2024年問題は、事業者にとって3PLを見直すチャンスになる!~物流現場から見た「2024年問題」の現実【後編】
「物流2024年問題」に物流の現場ではどう対処していけばいいのか。「物流2024年問題」特集企画第3弾の後編。withRiver株式会社 代表取締役の白川久美氏と株式会社スクロール360 常務取締役の高山隆司氏に、実情とソリューションについて聞いた。
ドライバー不足問題の解決には、ドライバー以外の努力も必要不可欠
「『物流2024年問題』の大きな争点になっているドライバー不足問題については、配送業界もいろいろ努力をしていますが、荷主である事業者側、3PL(※)側も考えていかなければなりません。さらには受け取る消費者にもドライバー不足問題への理解が高まれば、再配達も減っていくでしょう」(株式会社スクロール360 高山隆司氏)
※3PL:サードパーティーロジスティクス(Third Party Logistics)。物流業務を専門的な物流のノウハウを持つ第三者企業に委託する業務形態
ドライバーの負担が減るシステム作りについては当然、スクロール360でも常に考えており、様々な施策を実行している。
「例えば荷主から荷物を引き受けるとき、通常は各ドライバーが一つひとつ荷物のサイズを計測してハンディターミナルに打ち込まなければならないのですが、当社のように出荷数が膨大だとその負荷も大きくなります。そこで梱包時に段ボール箱のサイズを示すバーコード読み込んでデータ化し、その情報データを配送キャリアに直接送るようにしています。これにより、ドライバーによる集荷現場でのハンディターミナルへの打ち込み作業は不要になり、ドライバーの計測負担がゼロになりました」(高山氏)
ドライバーの負担を減らす工夫をしていれば、ドライバーが長く働き続けられるようになるので、配送の質も維持されやすい。特に今後は荷主側もドライバーの負担をできるだけ減らす努力をしている3PLかどうか、確認したほうがいいと高山氏は話す。
「2024年問題と名付けられていますが、実際にはこの状況がこの先も延々と続いていくはずです。そこで事業者が物流経費を削るといった目先の方策に走ると、自分の首を締めることになりかねません。さらにこれからは、単に早く着くとか料金が安いといった物流ではなく、『購入時の消費者体験』を向上させるような物流にしていくことで評価が上がり、消費者に選ばれ続けていくと思います」(高山氏)
人口減少による労働力不足を、ロボティクスやAIで補っていく
一方、「物流2024年問題」に詳しい白川久美氏は、「2024年問題については、長距離輸送をリレー方式にするなどトラック・ドライバーの負担を減らしつつ輸送を確保する方法がいろいろと提案されています」と話す。
白川氏は複数外資系メーカー勤務後、2003年、アマゾンジャパン合同会社の日本事業開始直後に日本のアマゾン初の女性シニアマネージャーとして採用された。その後、楽天、アスクル、ローソンなどで物流センターや新規サービ スの立ち上げを経験。2017年に物流・越境 ビジネスのコンサルティング会社「withRiver 株式会社」を設立したという経歴を持つ。
そんな白川氏は「ただ現実には、トラックはあっても引き継げる後続のドライバーの数が足りないなどの課題もあり、かなり深刻な状態になってきているというのが実感です。今後は行政指導を守らないと会社名を発表する、という話も出ていますので、上場企業や大手は法律を無視できないでしょう。一方で、余裕のない中小・零細企業は、仮に処罰されるとわかっていても、残業をさせてでも目の前の荷物を運ばなければならないという状況に陥ることは、想像に難くありません」と、現状の厳しさを指摘する。
結局、自社のサービスを維持するには、ある程度物流拠点を増やして、運送する距離を短くし、ドライバーの稼働時間減らしてくしかない。
「これまではEC業者もBCP(Business Continuity Planning:災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画)の観点から東西に2拠点置くといった対策を考えていたと思いますがが、そういった災害系の話だけではなく、労働力不足もビジネスが継続できないという意味でBCPなので、拠点を増やす対応も考えていかないといけない時期にきていると思います」(白川氏)
ただそのためには、物流コストや保管量が膨れ上がってしまうというリスクが付いてくる。リスクを避け、サプライチェーンを適正に維持するためには、AIやシステムを活用する必要があると白川氏は言う。
「アマゾンでは黎明期からこうした課題に取り組んでおり、素晴らしいアルゴリズムを持っているため、今やバイヤーがいなくても自動発注して在庫をどこにいくつ入れるかといった指示まで出せるのですが、今後は同様のことを、小さいEC事業者もしなければならなくなります」(白川氏)
潜在的な労働人口を掘り起こすためのシステム作りも必要
土日の発送にも対応する3PLの場合、例えば土日の人件費を20%増しにするなどしなければ、人が集まらなくなる。しかし今、ECがこれだけ伸びていて数が増え、価格競争が熾烈になっている状況を考えると、ぎりぎりのコストで成立している事業者が人件費をアップできるかはあやしいだろう。とはいえ国土交通省も、日本の総人口は、2050年に約3,300万人(約25.5%)減少すると発表しており、ドライバーという職業への就労希望者の絶対数が減るのは必然であり、作業者の稼働時間も減る一方だ。
よって3PLの中には、「働きたいけど(様々なハードルがあって)働いてない」という層に対し、「短時間でも、いつでも働ける」という状況を作り、多くの作業者を雇っている企業も出てきている。ただ短時間・単発労働の場合、作業品質が安定しないため、ある程度は機械の導入で安定化を図り、作業者には人の手でしかできない作業もしくは単純作業を任せるなど、作業の細分化による品質担保を確保する必要が出てきている。
ITが進化すれば、人がビジュアルチェックしていたものも、機械による自動画像処理でチェックできるようになり、複雑だった作業の単純化も可能になる。
「これまで培ってきたロボティクスの進化が、2024年問題で生きてくるのでは」(白川氏)
2024年問題は、事業者にとって3PLを見直すチャンスになる
今後は3PLも、「もう人が集まらない」前提を見越して積極的先行投資によりロボティクスを導入していく企業と、人海戦術でひたすら頑張る企業に二極化するのでは、と白川氏は見ている。倉庫マネジメントシステムで複数拠点を統合的に管理し、最適な倉庫から出荷することができる企業が、今後、有利になるのは明らかだろう。
では荷主(EC事業者)はどこでそれを見分けたらいいのか。これに関しては、委託している物流企業や3PL企業に、現状を細かく聞いてみるといいそうだ。
白川氏によると3PLと事業者が生産性を共有できているとことは現実的に非常に少なく、事業者はほぼ丸投げ状態。月末に請求書を上げて締めて、やっと売り上げに対する物流費が把握できるということが多いとのこと。
「問い合わせたらすぐにデータ分析ができるかどうかは一つの指標ですね。例えば物流に関して、1個当たりの物流にいくらかかっているのかという質問に、瞬時に応えられるかどうかでも、しっかりしたシステムを持っているかどうかはすぐにわかります」と白川氏。
「事業者としてはしっかりしたシステムを持ち、日々の生産性をコストに換算できて、それをお互いに共有し、一緒に伸びていこうと考えてくださる3PLと組んでいかないと、これからは厳しいのではないでしょうか。その意味で2024年問題は、3PLの選定や、自社のシステムを見直す良い機会でもあるのでは」(白川氏)。
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