タマチャンショップのCRMとブランド戦略 ブレない世界観を顧客と共有する
(写真左)株式会社E-Grant 代表取締役 北川健太郎氏 、(右)有限会社九南サービス 代表取締役社長 兼 キャプテン 田中耕太郎氏
EC市場の成熟と共に「ただ物を売る」だけではなく、「ブランドの世界観や共感をいかに顧客と共有できるか」が企業の価値を左右するようになってきた。そんな中、楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーの常連としても知られる「タマチャンショップ」は、ECという枠を超えて、ファンとともにブランドを“育てる”姿勢で人気ショップへと成長した。
事業者のCRM戦略をテーマにしたシリーズの第4回は、タマチャンショップを運営する有限会社九南サービス 代表取締役社長の田中耕太郎氏と、累計1,000社を超えるEC・通販事業者に総合CRM支援を展開し業界をリードする株式会社E-Grantの北川健太郎代表が、ブランドの核にある哲学と顧客との関係性について対談を行った。
スタートはシイタケ販売。今では自然食品の人気店へ
株式会社E-Grant 代表取締役 北川健太郎氏(以下、北川) まずは会社の成り立ちからお伺いしたいです。タマチャンショップの生い立ちと言いますか、“ルーツ”から教えていただけますか。
有限会社九南サービス 代表取締役社長 兼 キャプテン 田中耕太郎氏(以下、田中) もともとは家業が農家でした。両親が約30年前に独立して、シイタケ栽培から始めました。でも当時、国産キノコの価値が輸入品に押されて大きく下がってしまって。そんな状況の中、「農家を元気にしたい、国産のシイタケを全国に届けたい」と思って、ECに挑戦することになったんです。
最初はシイタケと、数点の自然食品の販売から始めましたが、全然売れなかったですね。そこから徐々にお客様が増えていって、おかげさまで知名度も上がってきて、「食」を楽しみながら健康や美容を意識できるような九州発の自然食品のラインナップを少しずつ増やして現在に至ります。
顧客と一緒に作る“ブレない”ブランド
北川 「タマチャンショップ」といえば、ブランドの世界観がすごくしっかりしている印象です。独自の構築において意識していることはありますか。
田中 根本はやっぱり“コンセプト・思想”が軸にあることです。売上を作るというより、自分たちの“思想”を伝えるために商品を届けている感覚で、梱包資材一つとっても世界観にブレがないように設計しています。そうした自分たちの思いに、お客様も共感していただいているのだと考えています。
北川 その“思想”が顧客に伝わっているか、どうやって確かめているのでしょう。
田中 コミュニティサイトがあって、今では約5000人の方に参加いただいています。他にもオンライン座談会を開いたり、定期的なアンケートも行って、お客様の声と自分たちの感覚を照らし合わせています。そこでズレを感じたら少しずつ修正しますし、同梱物を活用して改めてタマチャンショップのコンセプトを伝え直すといったこともしています。
北川 すごいですね、それだけ双方向でのやりとりがあると。
田中 それと、スタッフ育成でもこの“思想”を大切にしています。まず、教育資料がかなり分厚い(笑)。また、新しいスタッフをベテランと組ませて、プロジェクトベースで育成しています。また、コミュニティサイトを皆で運営することによって常にお客様の声に触れ、「どうしてタマチャンショップで買っていただいているのか」をインプットするようにしています。全社員が参加するFacebookグループでお客様の声や成功した取り組みを共有して、お互いに称賛し合うといったこともありますね。
「タマチャンショップ」公式ホームページ。読みものやレシピも充実している
プラットフォームに合わせず、世界観を貫く
北川 販売チャネルとして、楽天市場やAmazon、自社ECと複数を運営されていますが、それぞれにどういった違いがありますか。
田中 楽天市場はお客様がすでにたくさんいらっしゃる一方で、管理が厳しくて、柔軟なブランディングが難しい部分もあります。一方、自社ECは自分たちの思想やアイデンティティを体現する場所として使っています。サブスクを主軸に据えて、より深い関係性を築ける場ですね。
北川 Amazonにも近年取り組まれているとのことですが、どういった戦略で進めていらっしゃいますか。
田中 Amazonは商品設計の段階からしっかり利益を考慮しないと難しいので、逆にAmazon向けの商品を開発し始めています。ただ、プラットフォームごとにCRMを変えることはしていません。あくまで自分たちの世界観を貫いて、その上でお客様に選んでいただくスタイルです。
北川 それはすごくユニークですね。多くの企業がモールに合わせようとする中で、逆に“合わせない”という。
田中 はい、僕たちはどこで買っても「タマチャンショップ」らしさを感じてもらえるようにしています。それがブランドの価値だと思っています。
タマチャンショップ公式コミュニティサイト「タマリバ」より
顧客データをクロスセル施策や商品開発に活用
北川 CRM施策として、どのようなことに取り組んでいますか。
田中 SKUが多いので、お客様がどの商品をクロスで購入される傾向があるのかを分析することに力を入れています。そのデータを新しい商品開発の参考にしたり、さらなるクロスセル向上やリピート率を高める施策に活用しています。当社は製造から流通、販売までを一気通貫で行っているので、そういった各工程におけるデータの収集や分析を細かく行える点は強みだと思います。
オフラインにも注力していますが、例えばリアル店舗に展開する商品を限定したり、卸先を厳選させていただくなどして、リアル店舗でのタッチポイントを増やしつつ、最後はECに来ていただけるような戦略を立てています。
北川 顧客データを活用したコミュニケーション施策で、効果を実感したものはありますか。
田中 システムを導入して、LINEを自社ECと連携しています。商品を購入されたお客様に、別の商品をオファーするといったアプローチをしています。
あとは「タマラボ」(タマチャンショップのスタッフが商品を選定して届ける定期便サービス)ですね。お客様からいただいたリクエストをもとに商品を開発して、それをテストマーケティング的にお届けして反響を調査しています。これによって実際に製品化する際の需要予測の精度を高めることができています。
北川 顧客との関係構築をかなり意識されているのが伝わってくるのですが、反対に「お客様起点」であっても実施しないことはありますか。
田中 当社のポリシーに反するような、例えば健康につながらないプロダクトは作りません。世界観に合わない有名人を安易に起用することもないですね。
定期便サービス「タマラボ」公式サイトより
AIを活用して“共感”を深める
北川 今後、強化していきたい取り組みはありますか。
田中 AIの活用ですね。接客にAIを導入して、2回目購入のお客様にピンポイントで提案ができるような仕組みを作りたいと思っています。AIのエンジニアに迎えて、社内で勉強会も始めているところです。
北川 やはり“顧客体験”がキーワードですね。
田中 そうですね。「1対1の関係性をどう築くか」が重要で、自分たちの世界観に共感してくれるお客様と、一緒に未来を作っていく。その延長線上で、商品も文化も生まれると思っています。