アスクル、花王、コクヨは物流2024年問題にどう取り組む? 発注量平準化に関する実証実験で見えた課題 まずは自社の積載量の実態を知ることから

【物流2024年問題特集】

左からアスクル株式会社マーチャンダイジング本部 プロキュアメント統括部長 山川剛央氏、花王株式会社 SCM部門 ロジスティクスセンター カスタマー物流部マネージャー 伊神真光氏、アスクル株式会社 マーチャンダイジング本部 プロキュアメント 長浜士朗氏、コクヨサプライロジスティクス株式会社 SCM推進室室長 井上真一氏、コクヨサプライロジスティクス株式会社 事業推進本部 コミュニケーションデザイン部 中村友哉氏

事業所向け通信販売を展開するアスクル株式会社(本社:東京都江東区、代表取締役社長:吉岡晃)は、2022年4月から2023年1月までの期間、花王株式会社(本店所在地:東京都中央区、代表取締役 社長執行役員:長谷部佳宏)とコクヨ株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:黒田英邦)とともに、「発注量の平準化に関する実証実験」を実施。AI を用いた独自システムにより需要予測・需要変動を取り込み、発注量を平準化することで、輸送車両台数とCO2排出量の削減などの成果を得ることに成功したという。取り組みの狙いについて、今後について話を聞いた。

2024年には、4億トン相当の貨物の輸送能力が不足する!?

国交省の資料によれば、具体的な対応を行わなかった場合に、2024年度には国内の貨物の輸送能力が約14%(4億トン相当)不足する見込みだという。トラック台数には余裕があるが、深刻な不足が見込まれるのはドライバー。そこで国交省では、省力化などの条件を満たすと経費の補助や税制上の特例を受けられる「物流総合効率化法」の改正など、さまざまな支援をし、配送の効率化・省力化を呼びかけている。とはいえ、運送業者のほとんどは零細企業であり、その多くが大手業者の孫請け・曾孫請けのため、いびつなパワーバランスが邪魔をして、効果的な変革が起こりにくいのが現状だ。

そんな中、通信販売大手のアスクルと花王とコクヨが共同で「発注量の平準化に関する実証実験」を行い、注目されている。これは、アスクルが2019年に掲げた「ホワイト物流」推進運動の自主宣言の取り組みの一つで、サプライヤーへの商品発注量を平準化し物量の波動を吸収することにより、輸送車両台数とCO2排出量の削減を目指すもの。

アスクルのホワイト物流自主宣言。今回の取り組みはホワイト物流自主宣言の取り組みのひとつ(出典:国土交通省)

非効率的な配送の大きな要因は、“日々のばらつき”

これまでアスクルが採用していた発注方法は、消費者の需要変動に応じてサプライヤーに「必要なモノを・必要な時に・その都度発注する」というもの。小売業では一般的な方法だが、発注量は日々ばらつきがある。急に発注が増えるとトラックの増台対応が必要になったり、増台が間に合わず積み残しが起こったり、逆にトラックの空きスペースが多い日もそのまま走らせなければならないなど、非効率な面が多く、それが運送費用に反映され、サプライヤーにとって大きな負担となっていた。

一方アスクルも日々変動する入荷量に対して受け入れ作業を行う必要がある。こうしたやり方がサプライチェーン全体の生産性低下につながっていることや、低積載の輸送を行うことで無駄なCO2を排出していることが課題となっていた。

アスクルが発注している数百社のサプライヤーの中で、特に物流の多いところに対するヒアリングで浮かび上がってきた課題(アスクル株式会社提供図版をもとにECのミカタで作成)

アスクルは自社が発注している数百社のサプライヤーの中で、特に物流の多い会社ヒアリングを行った。そこで浮かび上がってきた多くの課題を解決する方法のひとつが「発注量の平準化」だった。

「当社は国交省が2019年に発表した持続可能な物流の実現に向けた自主行動宣言『ホワイト物流推進運動』に賛同していますが、その三つの宣言の一つとして、『発注の平準化の検討』があるのです」(アスクル株式会社 マーチャンダイジング本部 プロキュアメント 長浜士朗氏)

AIを活用した「発注量平準化のシステム」で、輸送車を単位とした発注量に変更

AIを活用した「発注量平準化のシステム」で、輸送車を単位とした発注量に変更

アスクルは発注量の平準化を実現するにあたり、EC事業者起点でAIを活用した「発注量平準化のシステム」を開発。1週間分の需要予測・需要変動のデータをもとに、サプライヤーへの発注量を、これまでの消費者の需要ベースから、花王とコクヨの採用する輸送車格(4トン車、10トン車等)単位とした発注量に変えた。

ただ、配送量を平準化するには多い日と少ない日の組合せが必要なため、ある程度のボリュームがないと難しい。「そういう意味でも、配送量の多い花王さんとコクヨさんにご協力いただけたことは非常にありがたかった」(長浜氏)

年間で4トントラック158台分、CO2排出量を5.1トン削減

本実証実験を通じて発注量の平準化を図ったことにより、輸送に用いる車両数を削減し、同一の物量に対して排出CO2を削減させる成果を得ることができた。また、輸送する物量の平準化でトラック積載率が向上し、4トントラック158台分、10トントラック47台分の削減に成功。さらにサプライヤーやアスクルの物流センターの庫内作業も効率化した。この結果を受けてアスクルでは2023年2月より本実証実験を他サプライヤーにも展開し、取り組みを拡大。2023年8月に、以下の年間試算結果を発表した。

