EC事業者の「今後のあるべき姿」のヒント続出! 10月6日「ECのミカタFESTA」2日目ルポ

ECのミカタ編集部

2022年10月5(水)・6日(木)の2日間にわたって開催された「ECのミカタFESTA」。2日目の6日(木)はあいにくの雨に見舞われたが会場への来場者も多く、カート、後払い決算、物流、越境ECなどに関連したサービスを提供するEC支援事業者の各ブースでは自社ECへの導入を検討し、さまざまな質問を投げかける来場者でにぎわった。
またこの日はWEB基調講演が4講演、そして会場での基調講演が4講演行われ、参加者はオフライン・オンラインのハイブリッドで各々聴講した。本記事では、その基調講演の内容を中心にレポートする。

顧客起点でブランド体験を推進。オルビスのCRMとDX

顧客起点でブランド体験を推進。オルビスのCRMとDX

「ECのミカタFESTA」の2日目、基調講演トップバッターは、オルビス株式会社代表取締役社長の小林琢磨氏。2002年に株式会社ポーラ入社後、社内ベンチャーで敏感肌専門ブランドである株式会社DECENCIAを立ち上げて代表取締役社長を務めた後、2017年にオルビス株式会社に入社。2018年に代表取締役社長に就任し、リブランディングや構造改革などに着手してきた小林氏の講演テーマは「変革を遂げたオルビスが推進する、顧客起点の新たなCRMとサステナブルなDX」だ。

リアルな店舗を持たず、カタログ通販からスタートしたオルビスは創業から35年以上経っており、プロダクトライフサイクルの一連を経験している。2000年代半ばから成熟期に入ると、売上は横ばいなのに利益率が下がり続けるという状況に陥った。その理由を「ブランドコアが薄れていた」と捉えた小林氏は改革に打って出る。

2018年からリブランディングを進め、CRMを強化。さらに現在はDXにも着手している。その推進事例としてサプライチェーンでの出荷ラインの自動化を紹介。「DXの目的は顧客価値創出のためのブランド体験の進化です。コストダウンも目的の一つですが、第一ではありません。顧客価値向上のためにサプライチェーンをサステナブルさせたのは、経営上大事なことですが、最優先しているのは顧客価値のため。ブランド体験のためというコンセプトを社内でも強く明示している」と小林氏。

またCX戦略(顧客体験価値)においては、とても好評だというAIを活用したパーソナルカラー診断などのコンテンツを紹介。LTVの先行指標をお客様のアクションの回数だと捉えており、パソーナル診断など提供コンテンツの中身を重視しているという。「IR的によくEC化比率が問われますが、EC化比率なんてどうでもいい。本質は顧客価値を高めるためのブランド体験の進化。そのためにブランド体験そのものをDXして、進化させていくべき。組織の中でチャネルでは区切らない。あくまで顧客視点を大切に」と述べた。

講演の冒頭で経営者である小林氏は、「経営の視点でダイレクトマーケティングについて語りたい」と述べていた。リブランディングからDXへ。経営というファクターを通した小林氏の講演は、CRMの強化やDXに取り組む者の視野を広げる示唆に富んでいた。

「池袋ミラーワールド」を事例にメタコマースの未来予想

「池袋ミラーワールド」を事例にメタコマースの未来予想

「あきゅらいず」によるEC通販組織の作り方をテーマにしたWEB基調講演に続いて、リアル会場では「メタバース×ECの未来 コロナ禍で見えてきたメタコマースの可能性」と題した基調講演がスタート。登壇者は株式会社テレビ東京ビジネス開発局コミュニティ事業部長の吉澤有氏と、GMOメイクショップ株式会社常務取締役の古屋智久氏だ。両氏はテレビ東京が運営するバーチャルサービス「池袋ミラーワールド」内でのEC(メタコマース)の構築に関わっており、それぞれの視点でメタバースおよびECの関わりについて、今後の展望を踏まえて語り合った。

「池袋ミラーワールド」は、仮想空間上にもう一つの池袋をつくるというプロジェクトで、豊島区と共に開発が進められ、2021年3月にリリースされた。その「池袋ミラーワールド」のデモ画面を見ながら講演は進んでいく。バーチャル池袋駅やバーチャル豊島区長室などが映し出され、アバターで自由に出入りできる様子がスクリーンに映し出される。

「オープンソースのプラットフォームを使って『池袋ミラーワールド』を開発しているので、利用料がかかりません。CGを制作して貼り付ければ同じものができます。そんなにハードルが高くないので挑戦してほしい」と吉澤氏。

さらに話は「池袋ミラーワールド」内のメタコマース「テレ東Xショップ」に。「メタコマースの中に店員さんを置いてボイスチャットで話しかけることもできる。ショールーム的な扱いが可能です。実店舗で気持ちよく接客してもらっているような、メタコマースならではの表現力に期待している」と吉澤氏。

また古屋氏は、「コロナ禍になって店頭購入ができなくなり、EC購入が増えている。ECに人が多く流れてきたことで、売り方も買い方も変化している。ライブコマースやSNSで店員が情報を発信するようにもなった。今後はより人を感じられることが必要になってくるので、メタコマースにはオンライン接客からの購入率アップへの展開が期待できる」とした。

住宅展示場や教育現場でもメタバースが利用されているだけでなく、東京都内でも「池袋ミラーワールド」のような仮想空間を構築しているところもあるという。今後さらに広がりをみせるメタバースおよびメタコマースの可能性を十二分に感じる講演だった。

