味の素冷凍食品のEC、“フードマイノリティ向け”で高評価! 食物アレルギーや健康課題ある人にも

桑原 恵美子

冷凍餃子のシェア日本一を誇る味の素冷凍食品株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:寺本博之、以下、味の素冷凍食品)がECサイト「味の素冷凍食品 公式オンラインストア」をスタートしたのは2021年8月。人気の冷凍食品を多く生み出しているだけに、どんなラインアップになっているのか気になるところだがオンラインストアに並ぶ商品は、アレルギー配慮商品など、そのほとんどが“フードマイノリティ向け商品”だ。その理由について、味の素冷凍食品株式会社 国内統括事業部 製品戦略部 NCグループ 田中伸之介氏に聞いた。

きっかけは“アスリート向け冷凍餃子”

──貴社でECサイト「味の素冷凍食品 公式オンラインストア」を始めることになった背景などお聞かせください。

発端は、味の素グループで行っているトップアスリート強化支援事業「ビクトリープロジェクト」(※1)で培ったノウハウを生かした新ブランド「For ATHLETE」を、2021年8月にスタートさせたことです。

「For ATHLETE」ギョーザは、当時、トップアスリートの支援をしている中で、「ギョーザなら何個でも食べられる」との選手の発言に着目して開発しました。エネルギー源の糖質、筋肉の材料となるたんぱく質、コンディショニングに必要なビタミンが取れるギョーザは、運動選手の栄養強化に活用できる──という考えから、研究が重ねられました。

開発されたのは2商品で、1つは試合前のエネルギー摂取に適した「For ATHLETE」エナジーギョーザ®、もう1つは試合後のコンディション調整に適した「For ATHLETE」コンディショニングギョーザ®です。開発部門としても「非常にいいものができた」という手ごたえがあったため、「アスリートだけでなく、スポーツに取り組んでいる一般消費者の方にもお届けしたい」と考えました。その販路として立ち上げられたのが、ECショップなのです。

「For ATHLETE」エナジーギョーザ®。アスリートに欠かせないビタミンB1が0.22㎎(1個当たり)入り。皮には小麦粉より低脂質で炭水化物含有量の多い米粉を使用(写真提供/味の素冷凍食品)

──アスリート向けに開発された商品となると、スポーツに取り組む人からの信頼が厚そうです。とはいえ現在の貴社のECサイトでは、スポーツに取り組む人向けだけでなく、食物アレルギー配慮商品をはじめ、「フードマイノリティ」向けの商品が多くラインアップされています。

食物アレルギーに配慮した代表的な商品でいえば、2021年10月に発売した「米粉でつくったギョーザ」がそうですね。餃子の皮を米粉100%で作っているだけでなく、羽根の部分も100%米粉で作っていまして、これは味の素冷凍食品にしかできない技術だと思います。もともとは、食物アレルゲンに関するお問い合わせが年々増加する中で、人気の商品「やわらか若鶏のから揚げ ボリュームパック」の原材料の醤油を小麦不使用にすることで、小麦・卵・乳不使用にリニューアルしたところ、食物アレルギーをお持ちのお客様からたくさんの喜びのお声をいただきました。「やわらか若鶏のから揚げ ボリュームパック」は食物アレルギー配慮商品として販売していたわけではなかったので驚きました。

──それだけニーズが高かったと。

そうですね。このことで、切実な食物アレルギーのニーズを実感し、味の素冷凍食品の看板商品のギョーザでも、対応商品を開発することになったんです。それが米粉の皮を実現した「米粉でつくったギョーザ」です。

発売後はおかげさまで小麦アレルギーのご家族のいる方々から大変ご好評をいただいたのですが、同時に「米粉餃子はどこで買えるのか」というお問い合わせも非常に多くいただきました。こうした食物アレルギー配慮商品は、お求めの方にとっては切実ですが、ニーズが限定的なため、店頭に並びにくいという課題を持っていました。

弊社としてもWebサイトの商品ページに取り扱い店舗マップを設置するなど、お客様にご案内していましたが、それでも「近くに店舗がないので買えない」というお客様もいらっしゃいます。そこで、いつでもどこでも買えるような形を提供したいと考えたことも、ECショップで販売を開始した大きな理由のひとつです。

※1:2003年からスタートした「ビクトリープロジェクト®」は、日本代表選手およびその候補選手を対象とした、国際競技力向上およびメダル獲得数増の為の『食とアミノ酸』によるコンディショニングサポート活動(出典:味の素株式会社「アスリート支援活動ビクトリープロジェクト®」)

「米粉でつくったギョーザ」(税込490円)

ECにより、新たなニーズも見えてきた

──お客さまからの反応はいかがでしたか?

実際に購入されている方から、「いつでも買えるということは、アレルギーの子どもを持つ親としては、すごくありがたい」というお声を多くいただきまして、お問い合わせも予想以上にたくさんいただいています。やはりECだと、お客様のお声を直接聞けるということが大きいですね。こうした商品を切実に求められているお客様が多くいらっしゃるということを実感しています。また、シニア向け商品ですと意外な反応として、配送先をご自宅ではなく、離れて暮らすお父様やお母様宛にしているというケースも多々あり、そうしたニーズがあることに気づかされました。

──特によく売れている商品は何でしょうか?

今のところ一番は、「米粉でつくったギョーザ」ですね。小麦粉不使用という点もありますが、やはり弊社の主力商品である餃子の強さということがあると思います。お問い合わせも非常に多いです。

──フードマイノリティのお客様は、確実にリピーターになってくださるという利点はありますが、あまりにフードマイノリティに寄せてしまうと、売上的には厳しいですよね。そのあたり、貴社的にはどうお考えでしょう?

おっしゃる通り現状は食物アレルギー配慮商品や、噛む力が弱くなってきたシニアの方向けのやわらかい食品など、フードマイノリティ向けの商品をメインに扱っているのが現状です。売上が事業としてすごく大きく成り立っているかというとそうではありません。その状況を今後どうしていくかということは、今、社内で議論を進めている段階です。

60代以上の冷凍食品の購入金額が116%伸長 アスリート用餃子はシニアの購入も多い

──冷凍食品業界の近年の傾向として、もうあまりお料理に手をかけたくないシニア層の購買が増えていると聞いています。御社のECショップではいかがでしょうか?

確かに冷凍食品業界全体で60代以上のシニア層の方の購入費はどんどん増えています。例えば2022年度の4月から10月と、2023年4月から10月で60代以上の冷凍食品の購入金額が116%伸長しているという調査も出ていますし、購入金額の構成比も39%を占め、世代別で見ると最大です。ただこれは店頭での購入データで、ECショップだとシニアの方にはデジタル面でのハードルが高いかもしれません。ECショップでのご購入では年齢のデータは特にとっていないのですが、インタビューなどでお話を伺うと、確かにシニアの方々にも非常に多くご利用いただいていると感じます。「For ATHLETE」ギョーザのような商品も、実はシニアの方の購入率がすごく高いのではないかと見ています。

──ECショップ運営で一番大事にされていることを教えてください。

味の素グループは、「おいしく食べて健康づくり」という創業者の志を受け継ぎ、日本人の栄養状態を改善したいという強い願いを持って、アミノサイエンス®により人・社会・地球のWell-beingへ貢献することを目指しています。そういった意味では、ターゲットは「健康課題をお持ちの方」を中心とした方々で、今後も、「栄養と健康」を訴求した商品をお届けしていきたいと考えています。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

桑原 恵美子 の執筆記事