サントリーウエルネスが本気で取り組む「シニアの“ポジティブ”な未来」

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桑原 恵美子

全国1万1218票の一般投票で選ばれた「人生100年時代の物語大賞」第3回授賞式で挨拶するサントリーウエルネス株式会社 代表取締役社長 栗原勝範氏

競争が激しい健康・美容・サプリメント市場において、年間延べ約200万人以上の顧客と向き合い続けるサントリーウエルネス株式会社(以下、サントリーウエルネス)。同社は、高齢者施設の利用者や認知症の方々が“推し活”を通じて生きがいを取り戻す「Be supporters!(Beサポ!)」プロジェクトにおける「人生100年時代の物語大賞」など、ユニークかつ本質的な取り組みを拡大させている。

超高齢化が進む日本において、なぜ“推し活”や“物語”を軸にした事業を進めるのか。代表取締役社長の栗原勝範氏に、サントリーウエルネスが描く「幸福な人生」と「ECの未来」について聞いた。

推し活×ヘルスケアが絆を強める“幸福のエコシステム”

サントリーウエルネスが支援する「Be supporters!(以下、Beサポ!)」は、高齢者施設の利用者や認知症の方々がJリーグクラブのサポーターとして“誰かを応援する側”に回ること(推し活)を目指すプロジェクトだ。

コンセプトは「いくつになってもワクワクしたい、すべての人へ」。現在、参加施設は全国約230、参加者は延べ1万人に拡大し、医療・福祉・認知症・ウェルビーイング分野の専門家からも注目が高まっている。

2023年からは、参加者のストーリーを紹介する「人生100年時代の物語大賞」も開始され、同社の活動は“生きがい創出の場”として広がりを見せている。

「健康食品」と「シニアの推し活」は、一見、突飛な組み合わせにも思えるが、栗原社長はこの取り組みがサントリーグループのパーパス「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」にのっとった活動であり、事業推進の目的と完全に一致すると語る。

人生100年時代のシニアの豊かな生活文化を提案していく。それが私たちのミッションです。高齢化が進む日本では、シニアと社会課題を結びつけて話されることが多いですが、そうではなく、高齢期を“社会課題”として見るのではなく、幸福を実感できるフェーズとして再定義したいのです(栗原社長)

なぜサントリーウエルネスは、「幸福の実感」という生活者の“生きがい”にまで踏み込むのだろうか。

「今の日本ではシニア世代の存在が社会課題の一つとして捉えられがちです。しかし我々は、頑張った先に幸せな幸福が待っている社会になれば、日本全体の幸福度も上がると考えています」(栗原社長)

もちろん、一企業だけでそうした社会改革を実現することは難しい。そこで同社が注目するのが、ECを通じたコミュニティだ。

「ECというのは、非常に面白いコミュニティだと考えています。商品を売る場所だけではなく、私たちの商品を選んでくださる方々とのつながりを通じて価値観を共有する――そこにECの本質的な価値があります」(栗原社長)

そのために商品の提供だけでなく「Beサポ!」のような活動まで含めて総合的なウエルネスを実現する。それがサントリーウエルネスの考え方だ「コミュニティに参加するお客様と共に幸せな社会を作っていく」ことがサントリーウエルネスとしての最終的な目標なのだという。

「健康」は状態、「ウエルネス」はプロセス──幸福を測る新しい物差し

サントリーウエルネスが目指す「ウエルネス」とは何か。

栗原社長は「健康」との違いをこう表現する。

健康は“状態”を測る指標です。加齢で数値が少し悪くなるのは自然なことで、必ずしも幸福度と連動しません。一方ウエルネスは“生活のプロセス”を見るポジティブな考え方です(栗原社長)

「健康」「不健康」を判断する個々の指標はシニアにとってネガティブな部分を強調することになるが、「こうしたら毎日の生活が良くなる」というプロセスを基軸にすることで、おのずと幸福度が上昇すると同社は考える。年齢を重ねても「自分らしい生活をする」ことが目的であり、ウエルネスは健康よりも総合的でポジティブな概念だ。

健康状態を追うのではなく、生活の質を上げるプロセスに寄り添う発想が、サントリーウエルネスの根幹にある。

ECの価値は“長期の対話”にある──次世代の顧客とどうつながるか

時代は、物質的な豊かさからセルフケア・ウェルビーイングへシフトしている。その変化を踏まえ、栗原社長は次の10年を“転換期”と見る。

「これからの豊かさは、自分の心と体を大切にする生活の積み重ねからつくられます。タイパ・コスパ一辺倒の価値観から、セルフケアを重視するライフスタイルへ移っていくでしょう(栗原社長)

