「トラックGメン」も創設で物流改善へ~国土交通省が挑む「物流2024年問題」の今【後編】

【物流2024年問題特集】

人口減少に伴う労働力不足に加え、働き方改革関連法により、トラックドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる物流・運送業界の「2024年問題」。この「2024年問題」を、物流業界に携わる方々へのインタビューを中心に特集。第1回となる国土交通省へのインタビューを前後編でお届けする後編。
※本インタビューは「ECのミカタ通信vol.25」でもお読みいただけます。
https://ecnomikata.com/knowhow/40524/

やはりラストワンマイルはネックに

期待されるモーダルシフトだが、様々な課題がある。その一つが「ラストワンマイル」問題だ。もともとは通信接続を提供する最後の区間という意味で使用されていたこの言葉が、物流業界では物流センターから個人宅への区間の配送を指し、特に過疎地でのラストワンマイルの人手不足が深刻なのはご存じの通り。また、生産地から少しでも新鮮な状態で物産を手に入れたいという日本人特有のニーズから、鉄道や船などで代替するモーダルシフトも進みにくいのだという。

それでも笹口氏は、「モーダルシフトが広がっていくかどうかというよりも、もう広げていかないといけないというスタンスで取り組んでいます。ドライバー不足に対応するための省力化はもちろん、環境負荷低減、持続可能な物流という観点からも、強力に推進していく予定です」と国土交通省 総合政策局 物流政策課 物流効率化推進室 物流効率化調査官 笹口 朋亮氏(以下発言同)話す。

「今まではソフト面のモーダルシフトの補助が中心だったのですが、今回の政策パッケージでは、ハード面を中心に施策を進めていくことを打ち出しています。例えば、貨物鉄道を強力に進めるために、大型コンテナを扱うための『トップリフター』や、積み替えステーションの整備、背高コンテナの鉄道輸送に必要な低床貨車の開発なども進めています」

そのほか船舶でも内航海運や船の整備、ドライバーの休息所の設置費用支援などを掲げており、モーダルシフトにはより積極的に組んでいくという。

「積み替えは、人手も時間もかかるため、輸送の効率を上げるために、積み替えなしでシームレスに輸送できることが重要です。国内物流の場合、トラックから鉄道や船、鉄道や船からトラックへの積み替えが多いため、いかにシームレスに輸送するかということも、モーダルシフトへの課題の一つとして取り組んでいます。例えば、コンテナをそのまま船に載せられるようなシャーシの導入も支援していく予定です」

見落としがちだが、運搬や積み替えは、本来のドライバー業務ではない。その負荷が自動化によって軽減できるのであれば効果は大きい。

荷役の費用はだれが払うのか

シームレスなコンビネーションによって輸送が効率化され、きちんと利益が出るのが健全な姿ではあるが、現状は立場上、荷主企業のほうが強く、コスト分担の健全化はまだ課題として残ったままだ。しかしこれについても、国として着手しているという。

「例えば運賃と商品の料金をきちんと分けて出して、別建てで契約していただくためのガイドラインを、この6月に出したところです(物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン)。このガイドラインに基づいて荷主企業と物流企業者に自主行動計画というのを策定してもらい、きちんと国に報告していただくような仕組みをお示ししています」

物流負担軽減に向けた荷主企業も含めた自主的な行動については、規制的な措置も含めて来年度の国会での法制化も視野に入れて検討中だ。規制などの縛りだけではなく、きちんと努力している企業が評価されるような仕組み作りも含めて検討している状況だという。

また2024年問題の解決を妨げているのが、物流業界のDXの遅れだ。そこについては、国交省と経産省の資源エネルギー庁が連携した「新技術を用いたサプライチェーン全体の輸送効率化推進事業」がある。これは発荷主事業者、物流事業者、着荷主事業者が連携で作る共通システムに対して支援する事業。例えば自動搬送機に紐付けたシステムなど紐付けの費用や機器の導入費用を一つずつ支援し、3者以上の連携をして中小企業も含めて強力にDXすることで、サプライチェーン全体の効率化を支援している。

さらに「物流革新に向けた政策パッケージ」では標準的な運賃について見直しを行い、トラックドライバーの価格転嫁に対処する制度を強化することも明記。不当な料金の据え置きに対しては改善を要請し、公表する制度が2024年(令和6年)3月までの時限措置が当分の間に延長された。引き続き、価格転嫁の問題に対しても取り組んでいく意向がある。

実際、適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者の監視を強化するため、2023年7月21日には「トラックGメン」を創設。体制を整備しつつ「トラックGメン」による調査結果を貨物自動車運送事業法に基づく荷主企業・元請事業者への「働きかけ」「要請」等に活用し、実効性を確保しはじめている。

消費者の行動変容にEC事業者の力も

難しいのは消費者のニーズの行動変容だが、国交省としても、物流負担の軽減やCO2 排出削減を考慮した配送方法の選択を消費者に促す仕組みを検討している。例えば配送時間にゆとりのある注文をするなど意識改革の取り組みを進めるために、行動変容を促すようなインセンティブを消費者に付与することも検討中だという。

「取り組んでいることは多く、まだ形には表れていないので、これから良い制度を作っていきたい。消費者と直接かかわっているEC 事業者にも、物流負担軽減に繋がるような消費者の意識変革・行動変容への取り組みを積極的に進めていただければと強く期待しています」。

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記者プロフィール

【物流2024年問題特集】

働き方改革関連法により、ドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題の総称である物流・運送業界の「2024年問題」。特にドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで、一人当たりの走行距離が短くなり、長距離でモノが運べなくなることが大きな懸念となっています。ECのミカタでは、この「2024年問題」を、物流業界に携わる企業様へのインタビューを中心に、特集していきます。

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