ECモールとクラウドファンディングで事業領域を拡大! 独自の価値創出に挑む千葉銀行

企画・構成=藤井竜太朗、文=春奈

(左から)ちばぎん商店株式会社 地域商社事業部 部長 瀬戸幹生氏、同社 地域商社事業部 荻田周介氏

取引先の販路拡大や地域活性化を目的に、地方金融機関がECモールを開設する例が増えている。さまざまなECモールが乱立する中、地方金融機関の強みを生かしたEC事業のあり方とは?また、実際にECに参入してみてどのような手応えや課題を感じているのだろうか。

今回はクラウドファンディングサイトを起点にECサイト「C-VALUEショッピング」を創設した、ちばぎんグループのちばぎん商店株式会社 地域商社事業部 部長 瀬戸幹生氏と同部 荻田周介氏に話を聞いた。

クラウドファンディングからECモールへ

──ちばぎん商店では、2022年11月30日にECモール「C-VALUEショッピング」を開業されました。開設の経緯をお聞かせください。

ちばぎん商店株式会社 地域商社事業部 部長 瀬戸幹生氏(以下、瀬戸) 千葉銀行は以前から取引先の本業支援や地域活性化に取り組んでいましたが、商品開発やマーケティング支援など、さらに一歩踏み込んだ取り組みをするために「ちばぎん商店」を設立。まずは2021年10月にクラウドファンディングサイトを立ち上げました。数多くのECモールがある中で、銀行グループとしての勝ち筋を見つけるために、商品やサービスを企画・開発する機能を強めていこうと考えたからです。

C-VALUEクラウドファンディングのトップページ

それから約1年後、クラウドファンディング終了後も継続的な販売の場を提供するため、また、すでに知名度や商品力を持つ事業者様に参画していただくことを目指し、ECモールを開設しました。クラウドファンディングサイトはマーケティング面での制限が多いですが、さまざまな販促やマーケティング施策が打てるECサイトなら、銀行グループ全体での連携を強めていけるという思惑もありました。

──クラウドファンディングからのスタートだったのですね。特に印象に残っている企画はありますか?

瀬戸 コロナ禍で成田空港や周辺地域の元気がなくなっていた2022年2月に実施した「JALスペシャル周遊フライトとANA FLYING HONU機内カンファレンス&特別内覧会」です。空港周辺の事業者様が中心となって起ち上げた企画で、日本航空と全日本空輸の全面的な協力もあり販売開始後に即完売し、取扱高も地域へのインパクトも大きかったので、非常に思い出深いです。

JAL周遊フライト&ANA機内カンファレンス

マーケティングの難しさを痛感も、徐々に顧客像がクリアに

──ECモール開業後はどんな苦労があったのでしょうか。

瀬戸 業務フローの構築などいろいろな苦労がありましたが、一番はやはりマーケティングです。ECモールの運営を始めて、消費者のニーズをとらえてものを売ることの難しさと厳しさを痛感しました。グループ内にはマーケティング戦略を立案・実行できる人材も不足していたので、キャリア採用で外部のノウハウを吸収しながら高度化を図ってきました。

──ECモールで販売する商品はどのように選定しているのですか?

瀬戸 千葉県産の商品、千葉県に本社のある会社の商品など、千葉県にゆかりがあることが前提です。その上で、アンケートやリサーチを通じて顧客ニーズの解像度を高め、お客様に刺さる商材を集めることを意識しながら商材選定をしています。

ちばぎん商店株式会社 地域商社事業部 荻田周介氏(以下、荻田) ただ、地域を盛り上げるためのプラットフォームですので、必要以上に絞り込むことはしていません。千葉にゆかりのある商品は幅広く取り扱いつつ、消費者の関心の高い商品群は戦略的に厚めにしています。

「立ち上げから1年程が立った頃から顧客像が少しずつクリアになった」と荻田氏

──ECモール事業の手ごたえを感じるようになったのはいつ頃でしたか?

