すべての人に、快適なお買い物体験を 楽天グループが目指す安心・安全なショッピング環境とは
EC黎明期から「安心・安全なショッピング環境」の構築を目指し、長年にわたり様々な取り組みを推進してきた楽天グループ株式会社。国内最大規模のインターネット・ショッピングモール「楽天市場」における取引の安全性を担保するため、同社は何に取り組み、どのような成果を上げてきたのか。コマース品質管理部を統括する半井大輔氏に、その基本方針や具体的な施策、外部連携の取り組み、安心・安全の評価基準などについて話を聞いた。
“ネガティブ”な体験が起こらないための仕組み
――ECに求められる安心・安全なショッピング環境とは、どのようなものなのでしょうか。
「楽天市場」に限らず、インターネットショッピングにおいて消費者が求めているのは『良い購買体験』です。具体的には「欲しいものが見つかる」「商品が探しやすい」「サポートが充実している」などの“ポジティブ”な体験です。逆に「商品説明が不適切」「写真と現物にギャップがある」「店舗対応が不親切」など“ネガティブ”な体験は『悪い購買体験』として記憶に残ります。
安心・安全なショッピング環境を実現するためには、後者の『悪い購買体験』を可能な限り減らしていくことが大切です。インターネット通販を社会インフラとして捉えた場合、利用者の満足度を高めることはもちろん重要ですが、中長期的にはネガティブな要素をいかに取り除いていくかが大切になってきます。
――安心・安全なショッピング環境を担保するための、御社の基本方針について教えてください。
当社では創業以来、利用者の不安の解消や安心感の醸成、より高品質なEC体験を提供するため、継続的にユーザー体験の向上を目指した取り組みを進めて参りました。具体的にはクレジットカード番号を店舗に対し非開示に(2005年)、品質向上委員会の発足(2014年)、不適切な転売対策のためのメーカーとの提携強化(2021年)などの取り組みです。
そして、これらを推し進めるために当社が重視しているのが【事業者/出品者】【商品/サービス】【販売行為/店舗運営】【ルール】の4つです。「楽天市場」では、この重要な4要素について不断の見直しを図りながら、安心・安全なショッピング環境の実現を目指しています。
事業者とユーザーが安心して取引できるように
――4つの要素について、まずは【事業者/出品者】に向けた取り組みからご紹介いただけますか。
「楽天市場」では安心・安全な取引環境の構築を目的に、販売事業者管理を厳格に行っています。例えば出店審査では、書類審査だけではなく、当社のデータベースやカード決済会社の審査、銀行口座開設状況などを加味して営業実態を確認しています。
出店後も途上審査や情報変更審査を実施し、運営実態を定期的にモニタリングします。トラブルを回避するため、ショップ登録情報(電話番号、所在地等)の変更は楽天への届け出許可制としており、登録と異なる情報を検知したり、疑義が生じたりした場合は、事実を確認したうえで情報の修正を求めるなど必要な措置を講じています。
――【商品/サービス】についてはいかがでしょう。
法令で販売・所持が禁止されているものは当然ですが、公序良俗・モラルに反するものや危険なものなどは楽天の独自基準としても販売を禁じています。ユーザー保護のため一部のブランド品や健康食品、検査キットなどを販売する場合は楽天独自の事前審査が必要です。
例えば中古品を扱う場合は古物商の免許が必要ですが、当社では業歴や真贋鑑定マニュアルなども確認させていただきます。また、法規制前であっても人体に悪影響を及ぼしかねない商材は禁止商材として扱い、モニタリングや注意喚起を行います。
――【販売行為/店舗運営】については、どのような取り組みをされていますか。
「商品/サービス」と同様、禁止行為を定めています。景表法や薬機法違反、不正・不適切レビューがあるかないかはAIを活用してモニタリングし、トラブルの抑止・最小化に努めています。すべての店舗様がルールを遵守し、倫理観ある運営ができるようサポートしています。
一方、母の日やクリスマスなどのイベント時には、遅配が生じないよう取扱店舗へ事前に注意喚起を行います。また、災害発生時は必要に応じてユーザー対応代行など営業再開までの支援を行い、安心・安全に運営できる環境整備に注力します。