その中で鍵となるのが、ECによるダイレクトなコミュニケーションだ。

現状の主要顧客は70〜80代の団塊世代。電話・DMが中心である一方、今後はデジタルに慣れた団塊ジュニアが主要顧客層として加わる。

「今後コミュニケーションの主役はデジタルへ移行します。セキュリティ面での安全・安心を前提に、使いやすいデジタル接点を強化し、長期的な関係を築くことが必須です」(栗原社長)

競合の多い健康・美容・サプリメント市場で勝ち残るポイントも明確だ。

商品だけでは本当の意味でのお客様のウエルネスな状態に貢献できません。生活全体をサポートする“総合サービス”こそ強みになります。ECは長期で寄り添える仕組みですから、コミュニティ化を進めれば、独自の価値を提供できます」(栗原社長)

そして、今後の抱負を次のように語った。

「短期利益を追求するのではなくパーパスに基づく長期戦略に取り組むことができので、市場と顧客に対する我々の存在意義を第一に考えることができます。現時点の我々の結論は、「幸福寿命」の追求です。Beサポ!も参加者の精神面での改善が確認できていますので、科学的なエビデンスに基づく普遍モデルとして日本社会の新たな価値観として広げたいと考えています」(栗原社長)

サントリーウエルネスが描く未来は、「健康商品を売る会社」ではなく、「幸福を共創するEC企業」そのものだ。

笑顔と涙があふれた、物語の“主人公たち”が集う一日
第3回「人生100年時代の物語大賞」授賞式レポート

2025年12月、都内で「第3回 人生100年時代の物語大賞」が開催された。
全国1万1218票の一般投票によって選ばれた「3つの物語」と、「Be supporters!(Beサポ!)」を支える職員への表彰が行われ、会場は温かい拍手と笑顔に包まれた。

ステージでは、サントリーウエルネス株式会社 代表取締役社長 栗原勝範氏が挨拶。高齢者施設で生まれた「応援の力」が、生活の希望を照らし、周囲の人々まで変えていく――そんな“幸福寿命”の姿が語られた。

特別来賓として登壇した川淵三郎氏(Jリーグ初代チェアマン)は、涙を浮かべながら「皆さんの物語は、“誰かを応援する力” 生きる気力を生み、社会をもっと明るくする。シニアの皆さんがこんなに生き生きとされている姿に、89歳の私はとても励まされました」と述べた。そして、施設、家族、クラブ、そして企業との “つながり” がひとりの人生をこんなにも豊かにするBe supporters!の取り組みをプロ野球や他のプロスポーツにも広げたい、と語った。

左:川淵三郎氏(Jリーグ初代チェアマン)、右:栗原勝範氏(サントリーウエルネス株式会社 代表取締役社長)

ゴールド賞「あきらめない91歳、転んでも立ち上がるヨシコさんの物語」

(レノファ山口FC|医療法人真人会 はるかぜの丘 はるかぜデイサービスセンター)

91歳のヨシコさんは、テレビで見た“推し選手”を励みにリハビリを継続し、念願のスタジアム観戦を実現した。その後、選手が施設を訪問しサインをプレゼント。応援が「生きる力」となり、施設全体に笑顔の輪が広がった。

シルバー賞「応援の魔法がもたらした、介護現場での驚きの変化」

(川崎フロンターレ|社会福祉法人セイワ 介護老人福祉施設 鷲ヶ峯)

控えめで、周囲との関わりが少なかった女性が、Beサポ!をきっかけに変わった。初めてのスタジアム応援では太鼓とチャントに包まれた瞬間、表情がぱっと明るくなり、帰ってきた彼女は職員や利用者と積極的に会話するように。「応援には、人を開く力がある」と感じさせてくれる物語だ。

ブロンズ賞「4年ぶりに外の世界へ 〜植竹さんが教えてくれたこと〜」

(横浜FC|ReHOPE 東戸塚)

パーキンソン病を患い、4年間外出する機会がなかった植竹さん。しかし推し選手を応援したい一心でBeサポ!に参加し、息子さんとともにスタジアムへ。青い空の下で旗を振る姿は、観る人すべてに勇気を与えた。職員はこう語る。「挑戦し続ける姿が、私たちの背中を押してくれた」。

左:ゴールド賞「あきらめない91歳、転んでも立ち上がるヨシコさんの物語 」、中:シルバー賞「応援の魔法がもたらした、介護現場での驚きの変化」、ブロンズ賞「4年ぶりに外の世界へ~植竹さんが教えてくれたこと~」
画像提供:(左から)医療法人真人会 はるかぜの丘 はるかぜデイサービスセンター、社会福祉法人セイワ 介護老人福祉施設 鷲ヶ峯、ReHOPE 東戸塚

(写真提供:サントリーウエルネス株式会社)


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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