冷食1位のニチレイフーズがネット通販を始めた理由とは? ニチレイフーズダイレクトの取り組み(前編)

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

株式会社ニチレイフーズ ウエルライフ事業部 eコマース部 eコマース営業グループ グループリーダー 渡辺千春氏※取材当時(撮影:三浦晃一)

国内冷凍食品メーカー売上高ランキング1位(※1)の株式会社ニチレイフーズ(本社:東京都中央区、代表取締役社長:竹永雅彦)。その中で、栄養コントロールされた冷凍弁当などを通信販売するニチレイフーズダイレクトのEコマース(EC)を活用したD2C戦略に注目が集まっている。自社ECはもちろんのこと、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングといったモールでの展開を含め、どのように競合他社と差別化し、拡販戦略を展開しているのか。株式会社ニチレイフーズ ウエルライフ事業部 eコマース部 eコマース営業グループ グループリーダー 渡辺千春氏へのインタビューを前後編でお届けする前編は、ECを開始した背景、EC運営のポイントについて伺った。
※1 出所:(株)食品産業新聞社「冷食日報」2024年8月22日掲載記事(グループ合算)

ネット通販を始めた2大理由は「健康」と「時代」

──改めて御社がネット通販を始めた理由をお聞かせいただけますか。どのような経緯があったのでしょうか。

1990年前後に健康関連事業を会社として手掛けることになったことが起点にあるといえます。当初は糖尿病の方に向けた「糖尿病食」など、ヘルスケア食品の製造販売から開始しました。現在、ニチレイフーズダイレクトでは冷凍食品しか取り扱っていませんが、スタートは常温商品だったんです。

──ニチレイさんといえば、冷凍食品1位のイメージが強いので、意外ですね! どのような商品だったのでしょう。

レトルトの主菜・副菜・汁物が1箱にまとまっていて、1箱320kcalという商品でした。この320kcalという数値は、糖尿病の患者さんの食事を組み立てるのに使用されている「食品交換表」に基づいています。自社通販を開始したのは1999年頃からですが、冷凍食品業界で最初に通販を手掛けたのはおそらく弊社ではないかと思います(※始まりは電話受注のみ)。

──冷凍食品もそうですが、食品=スーパーなど小売店で買う人が多く、2000年前後はネット通販……Eコマース自体が黎明期ですから、かなり先行されていたのではないかと思います。

はい。そんな環境下で、通販を始めた理由として、大きく2つ挙げられます。

1つは「健康」です。弊社は食品メーカーとして、栄養コントロール技術や調理技術を培ってきましが、冷凍食品が主軸の会社ですので、現代人が抱える健康の問題を改善するのに、弊社の持つ冷凍食品技術が役立つのでは、と考えたことがひとつ。

もう1つが「時代」です。1990年代といえば、団塊世代の方々が50代に入った時期。私自身、当時の状況は伝え聞く状態ですが、最も人口が多いボリュームゾーンの世代が人生の折り返し地点を通過したことで、健康に大きな関心を持つようになり、健康と切り離せない「食」を通して、社会課題の解決につなげたいと考えたことが大きかったのではないかと考えています。

こうして振り返ってみると、目の付け所が良く、着眼したのも早かったのですが、当初は新規事業ということで、手探りで対応を進めていたようです。

2007年にはニチレイフーズとして『糖尿病食 240kcalシリーズ』を発売。当時のプレスリリースによれば、「1989年に日本初のレトルトタイプとして糖尿病食を発売、以来メニュー数を増やし、和風・洋風・中華風メニュー合計で21セットを販売」してきたとあり、早くから取り組んできたからこその製品開発があったことがうかがえる(画像提供:ニチレイフーズ)

