ChatGPTにショッピング機能登場! ECの広告戦略やSEOに起こる変化とは

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大矢根 翼

米国時間4月28日、米OpenAIが新たに全ユーザーを対象としたショッピング機能をChatGPTに搭載したと発表した。同機能ではAIと対話しながら商品に直行できるほか、レビューや価格といったメタ情報もチャット欄に表示される。本稿では今回実装された機能の詳細や、今後想定されるアップデートがECに与える影響を考察していきたい。

ChatGPT検索の現在地

今回発表されたショッピング機能は、検索機能のアップデートだ。ChatGPTでは、サービス内でWeb検索を行う機能が2024年5月から無料ユーザーにも提供されている。ChatGPTを提供するOpenAI社によれば、ChatGPTを用いた検索行為は1週間で10億回以上行われており(※1)、これは検索市場において約1%強のシェア(※2)と推計される。

2025年5月時点でのシェアを多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるところだが、検索機能の登場から約2年で市場シェア1%に到達した成長スピードは無視できない。ChatGPTの検索機能は自然言語で入力されたユーザーの質問を検索ワードへと分解し、出資元のMicrosoftが提供するBingの検索エンジンへと送信している。つまり、ユーザー目線ではChatGPTを介してBing検索を行い、検索結果のまとめが表示されるようになっている。

ショッピング機能実装前の時点で、ChatGPTには実際の商品を並べてリンクを出力するフォーマットが存在する。しかし、この機能は紹介される画像と商品がリンクしていなかったり、商品自体へのリンクではなく、キュレーションサイトへのリンクになっていたりと、ショッピングに最適化されているとはいいがたい。

筆者のChatGPT Web Browsing機能での商品紹介画面

Googleなど、通常の検索画面から検索すれば一度に多くの商品を閲覧できるが、ChatGPT経由での検索では限定的な数の商品情報が生成されるのを待つ必要があった。ChatGPTは今回のアップデートで、Googleのショッピングタブのように直接商品購入ページへと遷移できる機能を実装した。

※1 Open AI:X投稿
※2 Google:AI, personalization and the future of shopping より、年間5兆検索を前提として推計

ChatGPTショッピング機能の概要

新しいショッピング機能ではカルーセル形式で画像とメタデータが表示され、クリックするとサイドバーに販売サイトへのリンクが表示されるようになっている。価格、商品詳細、レビューといったメタデータがサイトを横断して表示されるため、従来の商品紹介よりもはるかに購買までの導線がスムーズに整備された。

すでに日本でも全ユーザーに向けて公開されており、利用にログインは不要だ。ショッピング機能を表示させるためには「ショッピング機能を表示」や「カルーセルで表示」など、特定のプロンプトを入力するがある。

筆者のChatGPTでのショッピング機能での商品紹介画面

自分の予算や好みを伝えれば、パーソナライズされた結果を出力するため、ユーザーはコンシェルジュに相談しながら買い物をするような体験が可能になる。

機能の発表時点でOpenAIはXにて広告を掲載しないと発言(※3)している。一方でサム・アルトマンCEOは「個人的に広告は好きではないが、広告を検討しないということはない」とも述べている(※4)ことから、広告枠の出現や外部リンクのアフィリエイト化など、施策の先行きは確定していないと言えるだろう。

OpenAIはサービスの営利化を断念する(※5)など、同社はNPOとしてスタートした出自から技術の商業化に政治的課題を抱えている。ファンド目線では、営利化は投資のインセンティブとなるため、数百億ドル規模の大規模な資金調達を続ける同社のサービス内容は流動的になる可能性がある。

※3 Open AI:X投稿
※4 A fireside chat with Sam Altman OpenAI CEO at Harvard University
※5 日本経済新聞:OpenAI、営利化計画を断念 アルトマン氏「NPOによる支配維持」

ショッピング機能の発展性

ショッピング機能が公開されたことで、ChatGPTが本格的なECプラットフォームになるポテンシャルが見え始めた。リリース2週間時点では動作が不安定であるなどの改善点が目につく。しかし、開発が進めばユーザーの快適性が増すと同時に、事業者としての有用性も高まるだろう。

まずはプロンプトに依存しないショッピング機能の呼び出しが必要だ。現状ではプロンプトやログイン状態によってショッピング機能が出たり出なかったりする。筆者が試した際には有料アカウントでのログイン状態で動作せず、ログアウト状態で機能するという現象が発生した。

筆者の環境でショッピング機能が呼び出されなかった場合のChatGPT画面

加えて商品が表示される速度、精度、量が高まることでユーザー体験が向上すると考えられる。公開初期の段階ではショッピング機能が数個の商品を呼び出すまで数十秒を要している。Googleのショッピング機能を代替するような成長には、スピーディーかつ大量のパーソナライズされた提案が必要だろう。

これらの課題が解決されたあかつきには、事業者はChatGPT用の商品SEOが必須になる。ChatGPTのクローラーに商品のメタデータを適切な形で提供する準備は早めにしておいて損はない。

また、ChatGPTのショッピング機能からのアクセスにはクエリパラメータが設定されている。Google Analyticsなどでクエリパラメータをフォローしておけば、その時点でのChatGPT対策の重要性が確認できる。

ショッピング機能本格稼働後にEC業界が受ける影響

新たな大規模プラットフォームが出現したとき、EC事業者が特に気になるトピックは「そこで売るためにはどうすればいいのか」だろう。現時点でOpenAIが表示する商品を選択する際に重視しているとみられるデータは、モールや独自ドメインでのレビューだ。多くのジャンルで、多くの高評価レビューを集めている商品が上位に表示された。

また、サイドバーに表示されるユーザーのレビュー情報には、ECサイト、情報ポータルサイト、ブログなどのドメインが並ぶが、SNSでの投稿は確認できなかった。しかし、この傾向はリリース間もない時点での情報であるため、重視されるドメインは大いに変わり得る。botのクロール先がモールに偏重すればモールへのアクセス集中が促進されるが、その逆も起こり得る。

筆者環境で表示されたショッピング機能のUGC

いずれの場合でもChatGPTや他社のAIショッピングが一般化すれば、従来のEC施策に加えてAIショッピング用SEOが必要になるだろう。同時に、アフィリエイト出稿は見直しが必要になるかもしれない。ユーザーはSEO対策の施されたアフィリエイトサイトを介することなく商品に到達し、ダイレクトに購買行動を起こすようになる


ChatGPTのショッピング機能、ひいてはAIショッピングは黎明期を迎えた。不確定要素はまだまだ多いが、この機能が普及するにつれて無視できない市場になっていくことは確実だ。EC事業者としてはOpenAIだけでなく、AIショッピングに参入するであろう他サービスの動向にも注意を払い続けたい。


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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