ゴールドウインに訊く お客さま目線で取り組むEC戦略とLTV向上に繋がる視点【ゴールドウイン セミナーレポート】
2024年12月、awoo株式会社が主催しファッションブランド&ファッションECを支援する専門企業が集結した「ファッションECカンファレンス2024」に、スポーツアパレルメーカーの株式会社ゴールドウイン 販売本部 EC販売部 部長 梅田輝和氏が登壇。新素材を用いた製品開発の舞台裏や、体験創出にも注力しているゴールドウインがECとアプリを通してEC売上を5年で2倍以上に成長させた戦略を語った。モデレーターはメグリ株式会社 代表取締役 田代健太郎氏。
リニューアルを遂げた21年目のECサイト
メグリ株式会社 代表取締役 田代健太郎氏(以下、メグリ 田代) まずはゴールドウイン様のEC事業について教えてください。
株式会社ゴールドウイン 販売本部 EC販売部 部長 梅田輝和氏(以下、ゴールドウイン 梅田) 弊社は創業74年目のスポーツアパレルメーカーとして、12ブランドを展開しています。富山の研究開発拠点では合成たんぱく質を用いた素材の開発や、アップサイクルした商品のリセールなどをしています。
同時に体験の提供にも注力しており、以前より実際に商品を着用してご参加いただくイベントの開催や、自然と共生する体験型の公園「PLAY EARTH PARK NATURING FOREST」の2027年開業準備を行っています。
ECは売上の約13%を占めており、売上額は約148億円です。EC化率は横ばいですが、売上は成長を続けています。ECは2023年の11月で20周年を迎えました。2020年にECシステムを載せ替え、2023年の20周年に合わせてデザインの変更を行い、2024年の2月に刷新が完了しました。
メグリ 田代 今回の「Goldwin Online Store(ゴールドウイン 公式オンラインストア)」リニューアルでは、どのような変化がありましたか。
ゴールドウイン 梅田 今回は製品の販売だけでなく、スポーツ・アウトドアの楽しみ全体を発信することを目指しました。ゴールドウインが扱うブランドを横断して、ECが一つのメディアになることを目指しています。各ブランドのファンがPCやスマホを見ている時間を楽しいものにしたいというコンセプトです。
例えば「街でも、フィールドでも心地よく。」というキャッチコピーはアスリートのフィールドからライフスタイル用途まで、幅広いお客さまの体験をカバーしていることを示しています。
※本記事内で掲載の画像はカンファレンス登壇資料より (以下同)
リニューアルのキーワードは「統一感」と「人格」
メグリ 田代 どのような目的をもって、今回のリニューアルを進めていかれたのでしょうか。
ゴールドウイン 梅田 スムーズな購買体験を実現するUI/UXの改善、洗練された統一感のあるビジュアル、ブランドを横断したモール型購買導線の改善、コーポレートサイトとのCI・VI・BIの統合の4点です。
「知る・買う・体験する」をサイト全体のキーワードに設定し、一貫した顧客体験をデジタルメディアで提案したいと考えています。そこでお客さまを深く理解するため、大きなカスタマージャーニーの図を作ってアンケートを行ったところ、お客さまはライト層・ファン層・コアファン層 に分かれていることが見えてきました。
メグリ 田代 それぞれのユーザー層に、どのようなカスタマージャーニーを提供しようとされていますか。
ゴールドウイン 梅田 まず、お客さまはファッション軸と、スポーツ・アウトドア軸で支持層が違います。しかし、ファッションとスポーツ・アウトドアの両方を支持されている方もいらっしゃるので、そうした方こそロイヤリティが高く、私たちが増やしていきたいお客さまであるという結論を出しました。
LTVの高いロイヤルカスタマーを生むためのデザインについては、多くのディスカッションを繰り返しました。特に難しいのは、ブランドを横断した購買体験の最適化です。モール型である以上、複数ブランドを購入しているお客さまがいることは理解していました。課題はお客さまにブランド間をうまく行き来していただくことです。デザインはデータと聞き取りを通して、評価とサイトの磨き上げを続けている途中です。
メグリ 田代 ECサイトに“人格”を与えるというアプローチが面白いと思います。詳しくお聞かせいただけますか。
