長期的な目線と確かな戦略で、世界に羽ばたく企業を支援
観光目的の訪日外国人増加に伴い、日本の伝統工芸やサブカルチャーがブームになるなど、世界中で日本の商材が人気を集めている。日本から自国に帰国後、日本に興味を持ち続ける顧客が、欲しいものをECで購入できれば、さらに「日本需要」は加速することだろう。そんな海外の顧客を相手にECビジネスを展開する場合、国内ECと異なる点がいくつかある。その点を踏まえながら、海外に販路を広げるメリットは何なのか、イーベイ・ジャパン株式会社の事業本部長、佐藤丈彦氏に、越境ECの現状について伺った。
円安やインフラの充実からも 越境ECを始めるなら今が好機
―なぜ越境ECが注目を集めているのか、具体的な背景から教えてもらえますか?
近年、円安がすすみ、輸出ビジネスにとって海外参入のメリットが大きくなったことが理由のひとつにあげられます。
基本的に、円安の状況は輸出の価格差で勝負しやすく、ドルで販売して日本円に換金すると、キャッシュが多く入ってきます。そういった背景にビジネスチャンスが見えるようになってきたことは、国内販売に注力し、なかなか踏み出せなかったショップ様に対しても、越境進出への期待を高める要因となっています。
イーベイ・ジャパンは、2010年より、越境ECビジネスに乗り出す企業様を支援する領域に特化し、運営しています。特に2014年の後半から今年にかけて、メディアなどにも取り上げて頂き、「日本からの販売商品」に対するニーズやマーケットの拡大が、徐々に広がってきていると感じるようになりました。こういった動きが「越境EC」というひとつの事業領域に対して、関心を集めている一因ではないかと考えています。
もちろん、国内のEC市場も伸びていますし、今後もさらなる発展が期待できますが、その成長率は海外マーケットのほうが大きい、というのが事実です。
経済産業省調べによると、2020年には国内EC市場は20兆円規模になるとも言われていますが、2030年以降、15才~65才の最も買い物をする層が半分以下に減り続けるという統計も出ているのです(総務省統計局調べ)。そういったことを考えると、マーケットが成長しても、国内市場だけでの展開では、今以上の伸びは期待が難しいかもしれません。
現在の日本の人口は、総務省調べによると、1億2,000万人に対し、全世界の先進国人口は約72億人です。また、2014年の市場規模でも176兆円。今後それらの国の人口増加やEC化率の加速を考えると、この潜在的顧客を逃すべきではないと思います。
―ブームで世界中の関心を集めている部分と、マーケット自体の展望との裏付けが、進出への追い風となっているのですね?
はい、越境ECは、国をまたいで商品を配送することになるので、日本国内配送との違いに不安を感じる事があったと思いますが、国内の大手企業や物流会社も含め、流通のインフラを整えようという動きがここ数年で大きくなってきています。また、流通網だけでなく、出品から販売、海外のお客様へ届けるまでという一連の流れを代行するサービス等も提供されつつあるので、越境EC進出の追い風になっていると思います。
言語や商習慣の違いを分析し、効率的な販路戦略を構築する。
―全世界に販路を広げることで生じるリスクなどはあるのでしょうか?
ゼロではありません。越境ECを始めるにあたって、言語、物流、販売でのオペレーションに若干戸惑う事があると思います。海外販売においては、ある程度の英語力は必要ですし、外部のサードパーティの利用に関わらず、新しいオペレーションを構築しなければならないケースもあります。
例えば物流に関して、国内ではヤマト運輸や佐川急便などのクオリティの高い発送ソリューションがありますが、そこに海外発送に強い日本郵便、EMSや国際郵便を追加するとなると、システム改訂が必要となる場合もあるため、不安に感じるショップ様も少なくありません。
また、実際に取引が始まると、コミュニケーションや文化、考え方の違いも発生します。日本人同士では、ある程度の常識を共有し理解があって取引ができますが、同じ接し方が海外の顧客に通用するとは限りません。異言語かつ、違う文化圏に「商品を届けて売る」ためには、コミュニケーションを含めた取引先の商習慣をある程度理解する必要があります。ただ、これは日本国内で、お客様の立場にたった丁寧な対応をしていれば、リスクではなく強みに変わります。これらも含め、長期的なオペレーションの構築と捉えてしっかりと準備を行う事が、越境EC進出の成功につながると言えると思います。
―では、具体的に越境ECをサポートしている御社の強みとはどんな所でしょう?
