ECで売上拡大を続けるJBLの緻密な戦略とは? モール活用法&OMO戦略~JBL直撃取材後編
ハーマンインターナショナル株式会社が持つオーディオブランドのひとつであるJBLは、緻密なEC戦略によって幅広い世代から支持を得ている。前編ではJBLの長年のファンである40代や50代のみならず、Z世代にもファンになってもらうための施策や、日本人に合わせたコンテンツで購入につなげることなどを伺った。後編である今回は、引き続き同社コンシューマーオーディオ営業部 E-Commerce Manager 田野勉氏に、JBLのモールの活用方法やOMO戦略について伺っていく。
売上の原動力は「EC限定モデル」
──貴社はモールも積極的に活用しており、Amazonでは賞も受賞されています。Amazonでの戦略をお聞かせください。
実は、Amazonに納品して私たちの商品を売ってもらう「ベンダービジネス」は10年以上前から行っていました。2023年からはAmazonで私たちが直接販売する「セラービジネス」も開始しています。昨年はAmazonでの売上が前年比で驚異的な成長率を記録し、アマゾンジャパン史上初めてベンダー側の「ベストパートナー賞」と、セラー側の「Day One賞」を同時受賞しました。日本のAmazonビジネスは、弊社ハーマンインターナショナルの世界中のAmazonビジネスでもトップの成長率でした。
──その大きな成長率を実現できた要因は何なのでしょう。
売上の原動力となっているのは「EC限定モデル」です。私たちはグローバルで製品を販売しているので、非常に多くの製品を持っています。ですが、例えば100個の製品があったとしても日本で展開するのは80個ほどです。つまり、まだまだ日本で販売していない製品がありました。
また、最近のヘッドホンやイヤホンは音を聴くだけでなくノイズキャンセリングやマルチポイント接続、パーソナライズ機能など多機能な製品が増えています。そのため、店頭の什器などに説明を書くだけでは不十分ですし、販売員さんも多くの知識を頭に入れるのが難しくなっています。
そこで「EC限定モデル」としてECモールで販売すれば説明を充実させることができますし、まだ日本で販売していない製品を扱えば店頭との価格競争も起きません。その結果、私たちの売上の約8割を「EC限定モデル」が占めるようになりました。
常に分析と改善を繰り返して売上につなげている
──Amazonだけでなく楽天やYahoo!にも出店されていますが、在庫管理はどのようにしているのでしょう。
ECの在庫管理は機動的に管理しています。1カ所で管理しているのですが、Amazonであればプライムデー、楽天であればお買い物マラソン、Yahoo!であればPayPay祭のように、セールやイベントごとに各モール間で機動的に在庫を調整できる仕組みを整えています。
また、セールやイベントだけでなく、実際の商品の売れ行きによっても常に在庫は調整していますね。
──迅速かつ柔軟に対応できる体制をとられているのですね。
在庫だけでなく、商品ページも常にPDCAを回して改善を続けています。商品画像も反応をみながら、人物中心の画像をメインにしたり、プロダクト中心の画像に変えたりしています。
──お客様データの活用などはされているのでしょうか。
楽天でお客様データを活用して売上が伸びたこともあります。楽天は女性のお客様が多いのでベージュのイヤホンが売れると思って販売したところ、ほとんどの購入者が男性でした。そこで価格を大幅に下げたところ、購入者の女性比率が一気に伸びて逆転したんです。楽天では高価格帯のイヤホンは男性が買うことが多く、女性は高コスパのイヤホンを買うことが多いとわかりました。女性の購入比率が上がった後は、すぐにコンテンツも女性向けに切り替えましたね。
このようにデータの重要性を強く感じているので、今はグローバルでDtoCにも力を入れています。このため、パッケージにあるQRコードを読み取るだけで、お客様が簡単にカスタマー登録できる仕様にしました。お客様データが集まれば、最終購入日から時間が経っていれば新しい商品の提案ができますし、「今お持ちのイヤホンを買い替えると○○%オフで購入できます」などのサービスも提供できます。もちろん、お客様データや声が集まれば、今後の商品開発にも役立てることが可能です。
生活の質を高められる体験を売っていきたい
──ECだけでなく実店舗も掛け合わせたOMO戦略をお聞かせください。
お客様とのリアルな接点は大切なので、2023年はインテリアショップにJBLの商品を置かせていただき、実際に部屋に置いた際のイメージや音を聴いてもらう施策を行いました。商品にはQRコードを貼っておき、そこからECへ送客し、10%オフで購入できるような導線です。
また、2023年、2024年は「ポタフェス」というイベントにも参加しました。ポタフェスとは、ポータブルオーディオフェスティバルのことで、世界中のイヤホンなどを展開するブランドが商品を展示して、視聴してもらえるイベントです。行列ができるほど人が集まるイベントで、高額なプレーヤーや女性向けのものなど、様々なオーディオに触れられる機会となります。
こういった店舗やイベントを活用して、店頭には置いていないEC限定モデルを体験できる機会を設けて、そこで集まった声を商品やコンテンツに活かし、オンラインの購買につなげていきたいですね。
──ECだからレビューなどデジタルで完結……というのではなく、リアルで得たお客様の声を反映させることが大切なのですね。
とても大切ですし、ECはすぐに反映できるところが良い点です。製品ページのコンテンツや写真はすぐに変えられますし、複数パターンのコンテンツを作成してABテストも可能です。過去のデータがないときはとにかく試してみて、ダメだったらすぐに軌道修正すれば問題ありません。
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
今はノーブランドの安価なイヤホンがモールで上位にランクインするケースもありますが、私たちはそこに追従することはしません。JBLには78年の歴史があり、車やスタジアムや映画館といったプロフェッショナル音響から誕生しているので、その歴史や技術を理解して買っていただきたいですね。
そのためには私たち自身も商品を徹底的に理解しますし、徹底的に使います。その上でお客様が知りたい情報を分かりやすく説明していきます。これからも単に音を聴く道具ではなく、音楽を通じて楽しい気分になったり元気が出たりといった、生活の質をあげる体験を売っていきたいです。