期間:2022年4月21日から2023年4月20日
対象:アスクル物流センター:名古屋センター、DCMセンター

① CO2排出量を5.1トン削減
② トラック台数を削減:4トントラック158台、10トントラック47台削減
③ トラック積載率が68.0%から69.7%に向上(1.7%改善)
 (対象品が重量物ではないため、容積で積載率を算出)
④ サプライヤー・アスクル物流センターでの庫内作業の効率化
 〔花王・コクヨ(サプライヤー)〕 出庫、仕分け作業の効率化
 〔アスクル(荷主)〕 物流センター内での入庫、在庫化作業の効率化

「実証実験前にかなりシミュレーションを重ねたが、実証実験ではシミュレーションの数値と遜色ない結果が出ており、いくつかはそれ以上の実績を出すことができた。CO2排出量の減少量が大きいか小さいかは議論があるかもしれないが、14%減は一定の成果といえるのではないかと考えている」(長浜氏)

調達の危機を回避し、「選ばれ続ける」ための施策

今回の実証実験の画期的な点は、発注者であるアスクル側からの提案であること。

「アスクル様は当社にとってはお得意先様に当たるが、他のお得意先様と直接こうした提案のやりとりはなかなかできていないのが現状。だからこそ、今回のチャレンジには非常に大きな意味があると感じている。こういった取り組みが今後、広がっていくことを期待している」(花王株式会社 SCM部門 ロジスティクスセンター カスタマー物流部マネージャー 伊神真光氏)

「当社はコクヨの物流子会社ということもあって、お得意先様と直接そういった提案や相談をする機会はなかった。営業経由で時々、『こんなことはできますか』という規模の小さなやり取りがある程度で、こうした大規模な取り組みはなかなかない」(コクヨサプライロジスティクス株式会社 SCM推進室室長 井上真一氏)

ではなぜアスクルは、こうした実証実験を実施したのか。それは調達としての危機感からだという。2024年以降、ドライバー不足により車両確保が困難になり、「高コスト」「煩雑な業務」が急増することは確実。それによる“アスクル離れ”を防ぐため、つまりサプライヤーから選ばれ続けるために必要な施策だった。

「小売業界の従来の商習慣」をどこまで改善できるか

「今までのように『積載量の多少に関係なく、チャーターしたトラックに乗せて持ってくればいい』というようなやり方では、今後は通用しない。物流費も上がっているので、運送料の増加は最終的にエンドユーザーである消費者への売価に転嫁されかねないという、負のスパイラルになる。どこかでそれを食い止めなければならない。発注者とサプライヤーは元々対等な立場だが、現実的には言いにくいことも多々あると思う。我々が対等な立場でサプライヤーの話を聞き、実態をつかまなければならない」(長浜氏)

「今回の実験は、成功事例ではあるが、我々としては欠品のリスクも負っている。ただ将来的な持続可能な物流の実現を考えると、我々がそのリスクを負ってでも、サプライヤーとWin-Winの関係を築いていく必要があるため今回の実証実験を提案した。サプライヤーと我々が、どこまで、どのようにリスクを分散するか、という中で、お互いベストなところを見つけたいと考えている」(アスクル株式会社マーチャンダイジング本部 プロキュアメント統括部長 山川剛央氏)。

「可視化」と「共有」が、持続可能な物流の決め手

今回の取り組みを通して、「積載量が可視化されていない」という、物流業界の課題も見えてきた。

「当社は発注量は把握しているが、それがどのように運ばれているかまではわからない。しかしいろんなサプライヤーさんにお声がけをすると、トラックの積載量の実態を把握していないところも多いことがわかった。『トラックはどんなタイプを使っていますか』ということを聞いても、『配送会社に聞かないとわからない』という回答が返ってくることが多い。配送データを可視化してオープンに開示し、共有できるようにすれば、平準化の動きを加速できるのではないか。逆にいうとそれができなければ、もう一段回先の効率化は難しいと感じた」(長浜氏)

「サステナブルな物流の実現のためには、業界全体が手をとりあって取り組んでいく必要がある。そのためには長浜さんがおっしゃるように、データをいかに可視化し共有するかが必要不可欠。『共創』という世界観を作ることで物流が進化し、業界全体が良くなるのでは」(花王 伊神氏)

「さまざまな可能性を探っていかないと、今後は立ち行かなくなる。花王さんのような、同じ納品先のサプライヤー同士が協力して、いっしょに何かできないか。また違う納品先であっても、倉庫間の横のつながりを持つことで変えられることがあるのではないか。ドライバーさんに荷物の積み下ろしをお任せしているような状況も、変えていかなければならない」(コクヨ 井上氏)。


記者プロフィール

【物流2024年問題特集】

働き方改革関連法により、ドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題の総称である物流・運送業界の「2024年問題」。特にドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、一人当たりの走行距離が短くなり、長距離でモノが運べなくなることが大きな懸念となっています。ECのミカタでは、この「2024年問題」を、物流業界に携わる企業様へのインタビューを中心に、特集していきます。

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