定期購入制度だけでなく、使いやすさを重視した販売

──現在はECでのD2C戦略を成功させていらっしゃるかと思いますが、扱う製品は変わってきているのですよね。

私自身が現在のセクションの担当になったのが3年前なのですが、通販がスタートしたきっかけである糖尿病食シリーズは、今は扱っていません。

お客様にはカタログを年2回お送りしているのですが、カタログでは糖質・脂質・塩分の「栄養成分別セット」をご用意し、組み合わせをご提案しています。まずは「こういったセットがあります」というご紹介をすることで、お客様に満足していただけますし、コールセンターのコミュニケーターも提案しやすいというメリットがあります。またお客様からのご質問やご栄養相談があった場合、コールセンターのコミュニケーターや社内の管理栄養士が最適な商品をご紹介できる体制になっております。

現在は特に、「きくばりごぜん®」という2004年に発売した冷凍惣菜セットを主力商品としてより拡販していく方針となっています。

また、こういった商品としては珍しく、販売方法を定期購入のサブスクだけにしていないのも特色かもしれません。

──定期以外でも購入可能というのは、ユーザーからするとありがたいものの、収益面からすると必ずしもメリットばかりではないですよね。

確かに、サブスクにすると事業の安定性が高く、収益の見込みも立てやすいのですが、お客様からすると定期購入は少し、入口としてハードルが高いように思うんです。またここ10年ほどの傾向として増えているのは、離れて暮らすご高齢のご両親や子供に、食事の仕送りのような形でお使いいただくケースです。特にコロナ禍においては、ご両親がコロナウイルス感染症に罹患された時や、ご本人が罹患されて会いに行けない時に利用されるケースがより加速したのではないでしょうか。そういう場合は定期購入よりも、都度買いのほうが使いやすいです。弊社としては定期購入と都度買いの収益性を見ながら、お客様のニーズや買いやすさを両立させていきたいと考えています。

──確かに、離れて暮らすご家族に送る需要は今後さらに増えそうです。

ご両親が健康上の理由で自由に買い物に出られないというケースは今に始まったことではありませんが、年々増えています。日本の人口は全体でいえば減少しつつも高齢層は増加していますので、以前のような糖尿病セットよりも、「きくばりごぜん®」のようなパーソナルユースを主眼においたような、個々人の都合に合わせて好きな時に召し上がれて、かつ長く保管できる冷凍商材は一層必要となると思っています。

「きくばりごぜん 鶏もも肉の治部煮風」(左は盛り付け例/画像提供:ニチレイフーズ)

毎日食べ続けてもらえるように、おいしさも見た目もこだわる

――原材料費が高騰していますが、価格転嫁はどのようにされていますか?

実は弊社の商品も2年前、物価が急激に高騰した際に1段階、価格を上げさせていただいたのですが、ご存じのように食材費はさらに上がってきていますので、現在の価格でのご提供が非常に厳しくなっているのは事実です。今後に向けては価格の見直しが必要な場面も出てくると思いますが、とはいえ毎日続けていただくためにはお求めやすい価格の維持も重要ですので、今は最低限、弊社の事業が継続できるぐらいの価格で続けさせていただいています。

ただやはり、材料費以外の付帯費用もどんどん上がってきていますので、配送料に関しては一部、お客様には大変申し訳ないのですが、少しだけご負担をお願いするという方針に変更いたしました。

――価格を抑えるために、生産の効率化のようなことは考えていらっしゃいますか?

もちろん、生産上の効率化を図っているところもあるのですが、弊社の商品は基本的に手作業で作っています。私たちの商品は、毎日召し上がっている方もいらっしゃるのですが、やはりおいしくないと毎日は続きません。ですから続けていただくためにも、そもそもの食事としてのおいしさや、おいしそうな見た目も非常に大事だと考えています。

――健康が維持できればいいというわけではなく、維持するためのおいしさを担保しなければならないのですね。後編ではD2Cを進めるうえでの競合との差別化や、物流面での取り組みについてお聞きします。

(撮影:三浦晃一)


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■桑原恵美子
フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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