食品ECにおけるM&Aを活用した非連続な成長【オイシックス・ラ・大地  セミナーレポート】

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ECのミカタ編集部

安心安全でおいしい食材、食品を提供するサブスクリプションサービス「Oisix(オイシックス)」を手掛けるオイシックス・ラ・大地株式会社は、生産者と消費者を直接つなぐBtoCビジネスを構築した先見性に定評がある。

2020年に東証一部(現プライム)に上場した同社は、M&AやBtoB進出、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動などで事業領域を拡大し、「非連続な成長」を実現してきた。同社はどのような変遷を経て、シナジーを企業価値の向上へ発展させているのか。EC事業本部 戦略室 室長 馬場康輔氏が登壇したセッションの要点をレポートする。

本記事は2025年3月に開催した「食品ECカンファレンス」でのセミナー内容を基にしています

「非連続な成長」を導いたM&Aによるシナジー

2000年の創業以来、オイシックス・ラ・大地はインターネットを活用した野菜の販売を通じて事業を拡大してきた。その後、食品領域を中心にM&Aを繰り返しながら、馬場氏が「非連続な成長」と表現する事業拡大を遂げている。

オイシックス・ラ・大地の前身となるオイシックスは、2017年に株式会社大地を守る会、2018年にらでぃっしゅぼーや株式会社と経営統合し、BtoC食品サブスクリプション事業を強化、社名を「オイシックス・ラ・大地株式会社」に変更した。以降もM&Aを推進し、2024年には事業所、学校、病院などの給食事業などを展開するシダックスを経営統合してBtoB食品サブスクに進出。売上高2500億円企業へと大きく躍進している。

「オイシックス・ラ・大地の強みは、約4000件の農家と直接契約していることによる高品質な青果調達、2000年以来のデジタルサブスクで培った豊富なBtoC販売ノウハウ、自社で物流センターやミールキット製造工場を保有していることによるコストメリットの3点です」(以下、発言部分は全て馬場氏)

画像提供:オイシックス・ラ・大地株式会社(カンファレンス登壇資料より)

2017年から2018年にかけて経営統合した大地を守る会とらでぃっしゅぼーやは、紙のカタログで注文を受けるスタイルが主流だったが、オイシックスはデジタル販売が主軸である。創業年や事業規模、ブランドコンセプトの異なる3つのサービスが結合してシナジーを生み出した方法を、馬場氏は以下のように説明した。

「第一に、デジタルマーケティングノウハウの注入です。オイシックスが得意とするデジタル戦略を、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやにも適用し、スマホの普及などで拡大したデジタル顧客の獲得コストを改善しました。加えて、一般的なM&Aでも実施されることが多いですが、バックオフィス領域の効率化も実施しました。受発注から梱包、配送、代金回収、顧客対応といったフルフィルメントの集約がスケールメリットを実現しました。」

BtoB事業への展開と給食市場へのアプローチ

2024年は、シダックスとの経営統合によりBtoB事業に進出した。給食事業の提供先は保育園や高齢者施設、病院、企業向けなどである。需要は増えているものの、中小事業者が多い市場であるため、80~90%に及ぶ原材料費と人件費の高騰が業績悪化や経営破綻を引き起こしているという。

「オイシックス・ラ・大地は、BtoC事業で培ったノウハウをBtoB事業に横展開しました。オイシックスとシダックスのビジネスモデルは、安定した大規模な原材料調達、集約型の加工と仕分け、毎日異なるメニューを届けるサブスク型という点が共通しています」

画像提供:オイシックス・ラ・大地株式会社(カンファレンス登壇資料より)

BtoBサブスクモデルのシナジー創出事例として馬場氏が紹介したのは、保育園、高齢者施設、社員食堂、キッチンカーなどでのBtoCノウハウの活用だ。具体的には、ミールキットの導入4000件の契約農家ネットワークによるコストメリット、さらに、デジタル技術を駆使した流通の効率化(DX)などである。

「BtoBの給食事業は『タイパ給食モデル(短時間で調理可能かつ、利用者の満足度を備えるタイムパフォーマンスを重視した給食)』として、時短とプレミアム感を両立しました。カット済み食材の配達で調理時間は30%減、コストは18%減、また有名ブランドとのコラボにより完食率=満足率も70%へと向上しています」

CVCで「未来の食のテクノロジー」に投資

オイシックス・ラ・大地は、「Future Food Fund」というベンチャーキャピタルを運営している。投資の対象は、「未来の食にかかわるテクノロジー」だ。

画像提供:オイシックス・ラ・大地株式会社(カンファレンス登壇資料より)

「第一号ファンドは投資フェーズが完了し、順調に初期投資額を上回る成果を上げています。例えば、BASE FOOD(ベースフード株式会社)は、『Future Food Fund』を通じてIPOを果たしました。現在は、第二号ファンドを通じて投資先を拡大しており、顧客やチャネルを買って増やすだけでなく、培ったノウハウを他社に適用し、社会的課題を解決したからこそ成長できました。自社の抱える課題とのマッチングが非連続成長のポイントだと思います」

土地に根づく農業を、デジタル技術を通じて全国の消費者に届けるという同社のコンセプトは25年をかけて大きな成長を遂げた。「食の社会課題をビジネスの手法で解決する」という理念を掲げ、買収先のポテンシャルを活かす投資を加速する同社が、次に目を向ける食品ECの社会課題に注目したい。

馬場 康輔
オイシックス・ラ・大地株式会社 EC事業本部 戦略室 室長
2024年にオイシックス・ラ・大地株式会社に入社。EC事業本部(Oisix事業)の戦略室担当として、次年度および中長期のOisix事業における戦略立案をリード。入社以前はコンサルティングファームにてM&A戦略の立案、デューデリジェンスや企業間の統合・合併支援、全社の企業・業務変革プロジェクトに従事。


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