CSをベネフィットセンターへ【CS無人解決率92%】アンドエスティの「CS×AI」戦略

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ECのミカタ編集部

株式会社アンドエスティHD コーポレート本部 カスタマーサクセス部 CS統括 兼 DX推進シニアMGR 宇都宮英氏

株式会社アンドエスティHD(以下、アンドエスティ)のCS(顧客体験)チームには、AIエージェントの活用を軸に、CSを単なる顧客対応部門から脱却させ、企業戦略上の貢献部門へと昇華させる強い意思がある。

無人解決率92%を達成した成果、元店舗経験者が推進する現場発のDX、コスト削減を超えて利益を生む「VOCポータル」の詳細など、AI時代のCS戦略について、同社CS部門のリーダーが解説する。

※本記事は2025年10月に開催した「ECのミカタ カンファレンス」でのセッションをレポートしたものです

【引き算戦略】 無人解決率92%を達成した現場のベストプラクティス

2025年9月、旧アダストリアはBtoC向けの商品展開だけでなく、BtoB領域のプラットフォーム事業も行うマルチグループへと移行し、新たなスタートを切った。リアル店舗とECの両輪で事業を展開する同社は、国内外に約1500店舗、自社ECサイトに2000万人超の会員を抱える一大アパレルグループだ。

宇都宮英氏が所属するCS部門は、リアル店舗・EC・飲食事業を横断的に支援する全方位型の組織であり、単なる顧客対応にとどまらず、顧客の声を活かしたサービス改善やAIによる業務効率化を推進している。ホールディングス化に伴い、CSはグループの中核に位置づけられ、ブランドリテール事業とプラットフォーム事業の両方を支える役割を担うことになった。

「会社の動きとして新しい企業や仲間、新サービスが増えていく中で、人口動態がシュリンクしている中でどういう風に広げていくのか。『繋げる・広げる』をキーワードにLTV貢献を目標にCS改革を推進しています」と宇都宮氏は語る。

その第一歩は、「効率化・コスト削減」だ。ECにおける顧客対応のチャネルであるチャット領域にAIエージェント「ALF」を導入した結果、有人対応なしで解決した問い合わせの割合を示す無人解決率は、従来の60%台から直近半期で92%を達成。これに伴い、有人対応が必要なかった割合を示す「有人対応削減率」も94.2%に達したという。

この高い自動解決率は、単なるツール導入の結果ではない。現場の知見を活かした地道な改善の「結果」である。

CSをコストセンターからベネフィットセンターへ進化させる3つのステップ

CSの強みは顧客の声を有益化できることだ。

「CSはサービスを『育てる』存在。マーケティングが“産む”なら、CSは顧客の声をもとに育て、時に逆説的に『産む』こともあります」(宇都宮氏)

そのプロセスは、引き算(業務効率化)、足し算(顧客体験向上)、掛け算(経営への貢献)の3段階を経て進化する(宇都宮氏)と言う。

CS戦略論(引き算・足し算・掛け算)

これら一連の取り組みを現場へ浸透させるのは容易ではない。DXチーム リーダーの木津せりか氏は、泥臭く取り組んだと表現する。いったいどのような仕組みなのだろうか。

株式会社アンドエスティHD コーポレート本部 カスタマーサクセス部 DXチーム リーダー 木津せりか氏

「無人対応のナレッジを蓄積・改善する『OODAサイクル』を回すことで、導入当初は60%台だった無人解決率が92%まで向上しました」(木津氏)

「OODA」サイクル

木津氏は、「OODA」サイクルを示しながら、次のように説明した。

Act(行動=ためす)
「OODAサイクル」左上の「行動」領域が「引き算」にあたり、顧客からの問い合わせの中身を分析。決定した施策(FAQの追加、システム設定の変更など)を実装し、現場で効果を検証する。

Observe(観察=確認する)
右上の「観察」領域は「足し算」にあたり、顧客の問い合わせログから、AIが回答できなかった「未解決」のケースや、オペレーターに引き継がれた内容を詳細に確認。ナレッジを蓄積する。例えば、ブランド販売領域でチャット(無人/有人)チャネルを活用したトライアルでは、コンバージョンへ貢献した。また、ブランドごとの問い合わせ傾向を分析し、AIと人の最適な役割分担を模索した結果、リーズナブルな価格帯のブランドではAIとの相性が良く、高価格帯ブランドでは有人対応のニーズが高いという知見を得た。

Orient/Decide(状況判断=わかる+意思決定=決める)
右下の「達成率」としての解決率を照らし合わせて、次の分析につなげていく領域が「掛け算」だ。確認された未解決の問い合わせ内容を分析し、FAQ補強の必要性や、チャット/フォーム運用の設定変更(リカバリー策)といった具体的な解決方法を決定。現在は、社内向けCS(ToE)にもAIエージェントを展開し本番実装に向けPoC中。人事部・本部・ヘルプデスクなどのナレッジを活かし、社内業務の効率化と従業員体験の向上を目指している。

攻めのCSへ転換――顧客の声を経営資源に変える「VOCポータル」の全貌

「CSの三段階」の中核を担うのが、AIと連携した「VOCポータル」だ。リアル店舗とECの両方から集まる顧客の声を一元化し、「ストアアナリティクス」「ウェブアナリティクス」といった視点でカテゴライズする。最終的に、営業・開発・MDに還元されて共通のレポートをもとに施策を検討できるよう設計されている。

一般的な売上分析に加え、「何がうれしかったか」「どんな体験が良かったか」といった“体験軸”の分析を重視しているのが特徴だ。定性的なコメントはAIによって要約・スコア化され、接客や店舗環境などの定量データとして可視化される。顧客の感情や満足度を数値で捉え、改善サイクルに活かすことはもちろん、現場の振り返り時間が大幅に短縮する“定量的なメリット”も大きい。

「AI技術をCSだけではなくて販売領域まで拡大し、顧客接点の知見を経営に生かす仕組みづくりを構想しています。例えば、カスタマージャーニーに則って各AI エージェントを設置し、顧客起点の課題解決のみならず、VOCを活用するデータドリブンは次世代のCSの大きな武器になると考えています」(木津氏)

VOCポータルとAIエージェントの連携は、CS領域のみの業務効率化にとどまらず、全社的なCX設計へ拡張していく構想もある。「カスタマーサクセスオーケストレーション」と定義し、その統合的な戦略について宇都宮氏は次のように説明する。

データドリブン
…CSが蓄積したデータを活用していく
デジタルマーケティング
…CRMや CDPと連携しながらLTV 施策に生かしていく
ベネフィットセンター
…AIエージェントによりコンタクトセンターをミニマム化
リテールマーケティング
…AI活用によりリアル・デジタル問わず新たな顧客体験を実現

「私も木津も文系で販売出身なので、顧客接点を大事にしています。DXやAXはあくまで手段であり、再定義を行い新しい価値を生み出すのは人間にしかできません。前提として、我々の『やりたい』を形にしてくれる優秀なDX本部メンバーの後ろ盾の存在も非常に大きいです。我々としては、現場経験者の強みを活かした顧客思考のクリエイティビティに最もバリューがあると考えています」(宇都宮氏)

CSを価値創出機能と捉え、チャレンジするアンドエスティのCSの挑戦は、アパレルECにおける新たなCS競争軸を提示している。