アプリファースト時代の楽天市場、EC事業者が成長するための鍵とは【楽天グループ セミナーレポート】

楽天グループ株式会社 ECコンサルティング部 店舗開発課 アライアンスグループ 祁荅院 愛氏

2024年7月9日、ECのミカタは「ECのミカタカンファレンス」楽天市場編を開催した。基調講演に楽天グループ株式会社 ECコンサルティング部の祁荅院 愛(けどういん めぐみ)氏が登壇。楽天が掲げるミッションと、EC事業者の売上拡大に向けて行っている取り組みを解説した。レポートではその一部をお届けしよう。

見やすく買いやすい売場づくりが急務

楽天市場は1997年の創立以来、右肩上がりの成長を続けている。背景には絶え間ない売場の改革がある。楽天グループ株式会社(以下、楽天)の最新の調査では、楽天市場の流通総額におけるモバイル流通総額比率は8割(2024年3月時点)にのぼっており、楽天市場アプリで商品を探しやすく、買いやすい売場の構築が事業者にとって重要な課題になっている。では具体的にどのような施策が取られているのか、以下にまとめていこう。

売り場改革:アプリファーストでクリック率向上

「WEB経由での閲覧に比べて、モバイル経由のほうが閲覧ページ数が4倍になっている一方、1ページあたりの閲覧時間は短縮されています。ユーザーの動向に合わせて楽天市場はUXを改善し、回遊しやすいページ作りをしています」(祁荅院氏)

ユーザー目線では楽天市場のアプリが使いやすくなった。楽天市場外からのアクセスはディープリンク(※1)でアプリへ誘導し、アプリ内では、画像検索機能や、店舗の特徴をブログ感覚で知ることができるコンテンツページが実装された。また、SKUプロジェクトが完了したことで同商品を比較しやすくなり、ユーザーの商品クリック率は2倍以上(2024年7月時点)になったという。

店舗目線ではノーコードで操作できるCMSにコンテンツページやパーツの追加や改善が行われたことで、商品や店舗の魅力を伝えやすくなった。「購買率を5倍以上押し上げる効果も出ているクーポンは、1件当たり5,000点の商品に対応するようになり、セグメントや公開設定を絞って出稿できるようになりました」(祁荅院氏)

また、ユーザーにとっては配送も購入の選択を左右する要素だ。2020年からは共通の送料込みラインが設定され、わかりやすい料金体系が作られた。今年7月からは、ユーザーの様々なニーズにこたえる配送品質を満たす商品に対して「最強配送」ラベルを設定する「配送品質向上制度」がスタート。「楽天大学RUx業務効率化講座などを通してラベル取得をサポートすると同時に、商品表示順位を決める要素のひとつにも追加されています。」(祁荅院氏)
※1「ディープリンク」:Webサイトやモバイルアプリ内の特定のページやコンテンツに直接アクセスするためのリンク。Webサイトのトップページやホーム画面にリンクするのではなく、特定のコンテンツ(例えば、特定の製品ページや記事、特定のユーザープロフィールなど)に直接アクセスさせる効果が見込める

AI活用「AI-nization」:顧客体験向上、店舗はコア業務時間充実

楽天は「AI-nization」と銘打って、楽天市場での大規模言語モデル(Large Language Models、LLM)と生成AIを活用した様々な施策の運用を開始した。Rakuten Fashionで先行テストが行われていたセマンティックサーチは、ユーザーが文章で入力した検索ワードの文意を解釈して検索結果を返す。これまで文章で検索をかけても検索結果に出てこなかった商品が表示されるようになり、顧客体験が向上したという。

生成AIは商品データやページの作成をアシストする。簡単な情報の入力で説明文を出力し、店舗担当者が情報を入力する工数を削減する。商品画像をアップロードすれば背景画像も生成可能。「店舗さんがコア業務に時間を割けるようにしたい」と祁荅院氏。活用事例や機能の使い方は「楽天AI大学」で学ぶ機会を提供していくという。