広告に頼らないVALXのマーケティング戦略を大公開

広告に頼らないVALXのマーケティング戦略を大公開

株式会社三越伊勢丹の高柳隼人氏と鈴木雄大氏によるWEB基調講演「三越伊勢丹グループ店舗でのポップアップストアからEC売上に繋ぐ新リアル集客法」に続いて行われたのは、株式会社レバレッジ代表取締役社長の只石昌幸氏による基調講演「爆成長VALX流マーケティング」だ。只石氏は2006年にレバレッジを起業。2016年にフィットネス領域で自社メディアを、2019年にはフィットネスブランド「VALX(バルクス)」を立ち上げた。ECではプロテインなどオリジナル商品を展開し、独自のSNS戦略で広告費をかけることなく、わずか10カ月で月商1億円に。2021年には売上で前年比362%を達成している。

「VALX」の広告比率はDtoCの企業としては極めて低い約12%。只石氏は、「僕はうちの会社のLTVとかROIとか数字は一切知りません。僕は教科書にのっているような数字は追っかけていませんが、それでもできるんです。そして今の時代、広告は終わりだと思っている」と、会場の空気を一変させるほどの熱量で語りかける。

バレンタインデーにちなんだ画像をSNSで拡散したり、「VALX」の愛用者が鍛え上げた上腕二頭筋に広告を貼って宣伝するなど、「VALX」のSNS戦略はどれもユニークだ。それを只石氏は「僕らがSNSを得意としているからではありません。SNSで何ができるかということを365日24時間考えているだけ」と言ってのける。「広告はお金を出せば誰でも買えるんですよ。誰でも買える枠で戦ってどうするんだと僕は言いたい。うちの社員にはとにかくお金を使うな、広告を使うな、お前の頭で考えろと言っています」と続けた。

「VALX」の唯一のKPIは「熱狂的なファン」だと断言する只石氏が、いかに熱狂を生み出しているのか。その根底には苦い経験があるとする只石氏が、どのように考えを改め、行動し、今の組織へと進化させていったのかを知る機会となった基調講演。只石氏は、「VALXは圧倒的1番を死んでも目指しています。みなさんは業界それぞれ違うかもしれないけれど、本気で一番目指していますか。今日をきっかけに1番を目指してみませんか」と最後まで熱く会場に呼びかけた。

LTVを最大化させる、DoCLASSEのCRM戦略とは

LTVを最大化させる、DoCLASSEのCRM戦略とは

イルミルド製薬株式会社の西俊彦代表取締役によるWEB基調講演修了後、この日最後の基調講演「トレンドを超える“本質”をつかむ 勝ち組EC通販のCRM戦略」が始まった。登壇者の株式会社DoCLASSEダイレクトマーケティング部部長・福島博氏は、義務教育修了後にフリーターとなり、接客・販売の現場を数多く経験。マーケターの道に進み、お客様にとっての価値を仮説立てしたうえでの提案力、データ分析に基づくマーケティングPDCAを融合させ、勘やセンスに依存しないマーケティングを追求し、現在はDoCLASSEのマーケティング領域のリーダーとして、CRM戦略に注力している。

福島氏はまずDoCLASSEのTVCMを紹介。年齢にとらわれず輝きをもち続けることの大切さを伝えたTVCMが、東洋経済オンラインで紹介されたランキング(2022年5月「 テレビCM氏名検索スコアランキング」)で、40代以上の女性から「やたら気になったTVCM」として高い支持を得たことに触れた。このTVCMに象徴されるようにDoCLASSEは、40・50代の大人世代をターゲティングしたブランドだ。2007年の創業時はカタログ通販でのスタートだったが、現在はEC通販、店舗が加わり3チャネルで販売しており、本講演では、「アパレルの自社ECとしては国内トップ10に入る売上規模」を誇っているというEC通販のCRM戦略を中心に話が進んだ。

福島氏は、「CRMツールはたくさんありますが、ツールはツールであって、目的を達成するための手段です。DoCLASSEではCRMを含むDtoCそのものがダイレクトマーケティングだと捉えています」とし、ダイレクトマーケティングの本質とは「LTVを最大化すること」だと述べた。そして「お客様に私たちを好きになってもらうことと、お客様がお金を使ってくださることは別々ではありません。お客様が私たちのことを好きになってお金を使うと、さらに私たちのことを好きになってくださるという本質」を軸にしながら展開しているCRM戦略における7つのポイントを披露。その7つに凝縮されたノウハウに会場は耳を傾け、講演の最後には聴講者から質問を受け付けるなど実践的な講演となった。

唯一無二のBtoBメディアプラットフォームとして成長を約束

唯一無二のBtoBメディアプラットフォームとして成長を約束

「ECのミカタFESTA」の全プログラムが終了後、ステージに立ったMIKATA株式会社の小林亮介代表取締役社長から、展示会出展企業、基調講演登壇者および参加者に向けて「ECのミカタFESTA」が無事に終了したことへの感謝が述べられた。

1日目はリアル、オンライン参加922名の合計1064名。2日目は16時点でのリアル、オンライン参加の合計963名、2日間の来場者数2027名の天候の悪いなかでも多くの参加者があったことに触れ、会場では「EC業界をつくってきている企業がこんなに揃う展示会イベントは最近ない」といった言葉をかけられたと報告。

そしてビジネスパートナーであり、実の弟でもあるMIKATA株式会社の小林敬介専務をステージに呼び、唯一無二のBtoBメディアプラットフオームとして成長し続けることを宣言した。また「ECのミカタ」として全国EC物産展、レビューコンテンツや動画コンテンツを増やすなど今後の展望も語られた。会場からは大きな拍手が起こり、2日間に渡った「ECのミカタFESTA」は幕を閉じた。


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