DHC会長兼CEO髙谷成夫氏インタビュー「成熟市場で事業を『つないでいく』ために必要なもの」とは? 1丁目1番地、本当にやらなければいけないこと

ECのミカタ編集部

株式会社ディーエイチシー(以下「DHC」)代表取締役会長兼CEOの髙谷成夫氏に、MIKATA株式会社代表の小林亮介がインタビューするシリーズ。第2回では「ECで成功するための2つのポイント」から、今後目指していく「“ウェルビーイング(Well-being:心身ともに健康で、かつ社会的にも満たされた状態)”な世界観」まで、多岐にわたる話を聞いた。最終回では、レッドオーシャンとなったEC/通販ビジネス市場で、持続可能なビジネスを展開していくために必要なことについて聞いた。

「健康に悪いから」を基準に制限して生活することは本当に幸せか

小林亮介(以下、小林) 前回は “ウェルビーイング”な世界観を実現していくためにできることを、提供していく会社を目指しているとお聞きしました。どのような形での提供を考えていらっしゃいますか?

髙谷成夫代表取締役会長(以下、髙谷) 実は僕は非常に怠惰な人間なので(笑)、ストイックに努力するということが苦手なんです。もちろん幸せは人それぞれだから、ストイックに追求していって何かを実現するものでもいいのですが、そうではない、もっと、僕のような怠惰な人間に寄り添った形のものも、あっていいのではないかと思っているんです。

例えば健康に関してストイックに追求しないタイプの──怠惰な生活を好む人は、夜中であってもポテトチップスを食べたり、コーラを飲んだりしたいわけです。でもそれを「健康に悪いから」と諦めることは、本当に幸せな生活といえるでしょうか。将来の健康よりも、食べたい時にポテトチップスを食べることを選ぶ人も多いと思うのです。

だから例えば、どうしてもコーラを飲みたいという人の要望に応える“ゼロコーラ”が出てきたように、罪悪感を抱かずに済む免罪符的な商品を提供することも、一つのウェルビーイングの形かもしれないと考えています。最近コンビニでよく見かける“完全栄養食”系ジャンルも、ジャンクなものを食べる免罪符のような存在になっていて、そこにビジネスチャンスがあるわけです。

だからウェルビーイングという切り口から健康を見ると、これまでのストイックな健康志向とは違う、別の健康志向が見えてくるように思います。一人ひとりの多様な幸せの形へ寄り添えること、それが本当にやらなければいけないことだと思っています。

お客様にウェルビーイングのサービスを提供するために必要なこと

小林 ウェルビーイングな世界の実現のために、具体的に始められていることはありますか。

髙谷 まず自分たちがウェルビーイングな人生を歩んでいないと、本当の意味でのウェルビーイングのサービスを提供することはできませんよね。事業として提供できるものは、社員一人ひとりの人生と絶対に切り離すことはできないと思っていますので、「今後私たちはウェルビーイングの世界の実現を目指していきます」ということとセットで、「会社としてもウェルビーイング経営を実践していきます」ということを社内に向けて発信しています。

また多様な幸せを実現できる多様な働き方のベースにあるのは、やはり自律的な仕事の仕方です。DHCは長くトップダウン型の企業として、上からの指示をいかに効率よく達成するかということが社員に求められていました。ただ本来、働くということはとても楽しいことのはずです。「ワークとライフ」を切り離すのではなく、「ライフ」の中の大切なものとして「ワーク」を取り込んでいけるような、仕事を楽しむためには一人ひとりが自律的に意欲を持って仕事ができる環境が必要です。ですから社内の仕組みや評価システムを新たに作り、今年に入ってから新しい人事制度を導入して、これをどんどん進化させていくためのスタートを切ったというような状態です。

全然“プロ経営者”じゃないので、「思い」がないとできない

全然“プロ経営者”じゃないので、「思い」がないとできない

小林 今後日本においては、人口が減少して、マーケットがシュリンクし続ける中で、ビューティーケアやヘルスケアといった成熟市場で戦うのはますます難しくなっていくと思いますが、どのように戦っていくべきでしょう。

髙谷 市場の縮小は間違いなく起きてきています。一方で、日本社会においては、人々が求めるものが変わっていく感じがすでにありますね。それも、世界の中でもかなり先進的な形で。ECでいえば、非常にテクニカルな形で消費者に刺激を与えてレスポンスを取るということも行われていますが、でもベースではその商品やサービスを提供している企業の社会的な在り方が問われていると思います。事業として長期的に利益をあげようとすればするほど、社会的な貢献ができていないと結局は実現できないと思うことが多々あります。

各企業の本質があまり消費者に見えていなかった時代には、そうしたことを無視してもビジネスとして成立していたといえます。でも今の時代のビジネスは、すべてが見えるガラス張りの状態であり、消費者が企業の姿勢を厳しくチェックしています。

誤解のないように伝えておきたいのは、DHCは社会貢献事業をしているわけではありません。あくまでも長期的に利益をあげ続け、事業を成長させることが目的であり、それこそが僕の最大のミッションです。そのミッションを実現するためには、だからこそ、会社としての在り方を正し、誠実に伝え続けなければ、長期的に成長させることはできないということなのです。

小林 社会貢献は素晴らしいことですが、持続可能な企業だからこそ利益を出せるビジネスを行う必要があるでしょう。結果的に、社会に貢献できる行動を行っていない企業は、淘汰されていくという……。こうした厳しい時代、厳しい状況だからこそ、髙谷社長の経営に期待が集まっています。

髙谷 でも、僕は全然“プロ経営者”じゃないので、「思い」がないとできないんです。だから「この会社に行って、業績を立て直してください」と言われても、それが人生をかけるに値すると思えないとできない。そういう意味では、「なぜここにいるのですか」とよく聞かれるのですが、もしかしたら自分がやってきたことと、自分が考えてきたことが、ここで同じ志を持った人たちとともに実現できるかもしれない、自分が見たかった景色が見られるかもしれない、と思っているからです。だから、こういうチャンスを与えられた僕は幸せな男だと思いますよ。

第1回「DHC髙谷成夫氏インタビュー「今必要な変革」とは~ECのミカタ 小林亮介が聞く~」を読む
第2回「DHC髙谷成夫氏インタビュー『自分たちで作ったものをお客様に届ける』重要性! ECで成功するための『2つのポイント』とは」を読む


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