ゴールドウイン 梅田 デザインを考えているときに、「Goldwin Online Storeはどういう人格なのか」を議論しました。「幅広いスポーツの楽しみ方を知っている、親しみやすく頼れるガイド」であろうという人格が定まったことで、ECサイトの接客態度である文面やデザインの方向性が定まりました。
“人格”が定まると、自分たちがオンラインストアの気持ちになって考えられるようになります。やるべきこと、やってはいけないこと、その伝え方が決まりやすくなりました。
アプリ運用の完全内製化でファンを作る
メグリ 田代 ゴールドウイン様はアプリをリニューアルした際に、運用を全て内製化されています。その意図を教えていただけますか。
ゴールドウイン 梅田 ブランドのことを知っている人間は社内にいるので、専門の方よりスキルが劣っているとしても、ブランドの人間が運用すべきだと考えました。他にもデータ分析が得意な人に解析を依頼しても、そのデータを役立てられるのは内部を知っている人間です。だから完璧ではありませんが、データ分析のチームも社内に作りました。ブランドの価値観や人格を重視してチームを作り、専門的なスキルは後から身に付ければいいと考えました。
メグリ 田代 アプリの役割について、教えていただけますか。
ゴールドウイン 梅田 アプリは主要ブランド4つを個別に展開しているので、会社よりも「ブランドのタッチポイント」という前提で運用することが重要だと考えています。OMOやオムニチャネルの強化もミッションでした。
ブランドとファンのつながり度合いと売上は比例すると思います。経由売上率でいうと、「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」のアプリが圧倒的な1位で、次点に「CANTERBURY(カンタベリー)」が来ます。「CANTERBURY」のファンはラグビー熱が高く、他のブランドにはあまり興味がない様子が数字から見られました。
メグリ 田代 アプリでECの売上を作るために意識したことは何でしょうか。
ゴールドウイン 梅田 アプリを作ればブランドのファンに満足していただけるわけではないので、アプリの中でブランド体験を提案する必要があります。お客さまが面白いと思える、喜んでいただけるコンテンツを提供できなければ、アプリを分けるべきではないでしょう。
アプリは、技術的には何でもできるだけに、お客さまと適切なコミュニケーションをとるのが難しいです。SNSやメルマガ、LINEなどのメディアを使い分けて、最適なゴールを設定することが大切で、弊社としても課題が残っている部分です。
メグリ 田代 プッシュ型の通知が多いと(アプリを)消されるのではと懸念する方もいますが、しっかりとデータに基づいてお客さまとコミュニケーションがとれていれば、大きな成果が出ます。運用にあたっては実店舗との意思疎通も重要ですよね。
ゴールドウインが目指す未来
メグリ 田代 ゴールドウイン様の将来の展望をお聞かせください。
ゴールドウイン 梅田 「CORE & MORE」を掲げて、これまでの真面目なものづくりとイノベーティブな活動を継続します。「CORE」の部分としてアスリートのフィードバックを市場に反映するという基礎の部分を堅実に続けます。やはりアスリートの信頼がある商品がブランドの信頼に一番貢献していると思います。「MORE」の部分は「CORE」の先なので、この順番を間違えないことが大切です。
メグリ 田代 「CORE」とは異なるアプローチもあると伺いました。
ゴールドウイン 梅田 会社として地球環境に悪影響を与えないビジネスを心がけており、最近ではRefuse・Reduce・Reuse・Repair・Recycleの5Rをキーワードにしています。富山では長年リペアサービスを行い、お客さまに商品を長く使っていただこうとしています。
廃棄が迫った商品はアップサイクルやカスタムした商品をリセールします。壊れてきたらリペアします。リペアセンターには私も知らないような古い商品が、つぎはぎだらけになってリペア依頼にかかっていることも。それだけ商品を大切にされているお客さまがいるということに感動しますし、自分たちの商品がしっかりしていることに自信が深まります。
ECサイトのリニューアルやアプリ導入は販路拡大の重要な一手だ。しかし、その施策に芯が通っていなければ顧客体験は“迷子”になる。データや対話を通してユーザーが求める体験を社内に蓄積し、顧客に提案することが成長のドライバーになるだろう。