カンロの「EC×ファン化戦略」 お客様の声を反映しながら商品を開発・改善

最終更新日:

ECのミカタ編集部

「カンロ飴」や「金のミルク」といったロングセラー商品に加え、近年はグミ市場も牽引し、過去最高益を更新し続けるカンロ株式会社。同社が今、注力するのがECを起点とした「ファン化戦略」だ。顧客との長期的な関係性を築くために、ECサイト「Kanro POCKeT(カンロポケット)」を起点としながら、数々の挑戦を続けている。

しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。本記事では、2025年7月29日にECのミカタ(MIKATA株式会社)主催した「長期的に選ばれるECのつくり方 ~CRM・CX・ファン化戦略大公開~」で、同社 マーケティング本部 CX推進部 チーフマネージャー 武井優氏が語ったCX戦略と、成功の裏にあった「乗り越えた壁」についてレポートする。

「EC×ファン化戦略」でLTV向上を目指す

1912年の創業から113年の歴史を持つカンロ株式会社。近年はグミカテゴリーが成長を後押しし、業績を大きく伸ばしている。しかし、武井氏はキャンディ市場について「圧倒的な1位がいない市場」だと分析する。多くの企業がひしめき合う中で、顧客から長期的に選ばれる存在になるため、カンロは「EC×ファン化戦略」を本格化させた。

画像提供:カンロ株式会社(カンファレンス登壇資料より)

その戦略の全体像が「LTV向上型モデル」である。顧客とのエンゲージメントを強化し、ファンを醸成することでLTVを高め、得られた顧客の声を商品やサービスに還元していくサイクルを目指す。この戦略の中核を担うのが、2021年8月にオープンしたECサイト「Kanro POCKeT(カンロポケット)」だ。

「お客様との接点をできるだけ『Kanro POCKeT』に集めるよう構成しています。オンラインショップ機能はもちろん、今年から本格始動したコミュニティサイト、全商品のブランドサイト、お客様サポートやFAQなども集約しました(以下、発言は全て武井氏)

カンロが展開するECでは、一般流通では包装の耐久性の観点などから実現が難しかった施策に取り組むため、「アメージングカンロ」というコンセプトを掲げた。

「キャンディの魅力を最大限に表現し、お客様にワクワク体験をしてもらえるようなEC専用の商品開発に取り組んでいます。最も成功した商品は『ホシフリラムネ』です。星空をイメージしたビンとラムネを分けて梱包し、ビンの中に星空を閉じ込めていくような体験ができます。この商品はSNSでの拡散もあり、初回は9日間で完売しました」

画像出典:Kanro POCKeT オンラインショップ【ホシフリラムネ】

「ホシフリラムネ」は、ラムネとしては異例の2000円という価格設定にもかかわらず、多くの顧客に支持された。

EC専用の商品開発は難しいが、直接お客様の声が聞ける貴重な場

EC事業を本格化させる中、カンロは数多くの挑戦と、それに伴う失敗も経験してきた。その1つが、サブスクリプションサービスの「ポケサブ」だ。直営店である「ヒトツブカンロ」の「グミッツェル」や一般流通商品を毎月自由にカスタマイズできるサービスとして開始したが、継続率が70%以下と結果は芳しくなかった。

ECの強みは、顧客の声を直接聞けることです。継続していただいたユーザーの声に耳を傾けると、『なかなか手に入らないグミッツェルが毎月届くのがうれしい』『自分へのご褒美として利用している』というインサイトが見えてきました。この声に基づき、サービス内容を『グミッツェルが毎月必ず届き、プラスで月替わりの商品が楽しめる』という、ご褒美感のある形へシフトしました。これが功を奏し、継続率は90%近くを維持するサービスへと生まれ変わりました」

ECで売れるキャンディを開発するのは難しく、ECで買いたくなるような体験価値の設計が重要だ。「ホシフリラムネ」のように成功した商品もあれば、思ったような効果が得られなかった商品もある。

「e-sportsプレイヤー向けに集中力維持をコンセプトにした『BRAONグミ』は、プロe-sportsチームとの共同開発や東京ゲームショーへの出展も行いましたが、2000円という価格帯が継続購入につながらず、生産ロットも見合わなかったため販売を終了しました。また、文房具ブランドとコラボした商品は雑貨に寄せすぎたためキャンディと認識されず、販売継続には至りませんでした」

ファン化を支える「仕組み」と「対話」

持続的なファン化戦略の推進には、強固な基盤が不可欠だ。多くの企業が頭を悩ませるのが、事業部やブランドごとに分散した顧客情報の管理、つまり「ID統合の壁」である。

「最初に、全社的な取組として既存のコミュニティをクローズさせ、『Kanro POCKeT』に機能を集約する戦略を立てたことがスムーズな移行の要因となりました。2025年に、お客様とのタッチポイントとなる部署をCX推進部として統合できたことも大きな効果を発揮しています」

こうして基盤を整え、ファンとの「対話」の場となっているのがコミュニティサイト「Kanro POCKeT X」だ。ここでカンロが最も重視するのは、顧客同士の交流よりも「カンロ社員とお客様のコミュニケーション」である。

商品開発の紹介ページでは、企画担当者の顔写真を掲載するようにしています。また、コミュニティの運営では、お客様からの全コメントに、AIではなく完全に人の手で丁寧に返信をしています

顧客の声を直接聞く地道で丁寧な「対話」は、カンロの貴重な資産となっている。現在では、コミュニティの会員基盤を商品開発のアンケートやインタビュー調査に活用する動きも始まっているという。さらに、アンケートベースをもとにした調査では、ファン度が高い顧客ほど購入額も高い傾向が見られ、NPSと売上には統計的な相関も証明された。ファンを育むことが、事業の成長に直結する。その手応えが、社内での活動の価値をさらに高めている。

画像提供:カンロ株式会社(カンファレンス登壇資料より)

「コミュニティサイトは『お客様の声を聞ける貴重な場』として社内に浸透してきました。今の課題は、どの活動がロイヤリティ向上とファン化につながっていくのかが見えにくいことです。この部分を明確にするために、独自スコアの導入によって、よりファン化を促進していきたいと考えています」

武井 優
カンロ株式会社 マーケティング本部 CX推進部 チーフマネージャー
2010年、カンロに入社。情報システム、マーケティング、EC、広報を経験するなかで、各デジタル領域を担当。2021年にデジタルマーケティングを推進する全社プロジェクトのリーダーを務めたのち、デジタルコマース事業にて戦略立案・EC商品の開発・サイト運用を経験。現在は、広報・デジタルマーケティング・EC事業を通じて顧客をファンにすることをミッションにしたCX推進部のチーフマネージャーを務める。2024年ネットショップ担当者アワードMVP受賞。