メーカーと連携した食品転売対策。「楽天市場」における安心・安全の取り組みとは。
EC業界で問題視される、消費者の足元を見た価格つり上げや転売の横行。消費者へ適切な価格・状態で商品が届かなかったり、メーカー各社の流通を妨げたりすることが大きな社会問題となっている。中でも、食品の転売行為は、転売事業者のずさんな商品管理により、購入者に健康被害を及ぼすリスクもあり、問題視する声が大きい。
こうした現状を改善するため、ユーザーが安心してお買い物ができる健全な売り場づくりを推進することを目的に、「楽天市場」では、2021年8月より食品メーカーと包括連携協定を締結し、不適切な食品の転売対策を強化している。転売対策に取り組む意義やこれまでの成果、今後への展望について、楽天グループ株式会社と、協定締結先メーカーである株式会社鎌倉紅谷を取材した。
社会問題化する「転売」。ユーザーを守る「楽天市場」の取り組み
──まずは、「楽天市場」で実施している転売対策の概要について教えてください。
楽天グループ株式会社 コマースカンパニー EC品質管理部 半井〈なからい〉大輔氏(以下、半井) 私たちのミッションは、「楽天市場」において安心・安全で適正な流通環境を提供することです。その活動の1つとして、転売対策に関する取り組みをおこなっています。具体的には、食品について、一般消費者向けに販売された商品を購入して販売する行為を2018年より禁止しています。不適切な商品の販売が確認された場合は調査のうえ、規約に基づき販売店舗に対する注意喚起や当該商品の削除請求などの措置を講じています。また、2021年8月より主に食品メーカーと包括連携協定を締結し、「楽天市場」で販売される商品の安全性に関する調査や、不適切な転売行為の対策を実施しています。今回一緒に取材対応いただく鎌倉紅谷様も、協働する包括連携協定締結企業の1社です。転売に関して同じ問題意識を持つ食品メーカー様にお声がけし開始した締結先企業数は、当初12社でしたが、現在(2022年11月)では29社まで増えています。
──転売対策の開始には、どのような背景がありましたか?
半井 昨今は、転売に関する問題意識が社会的に高まっています。一例として、コロナ禍におけるマスクや消毒液等の転売や価格のつり上げは大きな社会問題として認識されていました。「楽天市場」では従来より、地震・大雪・感染症の流行などの自然災害や事故に際し、水・乾電池等の生活必需品や、マスクや消毒液、除雪スコップ等の物品を、通常の市場価格よりも著しく高い価格で販売する行為を禁止しています。マスクの転売については、その後法規制が行われることとなりました。こうした転売は、必要とする消費者に商品が適切に届かないことはもちろん、メーカー企業の適切な流通を阻害します。ただし、基本的に転売そのものは「違法」ではありません。価格が適切か・不適切かを販売プラットフォームが安易に判断すれば、事業者の価格決定権を侵害しかねないため、転売の規制は難しい状況にあります。こうした背景もあって、残念ながら転売を行う事業者は後を絶ちませんが、一般消費者・メーカー企業の双方からのご指摘に応え、まずは特に健康被害につながる可能性のある「食品」を対象とした取り組みを開始しました。
転売に関する問題意識が社会で高まることが重要
──具体的には、どのように転売対策を実施しているのでしょうか?
楽天グループ株式会社 コーポレート統括部 コマース渉外室 鈴木隼平氏(以下、鈴木) 「楽天市場」において、転売商品の出品についてモニタリングを強化しております。先ほど半井がご説明したように、ECプラットフォームとして、正規の価格よりも高い値段で商品を販売している事業者に「価格を上げないでください」とは言えませんし、値段で転売かそうでないかを判断することはできません。
そこで、転売と疑わしい商品などについては、協定締結先の食品メーカー様にご協力をいただきながら、メーカーから卸として供給されている正規の商流で仕入れられているものなのかを確認しています。
オンライン・オフラインを問わず一般の小売り窓口──つまり一般消費者向けの販売チャネルから仕入れた食品については、必要な知識等に基づく適切な商品管理が行われることを担保できず、健康被害の恐れもあるため、販売店舗に対する注意喚起や当該商品の削除請求などの措置を講じています。
また、転売業者は商品画像などの著作権を無視して転載しているケースも多いため、画像確認による判断も行っています。「商品価格が異常に高額だった」などといった消費者からのレビューや外部のSNS等への書き込みも参考にしながら、慎重に個別対応しています。
さらに、協定締結先のメーカー各社様との定期会合も開催しています。世論がマスクや消毒液の転売禁止の法制化を後押ししたように、転売に関する問題意識が社会で高まることが非常に重要になりますので、各種広報活動にも力を入れています。
各社との連携強化と徹底したモニタリングで転売の悪循環を断ち切る
──「食品」の転売が、特に問題になるのはなぜでしょうか?