荻田 サイトとしてはまだまだ発展途上だと思っていますが、立ち上げから1年程が立った頃から顧客像が少しずつクリアになってきました。お客様の解像度が上がってくると、それに基づいた仮説を立て、仮説に沿った施策が打てるようになります。その結果、施策のヒット率が徐々に上がっていきました。

──ECサイトを運営していて良かったことをお聞かせください。

荻田 出店されている事業者様のビジネスの成長につながっていることが見えたとき、「思ったより売れました」「こんなにお客様に届くんですね」といった声をいただいたときは、シンプルに「良かったな」と思います。

エンドユーザーに関して言えば、1回きりではなく、母の日、父の日、土用の丑の日とリピートしてくださるお客様が増えていて、「C-VALUEショッピング」が少しずつお客様の生活に浸透している実感が得られているのがうれしいですね。

C-VALUEショッピングのトップページ

ECモールとクラウドファンディングの両立で広がる事業領域

──ECモールとクラウドファンディングの両方を運営していることで、地域活性化以外の副次的な効果はありましたか?

瀬戸 クラウドファンディングとECモールの両方を持っていることで、自治体との連携や事業者様へのコンサルティング、商品開発支援など、事業の幅が広がっています。

銀行グループ全体で言えば、取引先と一緒になってECビジネスに取り組むことで、従来の銀行員の目線とはまったく違った視点から取引先のビジネスを見ることになるので、顧客の本業理解やビジネスの深堀りにつながっています。

グループ内に販売やマーケティング、商品開発の機能があることは、銀行グループとしての新しい武器にもなっています。例えば、銀行が融資して設立された工場で製造した商品を「C-VALUEショッピング」で販売できるなど、金融の手前から、あるいは金融の先までお付き合いができるという強みが生まれました。

「お客様起点」と銀行のリソース活用で独自の価値創出へ

──ECモールを運営する中で一番大事にしていることを教えてください。

荻田 顧客理解を深め、お客様起点で商売をすることです。ECサイトを立ち上げるだけならわずか数時間でできてしまう時代、ECサイトが存続して、継続的にお客様のお役に立てるようにするためには、お客様起点が欠かせません。

「C-VALUEショッピング」を立ち上げた目的は地域活性化ですが、顧客ニーズを無視して私たちの目的を押し付けてもうまくいきません。ですので、お客様が誰で、どんな生活をしていて、何を望んでいるのかをしっかりとらえ、それを前提に地域活性化や取引先の本業支援につながる品揃えやプロモーション、サイト作りを行うことを大事にしています。「母の日のプレゼントを購入したい」といったお客様の目の前のニーズに応えた結果、一人ひとりの消費行動が地域活性化につながっているという形が本来的だと考えているので、そのバランスは常に意識していますね。

「オフラインとオンライン、金融と非金融の垣根を超えて独自の価値を創っていきたい」と瀬戸氏

──ECモール展開に関する今後の展望をお聞かせください。

瀬戸 エンドユーザーに喜んでいただくことと地域活性化のバランスを大切にしつつ、銀行グループとしての強みを生かしたECモール運営を行っていきたいです。グループとしても、当社のさまざまなサービスがお客様の生活に溶け込んでいくことを目指しているので、千葉銀行独自のポイントやアプリとの連携を強化するなど、県内の経済循環につながる施策に取り組んでいこうと考えています。いかにお客様のお役に立てるかを意識しながら、銀行グループのネットワークを生かしてオフラインの催事販売や流通につなぐなど、オフラインとオンライン、金融と非金融の垣根を超えて独自の価値を創っていきたいですね。

荻田 日本全国の地方銀行がさまざまな取り組みを行っています。地銀にはたくさんの強みや可能性があるので、それらを生かして、地方銀行がハブとなった形での地域活性化・地方創生のモデルケースになれるよう取り組んでいきたいです。


記者プロフィール

企画・構成=藤井竜太朗、文=春奈

■藤井竜太朗(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■春奈
和歌山県出身。上智大学外国語学部英語学科卒業後、大手百貨店、ネット広告系ベンチャーでの勤務を経て、フリーランスライター・広報として活動中。EC、マーケティング、HRといったビジネス領域のほか、旅行やライフハックなど幅広いトピックをカバーしている。趣味は旅行で渡航歴は60カ国以上。「旧市街」や「歴史地区」と呼ばれる古い街並みに目がない。趣味が高じて、総合旅行業務取扱管理者資格も取得。

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