シップスの「店舗×自社EC×モール」再設計 【利益とブランドを守るチャネル戦略】
株式会社シップス DX本部 DX部 デジタルマーケティング課 課長 茅野充宏氏
店舗・自社EC・モールをどう使い分け、どう連携させるか――アパレルECにおいて、この問いは「売上」だけでなく「利益」と「ブランド価値」を左右する重要テーマだ。
株式会社シップスは「チャネルを競わせない」という明確な思想のもと、店舗・自社EC・モールを三位一体で運営する。「一物二価を避ける判断基準」「モール依存とどう向き合うか」「停滞した自社ECをどう立て直したのか」といった設計思想と具体策について、同社 DX本部の茅野充宏氏が解説する。
※本記事は2025年10月開催「ECのミカタ カンファレンス」の講演内容をもとに再構成しています
違和感を生まない体験設計の極意「SHIPSは店舗とECを分けない」
創業50年を迎えた株式会社シップスは、ファッションブランド「SHIPS」を中心に複数レーベルを展開し、全国約80店舗をすべて直営で運営する。売上構成は、店舗約6割、モール約3割、自社EC約1割と、リアルが依然として主軸を占める。
茅野氏は「どのチャネルも、シップスの理念やポリシーを伝える“同じ場”だと考えています」と述べ、「リアルかデジタルか」ではない視点を強調する。
シームレスな体験を実現するために、セールやキャンペーンは共通開催とし、会員制度も統一。店舗での取り置きや試着、来店予約、裾上げ、ギフトラッピングなどのサービスもECと連携させることで、顧客に「違和感のない購買体験」を提供している。
背景にあるのは、一物二価による不信感を生まないという明確な判断基準だ。
「ECだけが安い状態は、お客様にとって“違和感”になります。お客様から『シップスなら安心して買い物ができる』と感じていただくことを最優先しています」(茅野氏)
価格や施策ではなく、企業姿勢そのものを体験として揃える。これが、同社のチャネル設計の出発点だ。

(左)SHIPS公式サイト、(右)ZOZOTOWN「SHIPS」店舗
モールは武器にも、リスクにもなる
ZOZOTOWNや楽天などのモールは、新規顧客へのリーチや在庫連携の面で欠かせない存在だ。一方で、モール依存が進むほど、利益率とブランド価値は揺らぎやすくなる。
シップスでも、クーポンやタイムセールの常態化により「モールのほうが安い」という状態が生まれ、課題感が強まっていた。
そこで同社は、クーポンを従来の3本/月から2本に削減し、タイムセールも毎週から隔週へと段階的に変更。削減できたコストは、自社EC施策やZOZO ADなど、成長投資へ再配分した。
「どこに投資するか」を組み替えた点がポイントだ。
停滞した自社ECをどう立て直したか
コロナ禍で一時的に成長した自社ECは、その後3年間停滞していた。
モールよりも利益率の高い自社ECを再成長させるため、シップスは集客とCVR改善に集中した。
■集客の再設計
短期的には広告費を前年比2倍に増額し、代理店を変更。戦略とクリエイティブを刷新した。コミュニケーションの強化は、MAの全体配信数を増やしたほか、メルマガ、アプリプッシュ、LINEのシナリオを再構築して集客を増やしている。
中期的にはSEO対策を本格化。他社と比較して全体流入に対する自然検索流入の構成比が低く、伸びしろが大きいと判断されたためだ。
長期的にはスタッフInstagramを“個人施策”ではなくブランド資産として活用。スタッフを「インフルエンサー」として位置づけ、エンゲージメントを高めることで集客とブランディングの両立を図っている。
■CVR改善
最大の変化は、レビュー機能の導入だ。
「店舗購入・EC購入の両方から投稿できる設計にしたことで、レビューが一気に蓄積され始めました。これがCVR向上にも寄与しています」(茅野氏)
さらに、WEB接客のA/Bテストやカートページに顧客誘導のためのポップアップを導入するなど、細かなPDCAを回し続けている。
チャネル連携を支える「横断会議」
こうした施策を支えているのが、部署横断の「販売戦略会議」だ。CRMを軸に、商品部、店舗管理、プレス、販促、EC、デジタルマーケティングが参加し、納品スケジュール、強化商品の選定、チャネル別の打ち出し方を共有・調整している。
例えば、自社EC用に制作したコンテンツを、店舗協力のもとコーディネート掲載→アプリ・LINE・広告へ展開するなど、「チャネルをまたいで設計された連携」が日常的に行われている。
こうした細やかな配慮はクリエイティブ管理にも投影されている。広告からコンテンツ、商品詳細ページ、店舗に至るカスタマージャーニーが、「ビジュアルの温度差」によって離脱を招いては元も子もない。ブランドを守る上でも、クリエイティブ管理は重要であり、販促とプレスが一貫してコントロール。SNS投稿においても、フィードの世界観に合うかどうかを基準に、使い分けを徹底している。
若年層へ、「誰が」ブランドの魅力を語るか
日常の積み重ねが現在のシップスを形作っている。その先の成長戦略は、どうだろうか。
第一が、OMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの統合)。これは「揃った」段階から、「どう使ってもらうか」の段階へ移行している。
「メルマガを不要に設定するお客様は多いですが、メルマガの価値をEC上だけでは伝えきれません。こういう部分を店頭で説明できるのが、OMOの強みです」(茅野氏)
次に、One to Oneコミュニケーションだ。現在、CDP(顧客データプラットフォーム)を導入しているが、スタッフのコーディネート提案が店舗・ECの売上にどのように貢献しているかの可視化が中心だという。今後は、CRMデータ、購買履歴、会員属性、オンライン上の行動履歴、マーケティング施策の反応、LINEなどのコミュニケーションデータをCDPに統合し、配信・接客・広告の精度向上と効果測定へ広げていく構想だ。
そして第三が、ブランド認知の世代間ギャップである。
「若年層の認知不足は、明確に把握しています。従来のブランド価値に加えて、伝えきれていない“プラスアルファの魅力”をどう伝えていくかが課題です」(茅野氏)
そこで注目しているのが、社員による発信である。

社員自身が撮影、解説をしたコーディネート提案を投稿。(左)銀座店、(中)なんばパークス店、(右)SHIPS any WOMENS(画像はSHIPS公式サイト「ブログ」より)
「社員による発信は、売上への貢献だけでなく、採用・企業価値向上までを見据え、人事部門との連携を進めています」(茅野氏)
ブランド理念を軸に、「人・チャネル・データを横断して育てていく」シップスのチャネル戦略は、次のフェーズへと進み始めている。


