今さら聞けないSHEIN、Temu事情(前編) 両社急拡大の理由とは

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

中国発のプラットフォーム「SHEIN」「Temu」の急拡大が、EC事業者にとって大きな脅威となっている。圧倒的な商品数と安さから利用者は増加の一途をたどるが、両社がこれほどまでに台頭している理由をご存じだろうか。ECデータの分析サービスを手がける株式会社Nintで経営戦略を担当し、中国のサービスに精通している堀井良威氏に最新事情を伺った。前編となる今回は、両社の共通点や個別の特徴、急拡大した理由を解説いただく。

SHEINとTemuの共通点は大きく3つ

──2022年には「SHEIN(シーイン)」、2023年には「Temu(テム)」が中国発のECとして日本に本格的に進出し、広告も含めかなりの影響力を持って浸透してきています。まずは改めて、両社の特徴を教えていただけますか。

前提として、SHEINとTemuの共通点を知る必要があります。その共通点は、大きく3つ。
①マーケットの仕組みが「マルチローカルコマース」型であること
②中国のマーケティングにフィットしたプラットフォームであること
③コロナ後に世界的にブレイクしたFtoC(Factory to Customer)であること

です。順に説明していきましょう。

① マーケットの仕組みが「マルチローカルコマース型」であること

Amazonはグローバルなマーケットプレイスですが、例えばAmazon Japan(amazon.co.jp)に出品したものが自動的にUSのAmazon(amazon.com)へ流れることはありません。つまり消費者と事業者が、国などを単位として垂直に閉じている状況です。
しかしSHEINやTemu、さらにいえばShopee(シンガポール発のEコマースプラットフォーム)、Lazada(アリババの東南アジアにおけるフラッグシップEC)まで含めると、 1カ国1モールに出店すれば、ほぼ自動的に全世界が販売対象になります。これは「マルチローカルコマース型(MULTI-LOCAL COMMERCE)」と私たちが呼ぶもので、このマルチローカルコマース型が、今のグローバルECのトレンドであり、SHEINとTemuはその代表格です。
よって中国の会社でありながら、中国人のみに向けてビジネスをしているわけではなく、全世界を対象としています。世界の中の1国だけに対して広報活動をする発想はなく、UIは世界共通。ローカライズはAI技術がカバーできるレベルで良い。昔ながらの現地化はせず、低価格を武器に世界へ進出している現状があります。

② 中国のマーケティングにフィットしたプラットフォームであること

2番目の共通点は、商品が中国製造であり、中国のマーケティングにフィットしたプラットフォームになっていることです。中国の今のマーケットは、ライブコマースでものを動かしていくことが多いといえます。Temu、SHEIN、そしてShopee、Lazadaもライブコマースを多用していて、プラットフォームしかり、マーケティングしかり、中国のやり方が世界で通用し始めているというのが現状です。

③ コロナ後に世界的にブレイクしたFtoCであること

SHEINとTemuが世界的にブレイクしたのはコロナ後です。中国の工場にとって、コロナ前は外国が大きな発注主でした。しかしコロナ禍で発注がストップしてしまい、工場がものを売ろうにも、販売方法や戦略がわかりません。そこへ救世主として現れたのが、SHEINとTemuです。

両社は去年まで「フルフィルメントモデル」と呼ばれる形態をとっていました。工場には商品を作ってもらうだけでよく、出品や広告など販売についてはSHEINやTemuが行う形式です。こうして、工場が消費者へダイレクトに商品を届けられるようになりました。つまりFtoC(Factory to Customer:工場と顧客を直接つなぐビジネスモデル)です。

ただ、コロナは1つの外部要因でしかありません。日本としても最近、中国から撤退して東南アジアへ工場を置くケースが多くありました。すると受注をもらえていた工場は、商品の卸先を新たに探すしかありません。日本ではTemuやSHEINに対して「黒船来航」と表現している向きもありますが、中国にいる私から見れば自然の流れではないかと思うこともあります。

Temuの特徴はターゲット、価格、団体割引

──コロナ後に突然世界を席巻したイメージがありましたが、背景を知ると納得ですね。では違いはいかがでしょうか。

そうですね。ここからは個別の特徴をお伝えしていきます。

まず、Temuの親会社はPDDホールディングスで、格安ECの「拼多多(Pinduoduo/ ピンドゥオドゥオ)」を運営しています。

10年ほど前、大手ECのAlibaba、ジンドン(京東)は沿岸部の若年層ホワイトカラーをターゲットにしていました。可処分所得が上がっている若年層に物を売り、GMV(流通取引総額)を最大化していく戦略です。そこでPDDは「地方内陸のミドル層」を狙い、価格に敏感な人たちに向けて圧倒的な低価格を武器に急拡大していきました。

どこかのマーケットで1位をとれば、そこから消費者層を拡大していけます。そこでPDDは次に、海外のZ世代をターゲットにしました。中国の地方内陸のミドル層と同様、価格に敏感な人たちです。こうしてターゲット層を拡げ、都市化していきました。今のTemuも同様で、アメリカからスタートし、「価格は正義」を貫いています。

Temuの特徴はもう一つあり、それは団体購入を促すことです。友人と複数個を注文すれば割引になるなどの手法を取り、拡大していきました。団体購入を促すと、広告費用の節約になります。広告を見て「購入しよう」と考えた人が、友人を巻き込んでくれるからです。現在、カテゴリによってはマーケットシェア3位、あるいは4位になるまで成長しています。

また、価格の決定権がTemuにあるのも特徴といえるでしょう。工場は納品して終わり、出品などの作業はTemuがやります。工場側からみれば手離れがよく広告費を節約できるというメリットがありますが、希望価格が通る保証はないというデメリットがあります。

──その商品が、どれほどの値段であれば世界で通用するかという見定めはしてくれるんですね。効率はいいですね。

SHEINの特徴は圧倒的アジャイル思考

SHEINとTemuとの一番明らかな違いは、Temuがカテゴリー豊富な一方、SHEINはファッションカテゴリに特化していることです。また、アジャイル的な発想から商品を高速で修正改善できる強みがあります。

例えば「今日は天気が曇りだからブルーがよく売れる」と判断し、工場に発注すると、すぐにブルーの服が出品されます。1日に100アイテムくらい生まれて、1週間売れなかった商品は出品を取り下げてしまう。家電など他のカテゴリーだったらそうはいかないでしょう。

また、SHEINには団体購入割引がなく、基本的にはその人にフィットするアパレル広告を配信するので、マーケティングの手法としてはそこにTemuとの違いがあります。

──両社の共通点や違いをわかりやすく解説いただき、ありがとうございます。世界同時発信なのでUIは1つで良い、ローカライズはAIレベルで良いといった両社の潔さ、ダイナミックな発想に、驚きを隠せません。

★後編では、SHEINやTemuに日本ブランドがどう対応していけば良いのか、世界的な消費トレンドの動きも含めて引き続き解説いただきます。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■奥山晶子
2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子 の執筆記事