Rakuten AI Optimismレポート AIの守備範囲はマーケからCSまで全域に拡大
2025年7月30日から8月1日にかけて、楽天グループ株式会社(以下、楽天)は体験型イベント「Rakuten AI Optimism(ラクテン エーアイ オプティミズム)」をパシフィコ横浜で開催した。初日のオープニングキーノートには同社 代表取締役会長兼社長 三木谷浩史氏が登壇。三木谷氏はAIが急速に発展している現状と、これからのエージェント型AIのあり方などを語った。また、展示エリアのエキシビジョンには楽天の各種サービスがブースを出展し、AIを用いた新機能やサービスなどを紹介した。
楽天が見据えるAI事業のミッション
三木谷氏はキーノート冒頭、「AIが、世の中を根本から変えようとしている」と、イベントの名称を昨年までの「Rakuten Optimism」から「Rakuten AI Optimism」に変更した背景を述べた。
「楽天市場をスタートした時、インターネットの通信速度はとても遅かったけれど、『世の中の情報は全てつながっていく。ピア・ツー・ピアであらゆる通信が可能になる』と考えた」と三木谷氏。1997年の創業から、現在70を超えるサービス群を展開するまでに拡大してきた楽天の約30年間を振り返った。
また、近年注力するモバイル事業(楽天モバイル)は2025年内に1000万回線突破を目指しているという。「AIを使うためには『つながっている』ことが前提になる。だから『デジタルの道路』は安いほうがいい」と、三木谷氏は「Rakuten最強プラン」や、自動契約SIM自販機「最強くん」といったモバイル施策を紹介した。
AIの進歩については「AIの役割が、質問に回答すること(レスポンス)から、アクションへと進化している。3年で起こると思っていた進歩が3カ月で起こっている」と三木谷氏。同氏はユーザーの意図を理解し自律的に動くAIエージェントや、自動運転の車などを例に挙げながら、AIの発展の速さを強調した。
さらに「2025年6月末の時点で、世界で12億人超(楽天調べ)が何らかの形でAIを利用しており、これはインターネットやスマートフォンよりもはるかに速いスピードで普及している」と述べ、AIを使いこなせるかどうかが国の競争力を決めるという。三木谷氏は「アメリカのAI活用の度合いを100とすれば日本はまだ20程度で、中国やヨーロッパなどよりも出遅れている」と現状を示したうえで、AI活用をあらゆるユーザーに広げるミッションを楽天グループが担うことへの意欲を見せた。
劇的なAIの進歩と、変わらない「人」の価値
「楽天グループは、皆さんがAIを意識せずに使えるような世界を目指しています」と、三木谷氏は楽天のAIサービスがシンプルで洗練されたデザインを持ち、多領域へブランドおよびサービスを展開することを説明。そうしたAIが真価を発揮するためには「データ」が最も重要であり、三木谷氏はデータを「AIにとっての金脈(金鉱)」だと表現する。
楽天グループの強みは、楽天エコシステムにおいて購買や決済、旅行、取引といった膨大なデータを有していること。また、MicrosoftやOpenAIといった企業とも提携し、さらに独自の日本語LLM(大規模言語モデル)を開発することで、「Rakuten AI」を進化させていくという。
三木谷氏はセッション終盤、楽天モバイル契約者用コミュニケーションアプリ「Rakuten Link」に搭載されたエージェント型AIツール「Rakuten AI」のデモンストレーションを行った(※1)。同氏によれば、AIエージェントはインターネットの使い方を根本的に変えていくものになるという。
「いわゆる『デジタルツイン』、デジタル上のもう一人の自分が“スーパー秘書”のように、さまざまなことをしてくれるようになります。このAIエージェントはどんどん賢くなり、ユーザーを深く理解するようになります。今後は、ユーザーそれぞれの過去の購入履歴やプロファイルに応じて、この“スーパー秘書”が提案してくれるようになります」(三木谷氏)
膨大なデータ量と国際的な組織をもつ開発力に、運用面としてのポイント制度が加わることで、ユーザーに楽天のAIエージェントを使ってもらえるようになると語る三木谷氏。さらに、そのためには「(楽天市場に出店する)店舗や(楽天トラベルに登録する)宿泊施設の皆さまの『ライブな感覚』が非常に重要になってくる」とも。
