転落が僕を変えた。花業界の革命児〜店長のホンネ/楽天 

石郷“145”マナブ

今とは違かったあの日の「ゲキハナ」

 最初は、今とやっていることは”真逆”だった。しかし、あの時、”真逆”だったから、今がある。「石郷が行く!店長のホンネ」で今回、向かったのは、東京・昭島にある「ゲキハナ」と呼ばれる店舗。伺うと、少し奇抜な店長、古屋悟司さんが笑顔で迎え入れてくれた。冒頭の言葉の意味は、後できっと分かるだろう。

「ゲキハナ」という店舗のスタートは、名前からも察しがつくように、激安の花を売っている店舗だった。きっかけも実は安易で「花屋にしたのは、たまたま先輩が花屋をやっていたことで、先輩に教わりに行けたから」という。そんな古屋さんが、ネット通販に足を踏み入れたきっかけは、実店舗の開始から半年程経ってからの事で「ヤフオク」であった。「実店舗では1500円でも売れない花が、ヤフオクでは6000円程で売れていました。“それじゃ自分も!”と言って出品したら7000円程で売れて」と古屋さん。その頃は、実店舗の経営が思うようにいっていなかった事もあり「ヤフオク」に打ち込み始め、月の売上が毎月200万円にまで伸びた。そして、自社のネット通販店舗も立ち上げ、楽天市場にも出店する事となる。

 楽天では「その日に入ったお花をその日のうちに配送。締め切りは4時。早い、安い、けど、クオリティも高い」ということで、自分の店舗を売り出した。その打ち出し方が奏功したのと、自社のサイトでは用意できなかったクレジットカードの決済機能が楽天市場では備わってたことで開始早々好評。スタートから実に2週間での売上は98万円と飛ぶように売れた。

 冒頭、書いた”真逆”は、この「激安」時代とを比較して言っている。実は、今の「ゲキハナ」の売り方はそれとは180度の転換を図り、面影は微塵もない。なぜか。それは、楽天に出店してから6年経った後に実施された楽天市場のシステム変更にあった。それまではWEB上で1ページ縦に100個商品を並べることができる仕様だったのが、10個までしか並べることができないものに制限されてしまったのだ。今までであれば、同店が仕入れてきた花々を、お客様が「選んでかご入れる」という行為を繰り返していく、いわゆる“マルシェ”的な売り方ができていたのだが、システム変更により一切出来なくなった。一人当たりの単価は大幅に減少し、お客様の数も減少。「ゲキハナ」は実に3年もの間、減少し続け、この期間で良い時の売上の7割が消えて無くなった。ただ、恐ろしいのはそこからだったのではないかと思う。売上が一度下降気流に入り、利益が減れば、今度は資金繰りが厳しくなる。

会社に残る現金が減り続ける中で、彼が出した一つの光明

会社に残る現金が減り続ける中で、彼が出した一つの光明

 それどころか、当時の古屋さんは、売上だけを見ていて、利益を見ていなかった。極端な話であるが、売上が良い時は「今月はいくら入ってくるのだろう」そこにしか関心がいかない。あとは、単純に請求書の通り、支払うだけのことで「結果、口座にはいくら残ったな」そのくらいの感覚でも、やっていくことはできた。6年間、好調に推移していただけに、現にそうだったのだ。さぁこの口座にある現金でどう会社を経営していこうか。そう思ったに違いない。口座に残るお金を増やそうと、利益を取ろうと画策すれば、単価が上がるから売上は減少し、利益額は減少。当たり前だが、売上が減り、利益が減ったとしても、固定費は変わらないので、頭を悩ませる。何より苦しいのは、会社でまわせる現金が少なくなっていく中で、どうやってその規模感に合わせて、会社を生かし続けるかということなのだ。

 この下がっていく時に、彼は何を思ったかといえば、新規出店するなどして、違う食い扶持を探すといったことだった。180度、転換して、行き着いたのが「価値」を売るやり方だった。古屋さんが着想したのは、産地直送。花業界というのは市場(いちば)で価格が決められていた。市場では競りが行われ、花の生産者の言い値に反して、花屋が競り落とすという格好で、ビジネスが成り立っていた。だから、彼は花の「価値」を売るやり方の中で、まず適正価格でやっていこうと話した。生産者からその言い値で仕入れる代わりに、自分のところでは在庫を持たないし、お客様のもとへ直送して欲しい。そして、自分達はそれに見合った価値を提案する、と。

