SHEIN、Temuに日本のEC事業者はどう対応? 今さら聞けないSHEIN、Temu事情(後編)

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

SHEIN、Temuの急拡大がEC事業者にとって大きな脅威となっている。圧倒的な商品数と安さから、利用者は増加の一途をたどるが、SHEINやTemuは今後、日本のEC事業者において競合となり得るのだろうか。

ECデータの分析サービスを手がける株式会社Nintで経営戦略を担当し、中国のサービスに精通している堀井良威氏に最新事情を伺うシリーズ。後編となる今回は、両者に日本のECがどう対応すべきかについて解説いただく。

日本製イコール質が高いという論理は成り立たない!

──前編では、SHEINもTemuもFtoC(Factory to Customer)、つまり中国の工場から直接消費者に届けるモデルを採っていると教えていただきました。日本のEC事業者にとっては、これまで発注していた工場が自力で販売経路を獲得したということになり、価格面ではかないません。どう対応すれば良いのでしょうか。

SHEINやTemuの作り手はこれまで全て中国でしたが、最近では他国メーカーの参入も始まりつつあります。これが日本でも適用されれば参入の余地はありますが、「価格は正義」の中で、比較的価格の高い日本の商品が売れるかどうかは疑問です。商品は同じで価格が高い、当て馬のような存在になってしまう可能性は十分にあります。

かつて「メイドインジャパン」が付加価値として説得力を持った時代がありました。しかし現代では、日本製イコール質が高いという論理は成り立ちません。効果効能や安全性、デザイン、希少性など、何かしら高額な理由を説明しなければ消費者は納得しません。

まして中国は「国潮型消費」、つまり意識して自国の製品を買う人が多い時代です。中国は長く「国産」といえば安価な品を意味しました。しかし最近では、全く同じ商品が日本製と中国製で並んでいれば、ほぼ100%の人が中国製を選びます。そのくらい、商品開発力が向上しています。

アジアに進出すればいい?

──そうなると、中国以外を考えなければ……と思ってしまいそうです。

そうですね。東南アジアに進出しようという発想があるかもしれません。タイや台湾など親日国で勝負しようという人もいるでしょう。しかしSHEINやTemuはマルチローカルコマース。多国展開しており、東南アジアでも結局は中国企業と戦わなければなりません。越境型ECはいわばノービザです。どこへでも進出している中国の企業との争いは避けられないでしょう。

そこで、プラットフォームとして参入することが重要になってきます。「黒船」という例えを流用すれば、中国のECは自国で船を作り、自国の製品を載せて、ノービザで世界を席巻しようとしています。日本もその船に乗るしかない。マルチローカルコマース型の競争環境で戦わなければなりません。

今起きているのはK型消費

──この構造を理解しなければ、売りにするものを間違えたままになってしまいますね。

まずは知ることが重要です。消費行動のトレンドにしても、めまぐるしく傾向が変わってきていることを知ってほしいです。

2020年には、コロナ禍の自粛生活の反動から大型消費が期待された時期がありました。その後、生活必需品と高級品だけが売れるM型消費の時代があり、そこから理性的になりましょうと理性消費が生まれ、今はK型消費の時代。消費の二極化が起こって高いものと安いものが同じように売れ、高い商品は高いなりの説明を求められています。

※堀井良威氏作成の『中国EC市場の現状と大型商戦期「618」日本ブランドの位置付け』(2024.07.11「家電セミナー」)より(画像提供:株式会社Nint)

先ほど申し上げたように、メイドインジャパンではもう高価格の説明がつきません。それでもなお、例えば家電に限って見てみても、日本のブランドは全て高価格です。売れているブランドや商品はありますが、例えば任天堂やSONYのゲーム機のように、高いなりの理由があるものに限られます。

日本のEC事業者は、そもそもご自身のブランドや商品が高価であることを認識しなければなりませんし、高価であるならそれなりの理由を消費者に訴えなければなりません。

※堀井良威氏作成の『中国EC市場の現状と大型商戦期「618」日本ブランドの位置付け』(2024.07.11「家電セミナー」)より(画像提供:株式会社Nint)

マルチローカルコマースの船に、波に乗ろう

──自分たちの製品を知ること、あるいはグローバルでの立ち位置を知ることは、結局は国内での売上にも大きく関わりそうですね。

TemuやSHEINが証明したのは、価格が正義であること、高ければ高いなりの理由を説明できれば売れること、そしてUIは全世界で同じなので、文化の壁を越え、グローバルで通用するものがあるということです。

日本ブランドが低価格を武器にするのは難しいでしょう。それなら高価格である理由をしっかり説明し、高価格市場のマーケットで戦わなければなりません。そして、日本人向けの商品を世界に売り出すのではなく、アジア全体を見てマルチローカルコマース型を踏襲した事業展開を行うべきです。

今まで日本のEC事業者は、TmallやDouyinといった大手プラットフォームに参入するたびに、そこへ特化した展開を行ってきました。その戦略自体は間違っていなかったと思います。でも、3つプラットフォームがあったら、それらを運営するために3倍のコストが必要になる。事業部の縦割りをやめてもっとフラットに考え、アジアECという事業体の中でグローバル展開した方がいいでしょう。それができるのが、中国の船に乗るということです。

例えば現地法人や越境EC、多言語化サイトなど複数の事業部について、いったんフラットに考える。すると重複コストが必ず発生しているはずです。それを取り除いて価格を下げたり、マーケティング費用に回したり。オペレーションフィーの比率は、日本は高いはずです。再調整してみた方がいいでしょう。

──どんどん現状を変えていく会社でないと生き残れない。でも、その変化を面白がったほうがよいということですね。

この波に乗ろう、どこの国の船であろうとよいから乗ってみようと思う企業が、最終的には生き残るでしょうね。

──世界で今のような事実を全部受け入れられている国はまだないと思います。日本の企業が先鞭をつけてほしいですね。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■奥山晶子
2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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