Google連動型広告「RPP Expansion」:Google検索結果上部に商品情報表記可能な広告

5月にリリースされたRPP Expansion(検索連動型広告-エクスパンション)は、Googleの検索結果上部に広告を表示する、いわゆるリスティング広告機能。従来の楽天広告とは異なり、楽天ドメインにアクセスする前のユーザーに対して商品を訴求できる点が強みだ。

「RPP Expansionでは、店舗さんが設定した値を目安にしてクリック数などの設定指標を最大化するように配信が最適化されます。ユーザーが欲しいものと関連性の高い商品を掲載できるため、購買意欲の高いユーザーにリーチできます」(祁荅院氏)

これらコンテンツの大幅拡大に伴って、店舗が掲載できる画像や情報の上限が増量された。事業者にとってはRMS(Rakuten Merchant Server:店舗運営システム)が便利になった一方、使いこなす必要性も出てきた。

安心・安全な市場の創造:プラットフォームとして果たすべき責任

「ECはインフラとなりつつあります。そこで、お客様にネガティブな購入体験をさせないことも楽天市場に求められていると思っています」(祁荅院氏)

楽天は複数の外部団体と連携しながら、社会情勢に応じてルールの改善を繰り返しているという。楽天にはグローバルで18億のユーザー、国内に1億超の楽天会員がいる。2023年度の国内EC流通総額は6兆円以上。プラットフォームとして果たすべき責任は重い。

昨今はサブスクリプションサービスや役務が商品として販売されるようになり、既存のルールでユーザーの安心・安全を担保することが難しくなってきた。楽天は出品前の事前審査や記載事項のルール作りを行い、専門家や行政など、第三者からの説明を通して浸透に取り組んでいるという。

「健康と安全に直接関わる食品は、メーカーと協定を結び、正しく販売できる売場を作っています」(祁荅院氏)。ユーザーの不安を払拭する取り組みは楽天の仕組みだけではない。店舗もコンテンツページを活用してユーザーの親近感や安心感を喚起できる。

事業者をエンパワーメントするコミュニケーション

「楽天の根幹は“エンパワーメント”というミッションにあります」と祁荅院氏。

楽天がエンパワーメントを体現するための一つとして店舗さんとのコミュニケーションを重要視しており、店舗間および店舗とのコミュニケーションイベントを定期的に行ったりしているという。また楽天モバイルのSIMを店舗向けに配布し、店舗運営のコミュニケーションツールとして提供することで、社内の連携や店舗運営を円滑にできるよう促している。


「楽天市場には約57,000の店舗(2024年3月時点)さんが出店されています。店舗さんの規模は様々なため、社用携帯がなく、自分の電話で仕事をしている人にも活用していただきたいです」(祁荅院氏)

コミュニケーションに関する具体的な施策としては、楽天が主体となって開催する「楽天タウンミーティング」や「楽天市場サービス向上委員会」、店舗同士のコミュニティの場でもある「NATIONS」などがある。

楽天タウンミーティングは、47都道府県に楽天の役員が赴いて現場の声をヒアリングし、サービスの改善に役立てるイベント。楽天市場サービス向上委員会は、出店店舗による独立した任意団体「楽天市場出店者 友の会」との意見交換の場です。

NATIONSは店舗による店舗のための短期集中売上アッププログラムで、「リーダー店舗」が「売上を伸ばしたいと思っている店舗」にアドバイスやノウハウを伝え、月商目標達成に向けて成長の場を提供するサービスとなっている。

「NATIONSは大学のゼミのような雰囲気です。ECはパソコンと向き合う時間が長いので、会社の規模によっては一人で運営をしているなど孤独を感じるといった話もよくありますが、楽天のコミュニティに入ることで仲間を作れます。NATIONSのプログラムに参加することで、売上アップという目的達成だけでなく、店舗間のコミュニケーションで、ECを新たなステージに進められる可能性もあります」(祁荅院氏)

楽天管理ツール「RMS」には今回多くの機能が追加されて顧客接点を増やしやすくなっている。楽天の強みであるビッグデータを通じて顧客とコミュニケーションを取り、追加、更新された機能を使いこなせば、顧客と売上はおのずとついてくるだろう。