランド「HTHREE」の受注会イベントは日本でも大盛況でしたし、先述のミッフィー関連の期間限定ポップアップストアを渋谷でオープンした際は、全国からファンの方がいらっしゃいました。
サポート充実、簡単にショップを持てる
——Pinkoiは審査制とのことですが、出品ルールや審査の基準はありますか?
山尾氏:Pinkoiでは、デザイナー自身が設計したアイテムやコンテンツなどの「オリジナル商品」、ブランドの正規代理販売店であるという証明書をご提出いただいての「代理販売商品」、希少価値のある「ヴィンテージ商品」、そしてモノづくりなどの“体験”をご提供する「ワークショップ」の4種類を販売することができます。
大量生産された他社製品に対し、ブランド名を変えて販売することや、商品を買い付けて販売することなどはNGとなっています。
審査はブランド単位で行われます。具体的な審査基準は非公開ですが、通過しなかった場合も再申請に制限はなく、実際に多くの再申請をいただいています。
——ショップ開設までのフローや期間、費用を教えてください。
山尾氏:申請をお送りいただいてから10営業日以内に審査結果をお知らせします。その後は初期設定さえ完了すればすぐに出品が可能です。早ければ1週間ほどで販売をスタートできます。商品ページは入力項目に沿って画像や文章を登録するだけなので、HTMLの知識は不要です。
初期費用と維持費用は無料です。商品が売れた際に、成約手数料として商品価格に送料を足した金額の15%+15台湾ドルをいただく仕組みになっています。
なお現在、最大3ヶ月間の成約手数料が無料になる海外販売応援キャンペーンを実施中です。
対象:2022年7月15日〜9月30日の期間に新規ショップ開設したブランド
条件:新規出店後3ヶ月以内に、3万円以上の売上があった場合、該当月の成約手数料が無料になります。
ショップ申請およびキャンペーン詳細はこちらをチェック
https://jp.pinkoi.com/page/store-intro
——出店後のサポート内容について教えてください。
山尾氏:サポートも力を入れている部分です。ショップ運営に不慣れなデザイナーのために、無料アドバイスやレクチャーコンテンツ「Pinkoi Academy(ピンコイアカデミー)」、ヘルプセンターを通じた情報発信を充実させています。セミナーも随時開催しています。日本語のお問い合わせ窓口も設けていますので、安心してご利用いただけます。
また販促施策として、グローバルで年間2億円を超える広告費を投下したり、グローバルで合計110万人のフォロワーを持つFacebookをはじめSNSの運用にも力を入れたりと、商品の露出を増やしています。
堀氏:SNSといえば、PinkoiはTikTokとの相性が良く、日本の商品に関する投稿で数十万回再生されたものもあります。バズった投稿は台湾・香港などにも展開しています。成功事例をグローバルで共有できるのは強みですね。
デザインのエコシステム創出を目指す
——Pinkoiは今後、EC業界にどのように貢献していきますか?
堀氏:日本の越境ECはこれからさらに成長が見込まれる市場です。当社としても特にアジア圏を中心に、その成長に貢献したいと考えています。“デザインファースト”で、デザイナーによるデザインのエコシステムを、グローバル規模で作っていきたいです。
直近でも新型コロナウイルスによる不況時にPinkoiの販売成約手数料を15%から5%にするなど、デザイナー支援策を積極的に行っています。日本がコロナのワクチンを台湾に提供した際には、そのお礼として台湾のデザイナーが集まり、日本向けに送料無料や割引のキャンペーンをPinkoi上で実施してくれたことがありました。こういった事例を増やしていきたいです。
——今後の事業展開で注力することや、お客様の声から実現していきたいことがあれば教えてください。
堀氏:長期的な視点では、これまで以上にデザイナー支援やワークショップ、投資の仕組みを作ることを目指していますが、まずは日本での認知を広げていくことです。日本にとって越境ECは重要ですが、海外から見ても日本の存在は不可欠です。海外の人々は、日本のプロダクトを買いたいと思っています。「デザイナーのためのECといえばPinkoi」といわれるために、さまざまな施策を打っていきます。
お客様からのご要望が多いオフラインのイベントにも力を入れていきます。創業者ピーター・イェンのエピソードにもあるように、デザインプロダクトは直接見て、聞いて、触ってみたいという方も多いでしょう。オンラインとオフラインをつなぐ役割も果たしていきたいですね。