「AIはあくまでもツールであり、最終的には人間的なサービスが重要になってくる。そして、それが楽天市場・楽天トラベルの強さ。一人ひとりの商品やサービスに対する思いが集まり、それにAIを掛け合わせることで、世界でも類を見ない、人間味のある最強のAIが生まれる」と締めくくった。
RMSのAIが使いやすく、多機能に
同イベントのエキシビジョンでは、楽天市場への出品事業者が利用するRakuten Merchant Server(RMS)におけるアップデートなどが公開された。「RMS AIアシスタント」は2024年から公開されているRMS内で利用できるAIサービスだが、頻繁なアップデートによって機能追加と洗練が進んでいる。
新機能として追加されている機能はレビューへの返信文作成。RMSのAIチャット機能にプロンプトを入力してレビュー返信を生成するユーザーが多かったことから、独立機能としてスピンアウトした。
「レビューへの返信や質問への回答は一般的なAIで作成可能ですが、それでは一般的な回答になってしまいます。同機能はバックグラウンドで商品データを参照しているため、精度の高い回答が可能です」と担当者は語る。今後はパフォーマンス分析や広告・販促の提案など、店舗データを解析した後に使える機能を、実装済みの機能の中で実現するか、別の機能を追加するかを検討中しているという。
「RMS AIアシスタント」ではAIの使い方がまだわからない利用者でも、商品説明文の作成などから着手し、一通りAIを使えるようになっていく、という動線が想定されている。担当者は「実店舗営業の片手間で運用しているユーザーのサポートも目指しています」とAI活用を推進している。
AIの活用は接客領域にも広がっている。会場では、顧客が楽天市場で商品を検索する際に予算や用途などを入力するとAIが商品を提案する機能や、自分の部屋にミリ単位の精度で家具を配置できる拡張現実(AR)ソリューションなども展示されていた。
また、ユーザーからの問い合わせに自動対応する機能も紹介されており、顧客が自然言語でナビダイヤルを操作すると、AIが商品データなどを参照しながら対応する。これにより、人間のオペレーターへの接続数を約50%削減できるという。
マーケティングの全工程をカバーするサービス群
楽天市場での販売業務における上流工程のマーケティングについては、「AIで進化するマーケティング支援」と銘打ったブースが展開。出品前にユーザーインタビューを通して市場の定性調査を行える「AIチャットインタビュー」、ペルソナを深掘りできる「インターネットリサーチ/楽楽プロファイル」、今後のトレンドを先読みする「未来購買予測」、広告を効果測定する「R-Brand Lift Survey」、カスタマーサクセスを担う「楽天ポイントギフト」が並んだ。
2024年10月にローンチした「AIチャットインタビュー」は通常数カ月を要する市場の定性調査が最短5日程度で終わるサービスだ。「AIの強みとして、人間が行うインタビューでは聞き取りにくい身体についての回答をしやすいという声を聞いています。インタビューならではの『話の脱線』も自然と軌道修正するので、本質的な回答を引き出します」と担当者は語る。
それ以降の工程でもAIが過去の購買データに基づき、相性の良い顧客へ広告を出稿するなどの一気通貫したマーケティングが複数のサービスによって提供されている。中でも、実店舗と楽天市場の両方を運営する事業者として活用できそうなサービスが「楽天安心サイネージ」だ。実店舗のカメラと連動して来店者の属性をとらえる「楽天安心サイネージ」は、防犯対策とともに、顧客の属性に合わせた広告訴求も可能にする。
AIが活用される場面は連鎖的に拡大しており、今後は他社との差別化をはかる前段階として、AIを使いこなせている必要が出てきそうだ。楽天市場の出店事業者としても、さまざまなAIサービスを使いこなし販売を加速させていきたい。
※1:関連記事 楽天、エージェント型AIツール「Rakuten AI」本格提供開始 「楽天市場」への搭載は今秋予定