――時代とともに柔軟な変化が求められる【ルール】についてはどうですか。
出店規約をもとに、各種規約・ガイドラインを制定しています。近年はサブスクリプション型の商品が増え、トラブルになるケースが見られたので、商品ページ上にユーザーに分かりやすい必須記載事項を定めるなどして対策を講じています。また、行政の担当者や専門家を招き、最近の景表法違反事例や薬機法にかかる販売・広告規制などについて、店舗様向けの勉強会を定期的に開催しています。
外部の行政機関・検査機関・権利者などとも連携
――外部機関と連携することで、より強固に安心・安全なショッピング環境の構築を推進されていると伺いました。
「楽天市場」では2012年からブランド権利者様との提携を進め、模倣品の取り締まりを強化してきました。現在1750以上のブランドと提携し、権利侵害疑義情報の共有や通報・モニタリング、真贋鑑定などで連携を進めています。また、模倣品輸入に関しては水際対策として財務省関税局と連携し、双方で検知した疑義情報を共有しながら、海外からの模倣品流入防止に努めています。
――不適切な転売についての対策は、どのようにされているのですか。
転売行為自体は法律で禁止されているものではありませんが、「楽天市場」では独自ルールを設けています。1つ目に、自然災害などによる便乗値上げを禁じています。2つ目に、ユーザー保護の観点から、一度小売店で消費者向けに販売された食品の仕入れ販売行為の禁止、3つ目に、メーカーが転売禁止を公言している商品の転売行為も認めていません。不適切な転売商品の流通を防ぐことを目的にメーカーとの連携も強化しており、取り組みを開始した2021年時は12社であった提携企業数も、2024年2月末時点で50社まで増えています。
――近年、いわゆる「大麻グミ」のように非合法な成分を含む食品の摂取による健康被害が報告されていますが、こちらはどのような対策を取られていますか。
大麻由来製品に関しては、CBD含有商品を取り扱う際、違法成分であるTHCが含まれていない証明書を商品ページに記載する必要があります。しかし、違法成分を含む商品や、健康被害をもたらす新たな合成化合の成分を含む商品が流通するなどの社会問題もあり、国側も法改正を行うなど対応されているものの、規制が後追いになってしまうことも避けられない状況と認識しています。行政からの販売自粛要請や、新たな成分で健康被害が出たなどの報道があった場合は当社でも速やかに取扱店舗に対して販売自粛を要請しますが、類似成分を使った商品が次々と販売されるなど、まさに“イタチごっこ”の状態です。
そこで「楽天市場」では、適正な商品のみが流通する環境を提供するため、今年1月に政府公認の検査機関であるAnresco社と提携し、違法成分の含有の有無に関する検査体制を強化しました。当社としては引き続きモニタリング監視を継続しつつ、疑義商品に関してはAnrescoに検査を依頼し、その結果をもって然るべき対応をとらせていただきます。
各種取り組みでショップレビューの平均点が上昇
――消費者・メーカー双方が安心・安全に取引できるように、非常に長い時間をかけてさまざまな環境整備を進めてこられたと思いますが、その成果・効果を示す指標などはありますか。
我々は安心・安全の評価として、購入者がショップのサービスや対応について評価する「ショップレビュー」を重視しています。例えば2020年5月から今年3月までのレビューの平均点を見てみると、右肩上がりで評価が高まっています。これはユーザー満足度が高まっていることに他なりません。一方、同期間で投稿された低評価のレビュー数は着実に減少傾向にあり、様々な施策の効果が出ていると判断できます。
――「楽天市場」において安心・安全なショッピング環境をより強固にしていくため、今後はどのような施策をお考えですか。
当社ではEC黎明期である1990年代後半からユーザー体験の向上を目指し、さまざまな施策に取り組んできました。今日お話しさせていただいた取り組みに関しては引き続き対応を強化し、ネガティブな購買体験が起きない/起こりにくい仕組みづくりの強化を図ります。また、AIを積極的に活用し、不正・不適切な商品、表示、レビューのモニタリングを進めたり、外部機関・企業との連携を強化したりすることで、チェックの精度を高めてまいります。