 ところが、一方で、仕入れ値が高くなり、小売価格も高くなったところで、その価格にふさわしい価値とは何か、古屋さんは悩み、ビジネス書を読み漁った。そこでヒントとなったのが「商品を最初から価値のないものと仮定して考えろ」という言葉で、そんな話をとある店舗とするうち「お花で言えば、届いた後からの方が仕事だよね」という話の中で、その後のやり方に結びついた。

花を売るのではなく、花を楽しむコトを売る

花を売るのではなく、花を楽しむコトを売る

 勿論、商品を詳細に渡り説明し、生産者の事まで触れたりして、WEBページでの説明は増やすなどしていた。だが、何より大きかったのは、購入していただいたお客様にきちんとした育て方のメールを送ることだった。花の育て方は、ネット上で検索しても出てくるじゃないかという人もいる。だが、古屋さんに言わせれば、それは正しい部分もあるけど、間違っている部分も結構あるという。例えていうなら、〜〜の花は、何月に〜〜をやりましょうと書いてあるが、実は、植物は何月になったから何をしましょうということでは決してない。その理由として「人でもそうじゃないですか。例えば、何月だから半袖になる、とかはなくて基本、気温や天気で動く。それは植物でも同じことなんです」と古屋さんは笑う。

 だから「この花の生育の適温は何度〜何度です。生育の適温だとこういうことが起こります。それよりずれて暑くなると、こうなります」という具合に植物も気温に置き換えて、一つ一つ丁寧に説明を添えた。これであれば、5月で30度を超えることがあっても、8月で寒い日があっても、それに左右されることなく、花は正しく育てられて、生き物だからそれに応えるようにスクスク育つ。お客様からの問い合わせも真摯に答えるのは、言うまでもない。お客様が花を育てることに楽しみを感じてもらう上で、枯れさせないということは絶対条件であり、「ゲキハナ」はこの育てる楽しい時間もひっくるめて、お客様に提供しているからこそ、その提案価格に納得して、継続して購入する人が出てきたのだろう。最近では、全10回のお花のメール講座もあって、もはや売っているのは、花ではない。花ではなく、花を楽しく育てるエンターテインメントを提供しているからこそ、価値があるのだ。

 ただ、僕が考えるに、ここからの動きが「ゲキハナ」の今の信頼を得るに足る行動だと思っている。自分の考え方を浸透させるべく、彼は生産者をまわるうち、生産者の実態と、彼らの抱える深刻な悩みに気がついたのだった。「競りのシステムのままであったら、売価が自分で決められないということなんです。コントロールできない売り上げほど怖いことはない。それでは、生産者はいつになっても、事業計画を描くことができず、これではこの業界が生き永らえていくのも困難となる」と。本来、それをコントロールするのが市場の役目ではあったのだろうが、市場のビジネスモデルは、売り上げに対して何パーセントという世界。だから、価格のバランスが崩れたら、安値しかつかないのなら物量を増やせという話になる。しかし、それは、生産者にとっては何のメリットもない話なのだ。

気持ちは生産者とともに。皆で花業界を変えていきましょう!

 彼はいつしかこう説明するようになった。「他で1,000円で売っているものが、「ゲキハナ」で2500円で売っていたら、誰も買わないし、そう簡単に売れるわけじゃないかもしれない。実際、今季は3鉢しか売れませんでしたということもあります。けれど、僕が言い続けてきたのは、1年2年じゃ結果はでないかもしれないけど、最終的に、僕みたいなところが増えて、仕入れを言い値で買ってもらえるような世界を作っていきたいんだ」と。「少しでも注文単価が上がれば、売り上げも上がる。花が栽培されるハウスの面積というのは決まっていて、(売価が)いくらになるかが決まってくれば、利益も決まってくるので、売り上げをいくらにすれば、自分達はやっていけるのか考えていけるようになる。いっぱい売れたらラッキーだし、売れなかったら、それを一緒に改善して、売り上げを上げていこうという話をしていったんです」と熱っぽく語る。

 彼にあるのは、同じ業界にいる、同じ住人だから、もっと良くして、全員が儲けていけるように変えていこうという一心であった。繰り返すが、冒頭記述した、安売りの時代の面影は微塵もない。今や多くの花の生産者から信頼を集め、花業界を少しずつ開花させ、改革する顔となった。そして、僕は、その発想とこの行動力は、在庫を持たずに商品が出来る、ネット通販という強みに裏付けされたからこそ、できたのだとも思う。ここでも、インターネット通販のもたらした意味を思い、一人の想いある店長に巡り会えたことを嬉しく思う。これからの花業界は、彼の志と共に、麗らかに咲く花のように、きっと明るく咲き誇る。

企画・編集 石郷“145” マナブ


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

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