最大の強みは、イーベイでショッピングをしているお客様の人数です。直近の発表では1億5,700万人。昨年の取扱高は830億ドル。モバイルでの購入も280億ドルと伸びています。さらにイーベイは190カ国のお客様にリーチすることができるので、ほぼ世界中の販路を網羅していることも私たちの強みだと自負しています。
それに加え、イーベイでは昔からお客様からのフィードバックを集める仕組みがあります。ショップ様が、カスタマーサポートも含めてどのようなサービスを提供しているか、ひと目で分かるので、世界中のお客様が安心してショッピングをできる環境を整っているのです。
上質なフィードバックは、時間をかけてお客様と真摯に向き合った結果として造られていくものです。いざ海外に販路を持つことが当然となった際に、競合店の中でも早い段階で実績を構築してきたショップ様に人気が集まるのは、不思議なことではないですよね。
そもそも、越境EC進出の最大のメリットは、大きな柱となりえる可能性がある販売チャネルを得られることです。国内のショップ様は、1つのサイトだけでなく、そこで得られないお客様を集めるため、他のショッピングモールなどで販路を増やすことを当たり前としています。私たちの強みである多数の海外のお客様へのアプローチは、そのようなイメージで利用して頂けると考えています。
―実際にイーベイを導入するフローを教えて下さい。
まずアカウントを無料で作って頂き、次に決済分野の「ペイパル」のアカウントと紐付け、売上や手数料の支払いも一括で行えるようにします。
出品方法もいくつか用意していて、1出品ずつサイト上で登録していく方法や、一括出品ツールを使ってアップロードする方法、APIを使ってシステマチックに大量に出品する方もあります。登録は簡単ですが、ペイパルの認証に2週間程度かかることもあるので、その程度の準備期間が必要だと思っていただければと思います。
実際に販売を始めると、英語にはなりますが、メールや電話サポートにも対応していますし、FAQも充実していますので、悩んだ時にも安心していただけると思います。また大規模ショップ様には日本人コンサルタントが支援させていただくこともあります。元々イーベイは欧米、欧州に強いのですが、日本ブームに湧いているその他地域にも販路を広げるお手伝いができると考えています。
どの商材や地域に人気が集まるかの、テストマーケティングが非常に重要
―既に越境ECで成功しているショップ様は、どんな商材を扱っていてどんな工夫をしているのですか?
海外から商品を買うのに、近場で安く買える商品をわざわざ購入しませんよね。イーベイでも日本からしか買えない商材を扱っているショップ様はやはり人気もありますし、売上も高いです。
実際に越境ECで成功されているショップ様の具体例を挙げると、茶器、着物、額縁、扇子などの日本の骨董品を扱っているショップ様がいます。元々、海外販売は自社で行なっていましたが、販路拡大の為、イーベイをご利用いただくことになりました。イーベイ開始当初から在庫連動ツールを導入し、煩雑な作業を少なくしてマーチャンダイジングに時間を充てることで、順調に売上を伸ばしています。
また、ゲームやおもちゃで成功されているショップ様は、日本のゲームが海外で高く売れることを知り、国内でのオンライン販売を経験しないまま海外販売を始めました。国内では需要が少ないものでも、海外で評価されるケースは多く、大量に安価で仕入れをし、在庫倉庫を地方にすることでコストも抑えています。このショップ様のように、海外で求められている物を的確に捉えることが成功に繋がるポイントのひとつです。
他にも時計、指輪、バックなどの中古ブランド品を扱って、国内よりも海外の方が利益率の高い商品を積極的にイーベイに回し、売上を伸ばしているショップ様もいらっしゃいますね。
イーベイでのマーチャンダイジングが効率的な理由として、出品された商品を様々な国のお客様が見に来てくれるということが挙げられます。申し上げた通り、最大で190カ国分のチャンスがあるので、その国ごとの商習慣や購買者属性のリサーチデータが出来上がります。バイクパーツを商材にしている方がいて、北米からのマーチャンダイジングから、販路を拡大したイギリスでグンと売上を伸ばし、全体的な業績の底上げに繋がっています。逆に売りにくい商材ももちろんあり、同じ形のノンブランド品などは、国境間での差別化がうまくできず、売上が上がらないといったケースも見受けられます。
―今、越境ECに取り組むメリットを教えてください。
今、日本にはたくさんの外国人観光客が来ています。さらに2020年には五輪があり、インバウンドの顧客がさらに増えるでしょう。来日した際に、初めて手にした日本の商品を、帰国してからも購入したいと思った時に、ECが力を発揮するのです。
さらに、2020年以降のチャンスを手にする為には、今からが準備や下地を作る上で重要な時間になります。競合店が増える前に、より多くのお客様から良いフィードバックを得て、ノウハウを溜めておくことは大切な財産になるはずです。
自分が扱っている商材を海外のお客様が求めているのか、将来の市場を広げることも含め、越境ECを本格的に検討することは決して無駄になることではありません。
イーベイは今年20周年を迎え、業界では世界最大級のマーケットプレイスです。日本語で情報提供するなど、サポート環境を構築しております。自社の商材が海外へのチャンスに繋がるとお考えであれば、越境進出への波に乗り遅れないよう、しっかりとタイミングを見定めてください。そして、イーベイ・ジャパンは、越境ECを考えていらっしゃるショップ様のよきパートナーとなるべく、これからも尽力していきます。
<ECのミカタ通信 2015AUTUMN vol.10より抜粋>