株式会社鎌倉紅谷 代表取締役 有井〈ありい〉宏太郎 氏(以下、有井) 通常の仕入れルートでEC販売されている食品には、何の問題もありません。正規の小売事業者は室温管理や梱包などを徹底しているからです。しかし、非正規のルートで仕入れられたものとなると、どのような保管体制・流通経路によって消費者に商品が届くかをトレースすることは難しく、品質の担保ができなくなります。消費者の口に入る「食品」というジャンルの性質上、これは致命的です。
転売されたものでも、消費者にとってわれわれ「メーカー」の商品であることに変わりはありませんので、梱包や品質に問題があったときは、メーカーにクレームが来たり、低い評価の口コミを書かれてしまったりと、自社ブランドの毀損にもつながります。
半井 消費者の不安を生まないように、そしてメーカーの負担を増やさないように、各事業者が適切な商流で仕入れ、適切に販売しているか、しっかりと確認することが私たちの任務だと思っています。
──現在までに、どのような成果や手応えを感じていますか?
有井 インターネット上で、酷いときでは正規の価格よりかなり高く転売され、中には正規価格の4倍にもなっているようなこともありましたが、協定締結後は早い段階において、「楽天市場」での転売がほとんど見られなくなりました。非常に大きな効果を感じています。
鈴木 協定締結後、スピーディにモニタリングを開始したこともあって、「楽天市場」において、締結先メーカー各社が取り扱う商品の転売が大幅に減少しました。あるメーカー様からは、「実店舗へ台車を持って仕入れにくるような転売業者が目に見えて減った」といった声もいただいています。
また、転売業者のなかには、転売自体が「楽天市場」の規約等に反するものだと思わずに行っている事業者も少なからずいます。定期的な注意喚起や適切な措置を継続することで、「よそでもやっているから大丈夫だろう」という悪循環を断ち切ることが大切だと思っています。
半井 転売対策の取り組みについては、外部の有識者より「楽天市場」の取り組みに助言をいただく「アドバイザリーパネル」においても、消費者・事業者の両サイドから高い評価をいただいています。ただし、この包括連携協定における楽天の立場は、「安心して買いたい」と願う消費者と、「適切に商品を流通させたい」と願うメーカーの想いをつなぐ存在だと考えています。現在定期的に開催しているオンラインミーティングを、今後オフラインで実施することも考えています。メーカー各位に横のつながりを広げていただき、転売の抑止力を増大させていきたいです。
流通の適正化により、誰もが安心して使えるECショッピングモールを目指す
──約1年間の取り組みを通じて見つかった、新たな課題はありましたか?
有井 大きな効果を感じていますので、あとはこれをいかに継続させていくかだと考えています。自社の課題にはなりますが、供給が間に合わなくなったタイミングで転売が発生する傾向がありますので、転売の撲滅に向けて、商品が常に潤沢にいきわたるように努めたいと思います。
鈴木 食品の領域においては、引き続き協定先を増やしながら、各社と協働して取り組んでまいります。買う人がいるからこそ転売する人が出る、というループを終わらせるために、消費者に対する注意喚起も実施していきます。また非食品の領域に関しては、事業者の価格決定権に絡む問題となるため弁護士と相談しながらにはなりますが、今後対策を広げていく予定です。今後対策を広げるためにも転売撲滅へ向けた社会的な意識の醸成を行いたいと思います。
──最後に、今後への意気込み・展望について教えてください。
半井 適正価格と品質の維持向上を通じ、「楽天市場」でお客様が「不満を感じる」体験をゼロにしていきたいと思っています。われわれのミッションである安心・安全なお買い物環境の構築のために、今後もなるべく早い段階での注意勧告等を実施していきたいと考えています。そして、繰り返しになりますが、転売の撲滅を後押しする要因の一つは、社会の声です。適切な流通に向けて、転売への問題意識向上に貢献してまいります。
有井 「お客様に喜んでいただけるように」という一心で作りあげた自社の商品が転売されることには、これまでやるせなさと悔しさを覚えてきましたので、今回の対策には大きな手応えと期待を感じています。生産力を伸ばしながら他のメーカーと力を合わせ、誰もが安心して商売できる環境を構築していきたいと思います。
「楽天市場」では、食品の転売対策の他にも、ユーザーが安心してお買い物できる健全な売り場づくりを推進することを目的に、さまざまな取り組みをおこなっている。権利侵害品などの法令に反する商材のほか、モラルに反するものなど不適切商材の販売を禁止するとともに、専門部隊を設け、1,600以上(2022年5月時点)のブランド権利者やセキュリティベンダー、行政などの外部団体の協力を得ながら、権利侵害品や模倣品、商品の品質表示の管理などの対策を実施している。
また、2019年には「楽天市場」のより一層の品質向上および健全化を図り、「楽天市場 品質向上委員会」において、Eコマース事業者関連団体や、消費者団体など外部有識者で構成されるアドバイザリーパネルを設置し、外部有識者と協議する場を設けているほか、2020年には、独立行政法人国民生活センターとの意見交換を開始するなど、ユーザーが安心してお買い物ができるサービスの提供を目指し、日々改善を重ねている。