業界の最前線で活躍するCEOや重役が考える「最適な顧客体験」とは…W2「Unified Shift 2024」レポート

ECのミカタ編集部

多様化した消費者の価値観に対応するための「ユニファイドコマース」を追求しているW2株式会社(以下:W2)は2024年9月26日、「5年後のリテールを考える~Unified Shift 2024」と題したカンファレンスを開講。業界の最前線で活躍するトップ企業のCEOや重役陣などのキーパーソンが登壇した。その中から、株式会社電通デジタルの北嶋康平氏の基調講演、株式会社丸善ジュンク堂書店の工藤淳也氏と事業クリエイター真⽥幹⼰氏のパネルディスカッションによる特別講演を紹介する。

自社ビジネスとユニファイドコマースを親和させるために必要なことは

最初の基調講演に登壇したのは、株式会社電通デジタル(以下「電通デジタル」)TX領域 TX1部門 CXプラットフォームデザイン事業部 BAグループの北嶋康平氏。「全てのビジネスの根幹には顧客がいる。顧客の体験をどう作り売り上げにどうつなげるかがユニファイドコマースだと捉えている」と語る一方、「コロナの影響でEコマースは世界的に急成長を遂げたが、多様な売り方や、それを支える多様なツールが提供されることにより、顧客とのエンゲージメントの喪失が起こっている」と指摘。

顧客とのデジタルコミュニケーションを起点とした戦略策定を得意分野とする電通デジタルの北嶋康平氏

北嶋氏は、コロナによる実店舗の売上減少からECモールに進出後、広告投資やモール側への支払いコストが大きな負担となり、自社ECのリニューアルおよびデータ分析による改善を繰り返してモールからの脱却に成功した「小島屋」の例を紹介。「重要なのは、販売の正解ではなく、その企業にとっての正解(最適な販売の形)を探すことだ」と語る。そのためには、「誰かにとって◎◎があれば便利になる、豊かになる」という顧客起点で始まっているビジネスの原点に立ち返ることが必要だと語った。

だがその顧客とは、さまざまな環境や情報などの要因で変化する「動態」であって、その変化も含めて購買の有無に影響を与える。さらに、本人の購入や、その商品・サービスが世の中に普及したことなども各要因に影響を与え、また顧客が変化する要因となる。そうした変化に対して、どうアプローチすればいいのか。

北嶋氏は「『データを見て顧客の行動を決める』という企業の合理が、必ずしも『顧客の合理(本当の心理)』と一致するとは限らない。できるだけ幅広いデータを獲得し、一元化して基盤を作ることで、顧客の変化に応じた対応ができる」と語り、その実例をいくつか挙げた。

顧客を動態として捉えて成功した事例として、空いている部屋や家で民泊できるサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」を紹介

そして「既存の説に惑わされず、データを正しく分析して顧客の動態を考察し続けるべき。皆さんの資産である商品やサービスにおいて、必ずしもカテゴライズされた市場だけでなく、顧客が隠されている市場があることに気づいて欲しい」と基調講演を締めくくった。

電通デジタルでは、顧客を動態としてとらえ、新しい体験となり得るベネフィットを与えることが“顧客体験”であり、それを実現するための一つの手法がユニファイドコマースだと考えているという

書店本来の価値に立ち返った体験施策で集客に成功

北嶋氏の提言を具現化したかのような取り組みの数々が紹介されたのが、株式会社丸善ジュンク堂書店 執行役員の工藤淳也氏と事業クリエイター 真⽥幹⼰氏のパネルディスカッション。工藤氏によると本はどこで買っても商品としては同じという大前提があるため、Amazonの影響を最も早く受けたという。そこで、どうすれば書店に足を運んで買ってもらえるかと書店の体験価値を見つめ直した時に、「書店を訪れる顧客は書籍という物質というよりも、その中身の情報を欲しているため、情報そのものを販売する取り組みがあってもいいのでは」と考えた。

(左から)事業クリエイター 真⽥幹⼰氏、株式会社丸善ジュンク堂書店執行役員の工藤淳也氏

そこで2022年、恋愛・婚活マッチングアプリ「with」とタッグを組み、出会いと作ると同時に恋愛本をリコメンドする「“価値観”で出会える!良縁書店」を期間限定でオープン。大盛況となり、推薦した恋愛本も大いに売れたという。また同年、競技麻雀のチーム対抗戦のナショナルプロリーグ「Mリーグ」とスポンサー契約を結び、オフィシャルショップ「M.LEAGUE OFFICIAL SHOP 東京」をオープンした。

麻雀のプロリーグの公式ショップ「M.LEAGUE OFFICIAL SHOP 東京」提案時は社内で反対の声も多かったが、オープン前に開催したポップアップショップに並ぶ列の長さを見て、工藤氏は成功を確信したという

2023年には若い世代に人気の詩人・最果タヒ氏を店長に迎え 「最果タヒ書店」を開催した。このイベントも大盛況で、最果氏ばかりでなく同氏が推薦した本も売れ、イベント用に開発したオリジナル商品のいくつかは、現在でも売れ続けているという。こうした体験施策でのWEBやコマースの連動の立ち位置について質問されると、工藤氏は以下のように答えた。

「ユニファイドという言葉とも関連するが、こういう時代だからこそ、リアルとWEBの役割をより強く意識することが必要。僕はリアルの役割はゼロからプラスを作ることであり、WEBの役割はマイナスをゼロにすることだと考えている。例えばリアル書店では、未知の本との出会いが、新しい価値観をプラスしてくれることがある。WEBは、手に入りにくい、時間がかかるといったマイナスを解消してくれる。また、情報が溢れすぎている現代では情報自体がストレスになることもあるので、そのマイナスをゼロにするデジタル上の戦略が絶対に必要であり、そのためにも顧客とのより細かいコミュニケーションが求められている」

そのほか株式会社ベルシステム24の渡邉渓太氏が「体験ブースとデジタルCRMの連携で実現する顧客獲得の新戦略」、株式会社これからの川村拓也氏が「何度も購入したくなるECサイトの共通点は“購買体験”にある!20,000件の支援実績から得たEC設計の勝ちパターン」、C Channel株式会社の森川亮氏が「ECにおいて顧客体験を高めるインフルエンサー活用術」、株式会社K-ブランドオフの白川貴浩氏が「ブランドリユースシェアNo.1のコメ兵ホールディングス グループ企業 K‐ブランドオフが描く新たな顧客体験」について講演。

W2代表取締役の山田大樹氏

最後にW2代表の山田氏が「今後は全ての データが統合されてワンストップでユニファイドを実現できることが求められる。我々はそのためにプラットフォームをさらに進化させながら、お客様と共にユニファイドシフトを成功させていきたい」と語り、セミナーを締めくくった。

オンラインカンファレンス「5年後のリテールを考える Unified Shift 2024」は、期間限定でアーカイブ配信を行っている。他のセッションも気になる方は、下記よりご覧いただきたい。

W2「Unified Shift 2024」アーカイブ配信はこちら


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